LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

02/4/30   渋谷 7th Floor

出演:片山広明セッション
 (片山広明:ts、板橋文夫:p、井野信義:b、芳垣安洋:ds)


「quatre」レコ発ライブの本日は、大盛況の観客。70〜80人くらい入ったのでは。
 開演前にメンバー紹介する片山広明を「あがってるの?」って井野信義がからかい、「あがってるさ〜」って片山が笑う一幕も。

<セットリスト>

1.ナイロビの夜
2.March
3.Hallelujah
 (休憩)
4.For you
5.パリの空の下
6.首の差で
7.Quatre
8.Lady`s blues
 (アンコール)
9.ナイロビの星

 「インプロ」を除いて、アルバム収録曲を(ボーナスディスクも含め)全て演奏する、いかにもレコ発らしい丁寧な選曲だ。
 (1)は板橋文夫の"Mix Dynamite Trio"の曲だそう。

 このメンバーでのライブはけっこう珍しい。
 芳垣安洋以外の3人は板橋文夫オーケストラで共演してるから、その人脈+渋さ経由で芳垣をさそったのかな。

 まずはゆったりとしたメロディの(1)からスタート。
 きちんとソロ回しをする、丁寧なアレンジだった。
 板橋のピアノは初めて聴いたが、アフリカの雰囲気を感じさせるピアノ。
 ダラー・ブランドとかランディ・ウエストンとか。あそこらへんを連想した。

 もっとも板橋の弾くピアノは、ぐっとフリー寄り。
 握りこぶしでクラスターを響かせ、指を交差して激しく鍵盤を引っ叩くパーカッシブな奏法を多用。
 しょっちゅうコード感があいまいになる、強烈なピアノだった。

 いっぽう井野のベースは実に着実。フリーよりのプレイを時折聴かせるものの、じっくりと弦をはじいていた。
 
 芳垣のドラミングは、今夜もシャープで爽快。
 チャイナを浮かせぎみにシンバルへスタックさせ、下のシンバルとの打ち分けを巧みに行う。
 滑らかに連打したかと思えば、重ねた隙間にスティックを突っ込んでカチャカチャひっぱたく。
 
 タム1つだけのシンプルなセットの上を素早く腕が動き、音をばら撒くいかしたプレイ。曲によってはブラシやマレットもするっと使い分ける。
 フィルは控えめ。切れ味鋭いリズムキープだけで、存在感を出していた。

 そして主役の片山。テナーをぶっとく軋ませるのはいつもどおり。
 今夜は豪放さより、メロディを大切に吹いているように聴こえた。

 「march」で芳垣の規則正しいドラミングにノり、盛り上がったあと。
 怒涛の名演を聴かせたのが「ハレルヤ」だった。

 まずイントロで、板橋がグランドピアノの中に腕を突っ込み、ピアノ線を爪弾きながらメロディを弾く。
 単なる余興ではなく、じっくりその奏法を聴かせてくれた。
 鍵盤と組み合わせた、プリペアード風の響きも面白かったな。

 イントロのなんともダンディなこと・・・。
 片山はいきなりテーマを吹かず、イントロからきちんと演奏していた。
 
 ソロでもインパクト強かったのが板橋。
 演奏の盛り上がりにそって、なんども腰を浮かせ鍵盤をぶん殴る。
 クラスター中心になった場合でも、せいぜい拳くらい。ノイズ中心のソロにはならない。
 手のひらを広げて、何度も何度もグリサンドする。
 途中でピアニカを持ち出し、ぶかぶか吹きながら和音を弾いていた。

 板橋はじっと座ってピアノを弾いてなんかいやしない。
 なんども立ったり座ったり。興が乗るまま、奔放に弾き続ける。
 汗が噴出し、頭を振るたびに滴っていた。

 井野はアルコでソロを取る。
 そして片山も熱気に任せてテナーを振り上げ、高らかに吼えた。 
 全員の音が凝縮して突っ走る。ボリュームたっぷりな熱演だった。

 さすがにここで休憩。20分以上「ハレルヤ」をやってたんじゃないかな。
 前半セットは3曲で、約50分くらい。
 開場に制限があるのか休憩時間も20分くらいで、すぐに第二セットが始まった。

 正直なとこ前半の「ハレルヤ」に勝るテンションまで、後半は盛り上がらなかったかな。
 
 さほどソロ回しもせずあっさり終った「For you」に続き、ぐいぐい押してくる「パリの空の下」。
 この「パリの空の下」は、ついフェダインと聴き比べてしまった。
 ピアノがしっかりバッキングし、さらに音数少なめにつっぱしる今夜の演奏も、素晴らしかった。

 「首の差で」は探り合うような、小さな音のフリーがイントロ。
 そして中盤で、怒涛のフリージャズを聴かせたのが「Quatre」だった。
 全員がガシガシに突き進むのに、ユーモアや余裕を感じるフリーなのが面白い。

 「Quatre」の冒頭部だったかな?
 井野がアルミの灰皿で弦をこすりはじめた。
 アルコのように弾きつつ、弦のあちこちへ押し当ててると、片山が一言二言なにか言う。
 にやりと笑い、ぽんっと灰皿を投げ捨て、演奏を続けるさまがかっこよかったな。

 「会場の都合であんまり長く出来ないので・・・」と片山が断ったあと、ステージ最後の曲、「レイディズ・ブルーズ」。
 ピアッシングしたシンバルを芳垣が叩くたび、じんわりと複雑な響きが店内を満たす。
 
 ゆったりリラックスしたところで、片山のメンバー紹介。
 観客が拍手する中、板橋がピアノをポロポロと引き続ける。
 結局ステージを降りることなく、そのままアンコールへ繋げた。
 演奏を終了したあと、片山がメンバーとがっしり握手。客席を通って、ステージを去っていった。

 今夜は全般的にロマンティックな演奏が多かったと思う。
 強烈なフリージャズの真っ最中でも、じっくりと落ち着いて聴けた。
 「ハレルヤ」の猛烈な盛り上がりのときは、そんなこと考えてられなかったけど。

 ひとつ文句をいいたいのが、会場へ移動する手段の貧弱さ。
 6人乗りのエレベータひとつしかない。100人弱の観客がハケるのに時間がかかること・・・。
 かといって7階だから階段も・・・やだなぁ。ま、まぁとにかく。何とかして欲しいです。

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