LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

01/10/27   新宿 ピットイン

出演:菊地成孔 SESSION
 (菊地成孔:ts,ss、南 博:p、水谷浩章:b、藤井信雄:ds)

 あいかわらずの盛況。19時前に並び始めた時は10数人だったのに。
 ずんどこ観客がやってきて、最後にはピットイン前がずらりと開場を待つ人でいっぱいになった。
 最終的には立ち見も出た。ところがぼくは隙を突いて最前列を確保できた。
 しかしここ、エアコンの噴出し口真下。首筋が寒くて・・・往生した。
 
 さて、メンバーは20時を少し過ぎた頃に登場。
 菊地成孔はだぼっとした灰色のセーターを着こんでいる。
 開口一番言ったせりふが、
「皆さん、お元気出すか?ぼくはぜんぜん元気じゃないです」
 おいおい、大丈夫かなぁ・・・。

 そのままメンバー紹介。藤井信雄は「DCPRGの〜」と紹介していた。
 どのメンバーも気ごごろ知れた、菊地がジャズをするにあたって隙がないメンバーだ。
 ちなみに菊地の前には4本もマイクが立つ。テナー、ソプラノ、ボーカル、MCと全てマイクを使い分けていた。

<セットリスト>

1・ブルーズ(菊地成孔オリジナル)
2・コルコバード
3・チェルシー・ブリッジ
4・ユー・マスト・ビリーブ・イン・スプリング
 (休憩)
5・アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー
6・マイ・ファニー・ヴァレンタイン
7・3月の水
8・ブルー・イン・グリーン
 (アンコール)
9・ステイン・アライブ

 HPで事前告知があったとおり、今日は菊地のボーカル入り。
 一曲目から軽い調子で歌い始める。チェット・ベイカースタイル、といえばご想像つくでしょうか。
 いかにも鼻歌風の、小粋な唱法だった。

 譜面台の歌詞カードを見つめながら、フランス語の歌詞で喉をすらりと震わせる。シャンソンかボサノヴァみたい。 

 バックの演奏はとても暖かい。
 そっとピアノを撫ぜる南博、控えめながら着実なリズムを刻む藤井。
 そして水谷浩章が細かく弦をはじいて、二人の音をむにゅっと結びつける。
 すばらしく優しい音像だった。

 菊地は一節歌うとさっそくタバコを取り出し、ぷかりと一服。
 身体をビートにあわせて静かに揺らしつつ、演奏を聴いていた。

 けっきょく1曲目はあっというまに終了。10分弱くらいだったかな。
 菊地は「早く終わっちゃいましたね、1セット4曲しかないのに」と慌ててみせ、早口でMCをまくし立て始める。
 時間稼ぎに、おもむろに各メンバーの吸うタバコの銘柄を聴き始めてた。
 
 今夜はかなり菊地が喋りまくる。確かに演奏時間が短いせいもあったろう。
 どの曲も丁寧に(本人いわく「ラジオのDJ風」)背景や歌詞を説明していた。

 なお、1曲目は菊地のオリジナル。
 歌詞のフランス語は、いろんな本から抽出した文章を適当に並べたとか。
 訳詞を説明した(6人の男がフランスのカフェに入る話だったかな)あと、「たいした歌詞じゃないですね」と、歌詞カードをくっしゃくしゃに丸めて足元に投げ捨て、客席から笑いを呼ぶ。

 菊地は2で、歌詞が見えづらいのか譜面台を伸ばそうとして、ジョイントをひねった。
 ところが場所を間違え。すぽっと上半分を抜いてしまう。
 そのまま苦笑しながら手に譜面台を持ち、歌っていた。

 2曲目からは全てカバー曲。2と7はジョビン、3〜6はジャズのスタンダード。8はマイルスの曲かな。9はアバでしたっけ?大ヒット曲のあれです。
 菊地は3と6、8以外はボーカルも取っていた。
 サックスも前半セットはテナー、後半とアンコールはソプラノのみと使い分ける。

 どの曲も南がピアノを鳴らした瞬間に、音像が確定した。
 叙情的なピアノは、菊地の気取ったジャズにピタリとはまる。
 鍵盤をはじくようにぽーんと指を宙に浮かし、甘くピアノを鳴らしていた。

 菊地は唄だけじゃない。いつもどおりのなめらかな音色で、サックスを見事に吹き鳴らす。
 今夜のサックスはあまりキイキイ響かせず、とてもセクシーで素直なもの。
 まっこうからロマンティックにジャズを吹ききっていた。

