LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

01/10/26   西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之セッション
 
(明田川荘之:p,オカリナ、ヤリ"内野勝年"ホンギスト:tb、
  テッポ"紙上理"アホ:b、ユミ"楠本卓司"ニゴーネン:ds)

 今夜は明田川の新譜「思い出のサロ」の発売記念ライブ。
 この盤は明田川が今年の5月にフィンランドで、現地のミュージシャンと行ったライブを収録したものだ。
 てなわけで、今夜はミュージシャンに通り名がつくことになった。

 内野勝年の”ヤリ・ホンギスト”と紙上理の”テッポ・アホ”は「思い出のサロ」で競演したミュージシャンの名前。
 楠本卓司の”ユミ・ニゴーネン”は誰から取ったかよくわからない。
 「「槍」と「鉄砲」だから「弓」もいるだろ」って、MCで明田川は喋ってた。

 本日のメンバーでは、紙上理の演奏をはじめて聴く。
 楠本はアルバム「室蘭・アサイ・センチメンタル」の参加や、今年8月のライブでも明田川と競演。
 内野も昨年末の「明田川オーケストラ」へ参加した時に、聴いたことがある。

 観客は全部で4人という残念な入り。7時50分くらいにライブが始まった。

<セットリスト>
1・I`ll close my eyes
2・Blue ocarina blues
3・チンギスハーンの二等の駿馬
4・Aketa`s Blues

(休憩)

5・南部牛追歌
6・枯葉
7・African dream    

 この夜は明田川がきっちり曲紹介をしてくれた。
 MCもメンバーの雑談形式で、ずいぶん喋っていたなぁ。

 発売記念ライブなせいか、1〜5曲目はアルバム収録曲でまとめている。
 とにかく今夜は、一曲目からすばらしい。 
 静かな熱狂がこみ上げ、手のひらが汗ばんでくる。夢中になって聴いていた。

 一曲目はオーソドックスなスタイルで演奏される。
 ワンコーラス目を明田川がソロピアノで提示し、すっとリズム隊が加わった。

 紙上理の演奏ははじめて聴いたが、味があって面白い。
 小柄な身体をウッドベースに抱きつかせて弦をはじく。
 顔をくしゃくしゃにし、ときおりうなりながら弾いていた。
 ただ、少々音量が弱い。ピアノとドラムが加わるとほとんど聴こえなくなってしまう。PAを通して、目立たせて欲しかったな。

 「I`ll close my eyes」は明田川がよく演奏する曲だけあって、リラックスした雰囲気。
 ハイハットを鋭く叩くドラミングをアクセントに、ゆったりとグルーヴが生まれた。
 次第に演奏に熱がこもる。一曲目から明田川は身体をのけぞらせつつ、唸り声とともに弾きまくっていた。

 「Blue ocarina blues」では立ち上がり、大小のオカリナを素早く持ち替えつつ、かろやかに明田川はメロディを奏でる。
 冒頭はリズム隊とのトリオ編成だ。
 グランドピアノでわずかにエコーがかかった音色が、店内にすきとおる。

 楠本はブラシでスネアを擦り、静かに刻んでいた。
 オカリナがメロディをほんのりフェイクさせる裏で、紙上が奔放にベースを操る。
 ベースとオカリナのツイン・アドリブが聴きものだった。

 圧巻は「チンギスハーンの二頭の駿馬」。
 雄大なメロディをしっとりと明田川が提示する。
 ピアノで紡がれる爽快な世界に浸っていると、トロンボーンのソロへチェンジ。
 ここで内野は、すばらしくロマンティックな音使いのアドリブを持ってきた。

 一気に曲の雰囲気が変わる。だけど、内野の音世界もむちゃくちゃ魅力的だ。
 丁寧な音色で次々溢れ出すメロディに、ぐいぐいひきつけられる。 

 内野は本日の演奏で冴えまくり。
 次の曲では、アヴァンギャルド・タッチの音像にすっと溶け込む。
 灰皿をミュートがわりにして、ワイルドに吹き鳴らしていた。

 つづく第二部のセッションでも、メロディアスさと豪快さを曲によって使い分け、的確なソロを披露しつづける。
 表情はほとんどかわらない。ときおり足でリズムを取ってたが、ほぼ最後までクールな雰囲気でトロンボーンを吹いている。
 普段はどんな音楽をやっているんだろう・・・。彼のリーダーバンド(が、あるならば)を聴いてみたくなった。

 演奏はずんずん続く。3曲目までコードを重視した演奏を続けてきた反動か、いきなりアバンギャルドなオリジナル、「アケタズ・ブルーズ」を弾き始めた。
 リズム隊はちょっと様子を見た後、がっぷり絡んで鳴らしていく。

 明田川はあっというまにソロに雪崩れ込み、肘打ちやケリを鍵盤に叩きこむ。
 激しくクラスターノイズが続き、テンションがぐいぐいあがってきた。
 こんな混沌とした雰囲気で、どうやってトロンボーンが絡むんだろう。
 そんなぼくの不安をよそにして。明田川の視線が飛ぶと、すっと内野が立ち上がり、パワフルな音使いで見事なアドリブを聴かせたのは前述のとおり。

 どんどん高まるテンションにひっぱられて演奏時間も伸びていき、第一セットが終わったのは9時15分くらい。
 しまいには、明田川も息を切らしながらピアノに挑みかかってた。

 第二セットではちょっとしたハプニング。
 9時半頃、明田川が「そろそろ演ろうか」とメンバーに声をかけるが、紙上がどこかへ行って戻らない。
 9時45分頃、とうとうトリオ編成で演奏をはじめることになった。

 後半一曲目は「南部牛追唄」。
 明田川は冒頭でしみじみとしたオカリナのソロを吹く。
 ところがピアノに指を置いた瞬間、かなりフリーな演奏に早変わりした。

 ぐしゃぐしゃ盛り上がっていく中、10時ちょいまえくらいに紙上が店に戻る。
 ひょこひょこステージに上がって楠本の耳へ二言三言ささやくと、ウッドベースを持ち替え演奏にスムーズに加わった。

 演奏はそのままフリー。ひとしきりソロ回しをしたあとで、またもや明田川がオカリナを噴出す。とたんにするっと音世界が、穏やかに変わってしまうのが面白かった。

 つづく「枯葉」はばりばりのスタンダード。明田川が弾くのはめずらしい。
 内野のトロンボーンソロは、期待通りきれいな音使いだった。
 明田川はピアノだけでなく、タンバリンや風鈴みたいなベルを振り回していた。

 最後の曲は明田川のオリジナル。スケールの大きいメロディが魅力的な曲だ。
 じっくりとテーマが繰り返されて、ソロへと受け渡される。
 エンディングにふさわしい、かっこいいプレイだった。

 ここで印象的だったのが、楠本のリズムパターン。
 フロアタムとバスドラを組み合わせて短く繰り返すフィルが、すごく効果的に演奏を引き締めていた。
 
 エンディングで別の曲へメドレーする。
「ソロは短めにね」と指で合図を送る明田川。
 数コーラスくらいでつぎつぎにソロが受け継がれていく。
 その演奏にのって、明田川がメンバー紹介。
 最後はブレイクを何度も何度も入れ、賑やかに演奏が終わった。
 
 終演は10時45分頃。第一部が盛り上がったせいか、かなり時間を押してえんえんと演奏してくれた。
 たった4人で聴くのがもったいない。しっとりした雰囲気からフリーのテンションまで。幅広い演奏をたっぷり楽しめた夜だった。

目次に戻る

表紙に戻る