LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

02/1/8   吉祥寺 アケタの店

出演:明田川荘之セッション
  (明田川荘之:p,オカリーナ、松本健一:ts、望月英明:b、楠本卓司:ds)


 明田川荘之の所有するライブハウス、アケタの店で年始めセッションが行われた。
 リズム隊にベテランを配置し、サックスには若手新鋭を抜擢した構図だ。
 ドラムは去年8月や10月に、同店で行われたセッションでも共演した楠本卓司。
 望月英明+楠本卓司でのリズム隊を聴くのは、一昨年8月の明田川セッション以来になる。

(セットリスト)
1・I close my eyes
2・シア
3・プレース・エバン
4・越後の乳配り
 (休憩)
5・侍一本ブルーズ
6・Take the A-Train
7・チンギスハーンの二頭の駿馬
8・テツ
9・アケタズ・グロテスク

 1,6,7以外は全て明田川のオリジナル。
 2は林栄一に捧げられた曲だそう。聴くの、多分始めて。
 「プレース・エバン」は比較的最近作曲したという。

 1や7は最近の明田川のライブでは定番な曲。5や8も馴染み深いメロディ。
 そこで、ほとんどライブで聴いた記憶ない9を演奏したのが嬉しい。
 てっきりしっとりめの「テツ」でライブをしめるかと思った。

 一曲目はサックスを抜いた3人でほのぼのと「I close my eyes」から。
 彼のピアノを聴いてると、じわっと暖かさが伝わってくる。
 早くも明田川が唸り始めた。
 マイク・バランスの関係か、ほとんどベースの音が聴こえず残念。

 楠本卓司のドラミングは、かなり硬めなタッチ。
 鋲入りのシンバルやハイハットをジャリジャリ鳴らし、錆びた音色のリズムを聴かせる。
 途中で若干ビートがつっこみ気味に変化したような。

 「シア」のイントロは、明田川のオカリナソロが入る。
 ケースを開けて取り出すとき「あれ?破片があるよ・・・もしかして壊れたのか?一番大切にしてるオカリナなのに」って、明田川が慌てる一幕があった。

 結果的には、とくに壊れてもおらず無事だったみたい。
 気を取り直して、ゆったりメロディを吹き始めた。店内に広がるオカリナの音色が心地よい。

 テーマに入ると、がらりと曲の雰囲気が変わった。
 断片的にメロディが提示される、緊張感のある曲だ。
 楠本の硬質なドラミングが、ぴったりはまった。
 ひとしきりトリオ編成で演奏したあと、明田川のアイコンタクトで、店内隅に座って聴いてた松本健一を呼び出す。

 このテナー・ソロが素晴らしい。ちょっとかすれぎみな音から始め、次第に音へパワーがみなぎってくる。
 たっぷり時間を取って、豪快なソロを披露した。
 明田川はタンバリンを手にし、ハードに連打する。
 ときおり、数音だけピアノでテーマのメロディを挿入。
 疾走感があって、かっこいいアレンジだった。

 続いてドラムのソロ。手数多く叩くのではなく、シンプルなフィルを徐々に崩していくような感じだった。
 派手さはないのに、存在感溢れる演奏だ。

 そして、第一部の山場が3曲目。第二部でも演奏した「チンギスハーン〜」を連想するような、雄大なメロディ。
 次々展開するコードの響きが複雑でたまらなくいかしてる。
 テーマを聴いてるだけで、穏やかな気持ちになってきた。
 ちなみにこの曲でも、オカリナのソロがイントロ。

 サックス・ソロへ移った時に、がらりと音像の雰囲気がかわった。
 松本のブロウが元気あったせいもあり、ぐいぐい空気が熱くなってくる。
 力強さと雄大さの両方が楽しめた。明田川がバッキングで、テーマの和音を弾き続ける。いつまでもこの演奏を聴いていたい。
 実際、演奏自体もかなり長尺だった。