 藤井のドラミングは最後までバッキングのみ。ただの一度もソロを取らない。
 ところが、絶妙のタイミングでフィルを入れる。
 手数こそ少ないが、渋いプレイだった。
 今日のステージは演奏が静かめなので、ほとんどブラシ中心の演奏。
 頭からスティックだけで通したのは5のみじゃないかな。

 そして水谷。椅子に座ってアコースティックベースにもたれかかり、にこにこ楽しそうにベースを弾く。
 無表情な南、どこか顔をしかめぎみな藤井、真剣かと思えばへらへらと表情が変わる菊地と、ステージ上にさまざまな表情があったが。
 水谷はしょっちゅう微笑みながら演奏していた。

 スローな部分では、演奏しながらリズムにのって足をぶらーんと前へ投げ出す。
 オープンで弦をはじいてしっかりボトムを効かせ、南や菊地のソロに絡んでオブリを入れる。
 今夜はだれもかれもが目が離せない演奏をしていた。

 菊地はメンバーへ、演奏を指示するサインはまったく送らない。
 冒頭でリズムを指定するくらいか。
 ただ、前半の4。ブレイクがあるところ。菊地が指を揺らした瞬間、ピタリと静寂が訪れてた。むちゃくちゃかっこいい。

 けっきょく前半は50分くらい。
 インスト曲はふんだんにソロを聞かせ時間がかかるが、1や2あたりがあっという間に終わっていたから。
 休憩でステージを降りる前、菊地が水谷に「30分くらい演奏してたよな?」って確認してておもしろかった。
 
 後半戦は21時30頃始まった。
 まずは「アイ・ウィッシュ・アイ・ニュー」。藤井がスティックのみでシャープにリズムを刻む。
 この曲のエンディングでは菊地がすっと指で自分の首を切り、音がそっと止める。
 そんなしぐさが、DCPRGのステージを髣髴とさせた。 

 6でソプラノサックスを吹ききった以降は、すべて椅子に座ったままのプレイ。
 後半もなまめかしい音像のジャズがいっぱいだ。けっして乱暴じゃない。
 だけどえんえんソロを取りつづける菊地の額に、じわりと汗がにじむ。とても熱がこもった演奏だった。

 7ではドイツ語の歌詞を歌いつつ、ときおり日本語歌詞を混ぜる。
 この曲がいちばんスパンク・ハッピーを連想させた。テクノ・ビートでごまかされていたけど、スパンクスを生で演ったらこんな感じになるのかな。

 エンディングは菊地が演奏をとめ、アカペラでしみじみ歌う。
 その後手をフラフラと泳がせ・・・そのままエンディング。椅子から崩れ落ちる。
 もしかしたらコーダでバックをもう一度入れるアレンジを期待してたのかも。

 8で、またたっぷりと菊地のサックスを堪能。
 しみじみ彼らの演奏に浸っていると、あっというまに時間がたってしまった。
 最後に水谷がおもむろにアルコで弾き出す。彼の音が最後まで残り、弓を弦からはずしたところで終了。静かな終わり方だった。

 アンコールにはすぐさまこたえてくれた。
 ステージに登場したのは南と菊地のみ。
 イントロをピアノが鳴らし、菊地が歌いだす。
 最初は何の曲かわからなかったけど・・・サビの部分で気がついた。
 派手なディスコ・ミュージックが、見事にジャズに変化している。

 スパンク・ハッピー、DCPRGの両方でこの「ステイン・アライブ」をカバーしている。よっぽど印象深い曲なんだろう。
 
 菊地はうつむき加減でつぶやいて歌う。おもむろにソプラノを持ち、吹き鳴らす。
 ひとしきりソロを取ったあと、テーブルにサックスを置いた。
 南がこの夜はじめて、強いアタックで和音を押さえる。
 菊地はタバコに手を伸ばし、ぷかりと一服。

 そして再びサックスに手を伸ばし、ソロをはじめる。
 二人の合奏で今夜のステージが終了。
 菊地は投げキスを観客席に投げ「おやすみ」とステージを去った。

 アンコール前に菊地が言ってたが、来月のin Fと大晦日のピットインを最後に、約1年、アコースティックジャズの現場を離れるそうだ。(11月頭のラクダ・カルテットは計算に入ってないのかな)
 ステージで冗談混じりに話していたが、2002年はスパンク・ハッピー、DCPRG、東京ザヴィヌルバッハに専念して終わってしまいそう。10月くらいまでびっしり予定がはいってて驚いた。

 とりあえず、来年の年末まで菊地のジャズはおあずけみたい。
 in F(南博と菊地のデュオ)はどうしようかな。むちゃくちゃ込むだろうけど・・・。 

目次に戻る

表紙に戻る