LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

01/11/2  恵比寿 みるく

  
〜秋田昌美ナイト〜
出演:MERZBOW(秋田昌美)、JAZZKAMMER、DEFILED、BORIS


 ひたすら豪音を浴びた夜だった。

 メルツバウの秋田昌美がコーディネイトした本イベントは、徹頭徹尾ノイズばかり。
 さみしい動員だろうとたかをくくってたら大間違い。
 みるくのフロアはぎっしり満員。100人以上入ったかな。
 オールナイトなのに、腰掛けるスペースを見つけるにも一苦労。
 ステージからひっきりなしにふりそそぐハーシュノイズとあいまって、壮絶な夜だった。

 ライブの開演はあっさり押す。困ったのは「タイムテーブル」や「司会」が存在しないこと。
 たまたまスタッフが別の客へ説明してるのを横で聴き、今夜の流れは事前に大体把握できた。
 ところがいざ始まると、ライブとライブのあいだにどのくらい時間がかかるか分からない。
 オールスタンディングだからちょっとトイレに行こうとしても、自分のスペースを確保も出来やしない。

 もともとイベントのコンセプトで匿名性を強調して、MCをなくしたんだろう。
 とうとう最後まで、誰一人として自己紹介や流れをマイクで説明しなかった。

 今夜はDJやVJもいる。演奏の合間も雰囲気がだれない工夫をしていた。
 ただ、DJの紹介すらなかったのが惜しい。だれがどの皿を廻していたのかまったく分からずじまい。

 みるくへ入るのは初めてだが、とにかく照明が暗い。クラブってこんな感じなのでしょうか?
 ステージはこじんまり。ここでDCPRGが演奏したとは信じがたいほど。

 ライブが始まるのは22:00頃らしい。
 それまで地下3階のラウンジをぶらぶらしてたら、かなり充実した物販コーナーを発見。
 メルツバウの近作もずらりと並び、さっそく物欲が全開・・・。
 
 22:00頃。フロアでBGMのボリュームが上がる。
 ミラーボールがすぱっと回り始めた。
 そしてさらに15分くらいして。ステージ上のスクリーンにビデオが写される。
 わくわくしながら、ぼくはライブを待っていた。

 
Merzbow(22:30〜23:30)
 (秋田昌美:PC,electronics)

 
 いきなり真打の登場。
 MCはもちろんなにもなし。ステージ隅のPCへ向かってすぐ、演奏が始まった。
 今夜はパワーマックを2台並べ、そのあいだに小さなミキサー風の機材を置く。
 これまでは黒のマック一台だったが・・・セットを変えたのかな。
 けっきょく最後まで、同じ機材構成で演奏してた。

 ゆっくりとノイズが身を起こす。静かな電子音が流れてきた。
 すぐに音量が大きくなる。耳の中にハーシュノイズが飛び込んできた。

 演奏はほぼ黒のマックが主体。補助的にもう一台のPCを使う。
 ときおりバランス変更か、真中においた機材のツマミをあれこれいじる。
 バックの映像は、急ピッチで変化。
 めまぐるしく変化するCGを中心に、ドラマ(山下清のやつ、多分)やアニメ(三国志かな?)の映像を猛スピードでカットアップさせていた。

 ただ、意外なほどにノイズの肌触りがやさしい。
 中音域を主に使ってたせいか。
 ノイズのサンプルをループさせつつ次々入れ替える。
 一方で激しい電子音を、波形を変えつつ差し込むような音像だった。

 とはいえ、そこはメルツバウ。
 ときおり猛烈な低音が襲いかかる。ずしずし空気が震え、身体がビリビリ共鳴しだした。
 吹き荒ぶノイズの音圧は、まるで風が吹いてるみたい。
 幻風を感じるたびに、なぜか気持ちよさを感じた。

 20分くらいたったところで、ギター風の楽器のカッティングがループで登場。
 ここまでくっきりした「音楽」が最近のメルツバウで飛び出すのはめずらしいな。
 そのループも、新しく湧き上がるノイズに埋もれていく。 
 全般的に音像をどんどん塗りつぶすようなイメージが浮かんだ。

 秋田はまったくステージへ視線を投げない。
 ひたすら画面を見ながら、ストイックにマウスをクリックする。
 足でビートもほとんど取らない。とにかくノイズを変容させつづけた。