 前半最後の曲は、明田川の日本情緒性がかなり前面に出た曲。
 ところが、サックスが朗々とテーマを吹いた途端、イメージが変わって聞こえた。こういう解釈もあるんだ。
 太いサックスがメロディをなぞるだけで、がらりと音が黒っぽくなる。
 今までなんどかこの曲を聴いたが、今夜の演奏はすごく新鮮な味わいだった。

 前半は約70分。しばしの休憩が入る。
 BGMに先日リリースされた、明田川のフィンランド・ライブ盤を流していた。

 休憩は30分弱。第二部の演奏が始まると、すこしベースの音が大きくなっていた。
 もっとも、ほかの3人がフルパワーで演奏すると、やっぱり音が埋もれちゃったけど。

 望月英明は、終始落着いた演奏だった。
 他の3人がすっ飛びはじめても、じわっとリズムをキープする。
 それぞれの音の合間に、さらっと聴こえる音使いもいい。
 さりげないなくも、渋く光る味わい深い音選びだった。

 後半は2曲目の演奏に惹きつけられた。
 まずは明田川のオカリナソロ。数本のオカリナを何度も持ち替え、優しくメロディを吹く。微妙なビブラートがかかった音色だ。

 そしてトリオ演奏。サックスソロが入った時点で・・・どしゃめしゃにフリーな演奏へ早変わり。
 明田川の肘打ちが始まる。鍵盤に何度も蹴りまで入れた。
 音量は全員フォルテシモ。クラスター音が響き渡る。

 楠本のドラミングは、どんどんワイルドになってくる。
 リズムキープよりも、パーカッシブさに重点をおいてる感じがした。

 混沌とした音世界がえんえん続き・・・さらりとピアノが、テーマの一節を弾く。

 その瞬間。
 がらりとオーソドックスなジャズに急変した。
 いきなり耳なじみやすい演奏で「A列車で行こう」が流れる。
 素早い展開のアレンジが、べらぼうにかっこよかった。
 
 「チンギスハーンの二頭の駿馬」は一転して、再びロマンティックな雰囲気が強調された。
 スケール大きく和音が展開していき、リラックスできる。
  
 つづく「テツ」も好きなメロディ。
 男が一人、ぼそっとつぶやいているような落着いた旋律だ。
 松本は循環呼吸で、えんえんとソロを続ける。
 頬を膨らませながら、ひとときも途切れることなく太い音色で吹きまくった。
 楠本はマレットを使用。フロアタムが深く響く。

 4曲目のエンディングはちょっと腰砕け。
 テナーサックスのソロからベースソロに行くはずだったらしいが、なぜか望月がソロへ移行せず。
 明田川がきょとんとしながら演奏を止め、しばし楠本がハイハットを叩いていた。
 そのままドラムも演奏を中断し、なし崩しにエンディングになってしまった。

 にしても、今夜はリズム隊の役割分担が絶妙だった。
 単なるバッキングに終始せず、誰かがソロのときもぐいぐい切り込んでくる。
 全員の音が絡み合う、素晴らしいアンサンブルを堪能できた。

 この時点で、すでに後半も1時間経過。てっきりここでエンディングかと思ってたのに。
 「アケタズ・グロテスク」が始まった。モダンジャズ風のハイテンションな曲。

 サウンドはここぞとばかりにフリーな盛り上がりを見せる。
 明田川、楠本、松本の3人がすさまじい勢いで音を噴出させてるのに。 
 望月がクールな表情で、淡々と演奏してたのが面白かった。
 
 ウッドベースを抱え込み、左手はさまざまなポジションを行き来する。
 ときに指先で、激しく弦をはじく。もうちょっとでかい音で、彼の音を聴きたかったぞ。

 終わってみれば第二セットも70分と、内容・時間ともに濃く充実したライブだった。
 なのに、観客は6〜7人だけ。もったいなや。

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