LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

01/12/21   新宿 Pit-inn

出演:梅津和時スペシャル・ユニット 

 (梅津和時:as、仙波清彦:ds,perc、サム・ベネット:per,samples、清水一登:kb)


 ピットインでの梅津3days「冬のブリブリ!」。
 最終夜として、特別編成でのライブが行われた。
 (ちなみに初日はベツニ・ナンモ・クレズマーで、2日目がKIKI)

 パンフや表の看板には太田恵資の名前もあったが、実際には参加できず。
 なんでもトリプル・ブッキングになっていて、今夜は神戸で宇崎竜堂と共演らしい。

 初雪が降った寒い夜のせいか、客の出足はいまいち。50人越えくらいかな。ピットインが半分くらい埋まった。
 入場すると清水一登が最後の調整で、キーボードをぱこぱこ弾いていた。

 ライブが始まったのは20時10分くらい。
 上手から、ベネット、仙波、梅津、清水の並び。
 梅津はステージ中央でなく、下手のピアノへ寄りかかる格好で立つ。
 なので仙波の演奏がよく見えて嬉しい。
 彼の演奏を生で見るのは初めて。だから、手さばきをぜひじっくり見てみたかったんだ。

 まずはベネットが機材をいじって電子音を出す。
 テーブルの上に機材をいっぱい積み上げ、コードがさまざまにうねる。
 コードやボタンに触れると音が変わるが、どんな操作してたかは謎です。

 ベネットの音にのって、仙波や清水が静かに音を重ねていく。 
 そこへ梅津が、きれいなメロディで切り込んでいった。

 ベネットがサンプラーで高速エレクトロ・ビートを提示する。
 仙波もエレクトリックパッドを、平手で威勢良くたたき始めた。
 清水は一本指で、パーカッシブにキーボードを叩く。
 そこでひたすら、梅津の朗々としたメロディが強調された。

 今夜の基本路線は、ぜんぶこんな感じ。電子ビート・ジャズだった。
 ともすればえらく中途半端なアレンジになりがちなのに。
 せわしなく刻む電子ビートをミュージシャン全員が、完全に自分の音でねじ伏せ、グルーヴ溢れるジャズを聴かせてくれた。

 素晴らしく刺激的な瞬間がいっぱい。
 個人のテクニックの確かさが、演奏に緊張感とユーモアを共存させる。
 ぼくは夢中で聴いていた。

 選曲はすべてジャズのスタンダード。各セット5曲で、計10曲演奏された。
 各セットの終わりに梅津がMCで曲目紹介したけど、早口で覚えきれません。すんません。

 一曲目は梅津のサックスがいちばん目立っていた。
 他のミュージシャンは控えめな音。比較的ベネットの電気ノイズが対等にわたりあっていたかな。

 一曲目が終わり、拍手が続く中。
 仙波がすぐさまダンドゥット・ボンゴを叩きだした。
 この曲から仙波の演奏が面白くなってくる。

 さまざまなパーカッションを一節ごとに持ち出しては、絶妙のタイミングでおかずとして挿入。
 右手だけで超高速な連打を叩き込むのが、驚異的だった。

 どの曲も比較的アレンジは自由だったはず。特にベネットは好き放題にノイズをばら撒いていた。
 清水も譜面はあるものの。和音感を常に出す立場か、奔放な演奏っぷり。
 もちろん梅津もフリーに吹きまくる。

 そんな、各個人の個性がぶつかり合う中。
 仙波はパーカッションを手に各メンバーの演奏へ視線を投げ、効果的なタイミングを狙うのが印象的だった。
 パーカッションを手に取り、鳴らそうと準備しつつも、音像に合わないと思ったらいさぎよく別のパーカッションに取り替えていた。

 今夜はフリーな演奏といいつつ、とても聴きやすいサウンド。
 梅津がメロディアスなソロを強調していたせいだろう。いちばんノイジーだったベネットを包み込んでいた。

 さらに全員のビート感が絶妙。
 基本ビートはベネットのエレクトロ・ビートなはず。
 だけど、誰一人として(ベネット本人も)そのビートに従わない。
 てんでにリズムを繰り出し、多重ビートでうねりだす。
 特に仙波のリズムが正確無比。マシンが二台あるみたいだった。

 第一セット3曲目はアート・ブレイキー「モーニン」。
 テーマのカウンター・メロディを、清水がふにゃっと脱力する音色で再現する。
 不安定なコード感で演奏するもんだから、おそろしく落着かない「モーニン」だった。
 
 ベネットの存在感でサウンドを引っ張ったのが4曲目か。
 エレクトロ・ビートを提示せず、サンプラーで人声を何重にも重ねる。
 長尺のパターンが、ビートなしのテクノみたいで面白かった。

 前半戦最後は「ロンリー・ウーマン」。
 ここでやっと、仙波の激しい演奏を堪能できた。
 ちいさなジャンベ風パーカッションをひざにはさみ、猛烈なテンポで叩く。
 リズムボックスの速いビートに、仙波の連打がピタリと吸い付き離れなかった。恐るべし。

 途中で演奏のボリュームが下がる。
 「終わりかな?」と思ってると、ベネットが口笛を吹きはじめた。
 梅津が口笛であわせる。そして静かに梅津が歌いだした。

 仙波は、椅子の上でツイスト風に腰を振り、キイキイ椅子を鳴らしてリズムを出す。観客席から笑いが漏れた。
 次に仙波が竹とんぼのようなパーカッションを持ち出す。
 鉄製で、羽の部分が鎖になっており、羽を回転することで周りを叩いて音を出す楽器。 
 これでシンバルや床を叩きだす。しまいにはステージ前へやってきて、ピアノやベネットの機材までも鳴らしていた。

 第一部はこの曲でおしまい。
 しばしの休憩をはさんだ第二部では、まずは清水のピアノが印象に残ったかな。
 グランドピアノのなかに手を突っ込み、強引にミュートするようなトリッキーな奏法もしていたが。
 ときおりみせる、美しいピアノソロがかっこよかった。

 比較的今夜はテクニックを前面に出さず、打楽器的なキーボードだったけど。
 たまに両手の指をわさわさ躍らせ、魅力的なソロを披露していた。

 後半は「ブルー・モンク」「ベムシャ・スイング」をまず演奏。
 「ベムシャ・スイング」では、まずベネットがサンプラーで、いびつなメロディを提示する。

 リズム隊の二人がベネットとあわせテクノ風に盛り上がったとこへ、梅津のサックスがテーマを暖かく吹く。
 電子ビートと生演奏が、ぴたりと溶け合った感じですてきだったな。
 
 そして圧巻が第二セット4曲目に演奏された「ネイマ」。
 ここまでアップテンポばかりだったが、初めてバラードが演奏される。
 ゆったりとした音像がステージから広がり、思い切りリラックスした。
 雰囲気はあくまで優しい。
 仙波が繰り出すオカズのビートがアクセント。まったく飽きない。いつまでもこの曲が続いて欲しかった。
 
 最終曲の前に、曲紹介や告知など。
 ベネットがサンプラーでリズムを出すと、仙波と清水がすかさず合わせる。
 梅津がそこに乗り、ラップ風にメンバー紹介を即興ではじめたのが面白かった。

 最後の曲はアップテンポで賑やかに決め、すぐさまメンバーはステージから降りてしまう。
 アンコールは残念ながらなし。梅津が出てきて説明したが、この10曲しかリハをしてないそうだ。

 最初から最後まで、充実した演奏だった。ぜひCD化して欲しいな。
 一回こっきりにするには、あまりにももったいない。とびきりの時間を味わえた。

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