 約一時間、黙々とPCを操作。唐突に機材つまみを絞り、音を消した。
 軽く一礼して、さっとステージを去る。
 あっけない終わりかただった。

 このステージではとうとう最後まで「穏やかなノイズ」って印象が変わらなかった。
 今夜のてんこもりノイズ・ショーの幕開けとして、ぼくらに心の準備をさせたのかな。
 もっとも。すでに僕の耳はきんきん鳴ってたけど・・・。

 DEFILED+Merzbow(0:00〜0:40)
 (Hideki Fujimoto:Vo,Yusuke Sumita:G,Norihisa Fukuda:B,Naoki Akamatsu:Ds)


 DEFILEDはアメリカでもCDをリリースしているデスメタルのバンド。
 ネットで見つけたメンバー名は上記のとおり。
 ただ、ステージにはベーシストがいなかったような・・・。ステージの陰で弾いてたのかも。

 始まるなりボーカルが、仁王立ちして見得を切る。どのメンバーも腰まで届きそうな長髪だった。
 演奏が始まっても、個々の音が団子になってさっぱり聴きわけられない。前のメルツバウで、すっかり耳をやられてたんだろうな。
 
 秋田昌美も、冒頭からステージに登場。てっきりDEFILEDのワンマンステージかと思ってたのに。嬉しい誤算だ。
 とくにメルツバウはDEFILEDの演奏にこだわらず独自の世界を追求。
 音量的にはメルツバウのノイズが目立ったくらい。冒頭はPAバランスのためかギターの音はまったく聴こえず、フロア後方で見てるとギターはパントマイムみたいだった。

 正直、ぼくはデスメタルに詳しくない。ナパーム・デスを一枚聴いたことがあるくらい。
 だから申し訳ないけど、かなり斜めにステージを見てた。
 ま、もともと「うお〜!」って叫んで騒ぐような聴き方はしないんだけど。

 デスメタル風の怒声を響かせながら、ボーカルはぐるんぐるん首を振り回す。
 これがデスメタルの流儀なんだろうか。つい連想したのが・・・獅子舞・・・。

 そのうち、一人の白人男性がすさまじくエキサイト。
 奇声をあげながら暴れだし、しまいにはダイブ。そのままモッシュが始まった。
 人が密集してるならまだしも、あたりの客が逃げてしまい、比較的スペースがあるところでモッシュするからたまらない。ぐしゃんぐしゃん客がぶつかり合い、えらく危なっかしかった。
 そういや客がダイブした瞬間、秋田がめずらしくフロアに目をやって、にやりとしたのが印象的だったな。

 ライブはひたすら強引に続く。なんといっても今夜、観客を意識してフロアを盛り上げたのはDEFILEDがいちばんだった。
 それにツインドラムがつるべ打ちの、激しいビートはやっぱりすごい。
  
 
JAZZKAMMER(1:20〜2:00)
 (John Hegre:g、Lasse Marhaug:PC) 


 たぶん、メンバーは上記だと思います。MCも無く自信ないけど・・・。
 ほかにVJ役の白人が一人、ステージに上がっていた。

 セット変更にえらく時間がかかる。彼らもPCを使うから、ステージにはメルツバウが置き放ちのPC2台をあわせ、計6台。さながらPCフェアのブースみたい。
 かなり待たせて眠たくなってきたとこで、やっとライブ開始。
 めがねをかけた方が、白いエレキギターを抱えてかきむしった。
 
 彼らの音楽は初めて聴いたが、基本路線はハーシュノイズ。
 メルツバウほど流れやグルーヴはなく、豪音を持続させた迫力で押しまくる。
 
 エレキギターは弾いても弾いてもメロディがさっぱりなし。
 エフェクターで加工をさんざんほどこしすぎ、音程はなきに等しい。
 単なるノイズマシンのトリガーと化していた。
 PCのほうは、何をやってたかいまいち分からず。
 断続的にループが聞こえたので、ベーシック部分の担当かも。

 視覚的にはギタリストのほうが面白かった。ひっきりなしにギターを叩く。
 弦を弾くだけでなく、ボディを叩いて共鳴させたりピックアップをハウらせたり。
 足元に並べたエフェクターを踏み分け変化させるだけでなく、屈みこんで直接ツマミをいじくり歪ませていた。

 パワーノイズの奥から、かすかにビートが登場する。
 いつしか3音のフレーズがゆっくりと浮び上がった。
 メロディが対比的に浮き上がたことで、音像の色合いが締まった。
 
 いったん音が静まりかけた時、またもやギターノイズが登場。
 がしがし派手にノイズをばら撒き、ステージが終了した。
 40分と、比較的短めのステージ。
 また今夜で唯一、メルツバウが登場しない単独ライブだった。

 BORIS+MERZBOW(2:30〜4:10)
 (Takeshi:b、Wata:g、Atsuo:ds


 ライブを見るのは初めて。恥かしながら、gが女性とは知らなかった。
 小柄な身体でギターをかき鳴らすアンバランスがいかしてる。
 ボリスがこの夜、最もメロディを感じた演奏だった。
 それにボリュームも、ここまでで最大の大きさでは。

 ステージ後方に置かれたゴングをAtsuoが数度ひっぱたき、ライブがスタート。
 もっとノイズバンド然とした演奏を想像してたが、雰囲気はサイケパンクかな。
 TakeshiとAtsuoがかわりばんこにボーカルを取る。ほぼ曲間無しで、矢継ぎ早に曲を続けた。
 インプロはほとんどなく、パワフルなステージだった。

 最初はボリスのみのステージ。
 3:10くらいかな。Takeshiのマイクスタンドが片付けられ、メルツバウが登場した。
 秋田がマックをクリックし始めると、ボリスの動きが止まる。

 TakeshiとWataは身じろぎもせず、ピックアップにコンタクトマイクかなにかを押し付け、ひたすらドローンを出す。
 Atsuoはドラムセットに突っ伏していた。
 秋田が出すノイズも次第に変化が無くなっていく。

 3:30頃からは3人がえんえん持続音を続けるだけになった。
 あたりに蠢く低音がすさまじい。
 15分くらいそのままの状況が続いたろうか。
 むくりとAtsuoが起き上がり、シンバルを叩きはじめる。
 
 他の3人からは、依然として響き渡る単音ノイズ。今度はゴングを連打する。
 ひとしきりAtsuoが叩いたあと、再び沈黙。
 また、太いロープのようなノイズがフロアを支配した。
 観客は立ち尽くしてステージを見つめる。
 
 Takeshiがベースに指を滑らせ、ひとつのフレーズを提示した。
 おもむろにWataがギターで同じフレーズで応える。
 メルツバウはPCにむかったまま。無表情にマウスを操作。
 ベースとギターでひとつのフレーズを互いに繰り返す、ゆったりとした対話が始まった。

 だがその対話もいつしか途切れ、再びドローンノイズに戻る。
 低音がとにかくすごい。ぼくの身体みずぶずぶ染み込んでいった。

 ふっとAtsuoが唐突にステージを下りる。
 ギターとベースはかまわず、歪んだ音をそれぞれの楽器から搾り出す。
 しばらくすると続いてTakeshiもベースを下ろし、ステージから消えた。
 Wataはうつむいたまま、単音を鳴らしている。

 ステージにはメルツバウとWataのみ。単音ノイズがえんえん続く。
 メルツバウもふっと操作を止め、ステージを去った。
 残るはWataだけ。じっと動かず、ストイックにノイズを響かせた。

 しばししてギターをはずし、ぺこりと一礼。一時間半以上にも及ぶライブを終わらせた。

 フィナーレ(4:30〜4:45)
 〜MERZBOW+JAZZKAMMER+DEFILED+BORIS


 BORISのステージが終わると、どやどやセッティングが。
 最後は出演者全員による、ノイズの饗宴だった。
 このころになると、僕の耳は完全に死んでいた。
 全員がどしゃめしゃに豪音を響かせるのに、細かい音使いがさっぱり分からない。
 ただ、ずっしり重く低音がのしかかってくるのに、妙にハッピーな気持ちだった。

 全員による演奏あっさり終了。
 そしてあっけなくイベントは幕を下ろした。
 外はちょうど始発が動き出した頃。
 まだ、街並みは暗闇に包まれていた。

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