LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

01/8/17  竹橋 STUDIO St.GIGA

出演:東京ザヴィヌルバッハ
(坪口昌恭:Keyboards, Computer、菊地成孔:Sax, CDJ)


 会場が少々わかりづらかった。
 ただでさえ人通りが少ない場所なのに、看板やチラシがすごく目立たない。
 周辺をぐるぐる歩いてしまいました。電話して場所を聞いたら、目の前が会場だったという・・・。

 さて、今夜は五十嵐一生(tp)が脱退後の、東京ザヴィヌルバッハの初ライブだ。
 電化マイルスの影響が感じられるサウンドが、二人体制で変化するかが楽しみなところだ。

 事前に坪口がBBSで告知した内容によれば新曲3曲、“Panoramic”
のライブ・バージョン含むリアレンジ3曲で、1時間半ノンストップというも構成とか。

 で、終わってみれば。かなりクラブ志向の強いテクノとジャズの混合体サウンド。
 詳細は下に書きますが、二人体制の利点と欠点の両方を考えながら聴いてた面白いライブでした。
 
 会場に入ると、いまいち動員が弱い。椅子席で80人くらいのスペースなのにがらがら。最終的に40人くらい入ったのかな。
 かなり綺麗な内装や雰囲気で、客席後方にはバーカウンターや、ちょっとしたテーブル席が幾つか並ぶ。

 さらにDJスペースまで存在し、演奏前にジャズなどを回していた。
 フルスタンディングにしたら、200人くらい入るんじゃないかな。
 いち早く入場したので、らくらく最前列を確保。
 でも最前列にぼく以外一人しか座っておらず、えらく居心地が悪かったけど。

 ステージ向かって左側は坪口。シンセ数台を並べ、さらにマックを後方にセッティングしていた。
 演奏が始まるとマックの画面には、東京ザビヌルバッハのコンセプトでもある"M"の画面が見えた。
 "M"とは打ち込まれた内容がリアルタイムに変化するソフトらしい。

 ステージ右側が菊地の立ち位置になる。コルグ社の真っ赤なKarmaを中央にどかんと置き、横にはCDJなどを並べる。
 足元にはソプラノとテナーのサックス二本が無造作に置かれていた。

 ライブそのものは動員がさみしいせいか開演が押し、8時10分くらいになって、二人がおもむろにステージに上がった。
 すぐに坪口がマックをいじりだす。
 ループされたビートが流れ出した。

 まずは小手調べをするかのように、ループにあわせて坪口が機材のツマミをあちこち調整。
 菊池がCD−Jでサンプリングされたフレーズをちょこちょこ挿入する。
 ときおりKarmaの鍵盤も一本指で叩く。サンプリングマシンみたいに使っていたのかな。
 
 ひとしきり静かなテクノを演奏したところで、菊池がソプラノを咥える。
 いつもながらの、なめらかな音色がサックスから流れ出した。
 曲名は思い出せなかったが、たぶん1stアルバムに収録された曲だ。
 
 坪口はユニゾンでメロディを追いかける。さらにキーボードソロが始まった。
 この段階では、かなり演奏のテンションはクール。音量も控えめ。
 キーボードソロはぐにょぐにょに展開するが、基本となるビートがあまりにもシンプルなため、どうしてもこじんまりしてしまう。

 この「ループによる規制」を最後まで感じつづけた。
 二人だからこそリズムボックスが必要だし、そのコンパクトさも楽しめるんだろう。
 ところがループを聴くのに飽きてしまうと、上物で二人がどんなに楽しい事をやっていても、根本的にがんじがらめになる。

 "M"はリアルタイムでサンプルを変化させられるみたいだし(そんな使い方も、コンサートの一部で披露していた)、もっとリズムをフリーに展開してくれたほうがぼくの好み。

 もっともダンスミュージックとしたら、今の志向は正解だろう。
 今夜は椅子席メインで踊るような環境じゃなかったが、クラブで盛り上げるにはぴったりだと思う。
 二人きりな分こまわりもきくし。

 演奏はメドレー形式で淡々と進む。一曲あたり20分くらいか。
 坪口が曲の切れ目になるとマックに向かう。
 あらたなサウンドデータをハードディスクから呼び出してるのが、僕の席からよく見えた。
 菊地は一曲終わると譜面を一枚、床にほおり投げる。

 ときおり坪口のハンドサインが飛ぶけれど、演奏は淡々と進行する。
 ループのリズムをぐにょっと変化させる瞬間がちょっとあったけど、ほとんどは単一ビート。
 BPMも曲ごとに違和感覚えるほど、極端には変化させていなかった。

 したがって、ループのパターンを楽しめるかが鍵になる。
 上物の面白さに比べ、ビートに飽きて単調に感じる時が辛い。
 いっそループを止めて、生ドラムを入れて欲しいと思う瞬間もたびたびあった。

 坪口のキーボードは激しくメロディを崩す場合でも、どこか冷静だ。
 リズムパターンと融合し、サウンドを盛り上げる。
 ヘッドレストのマイクにつぶやきながらソロを取るシーンや、ハモンドの音色をがらがら変化させながらの演奏が面白かったな。

 菊地は曲によって、テナーやソプラノを持ちかえた。
 音色が本当に気持ちいい。
 ジャズ奏法にありがちなきしみ音もほとんど使わず、なめらかに音符を紡いでいく。
   
 ただ、ソロはかなり抑え目。
 テーマのメロディを吹くときとソロを等価で吹いているように聴こえた。
 ソロもサウンドの一要素として溶け込む。
 スケール練習のように3度で飛んだり、8分を多用してフレーズを作り上げたり。
 ビートに逆らい”メロディ”を構築するソロはなかったように思う。

 一時間半ノンストップで、当然MCもなし。
 じっと座って聴いてるから、自分の中でメリハリをつけにくい。
 照明がけっこう派手で、ステージの色合いがチョコチョコ変化するから助かった。
 演奏スタイルは機材をいじってるイメージが強く、いまいち華がなかったし。 

 一時間くらい経過したところで、坪口がループを止める。
 菊地のサックスと、坪口のキーボードによるスローテンポの演奏が始まった。
 ロマンティックな雰囲気が広がった。演奏による幕間ってところかな。

 再びループがスタート。BPMがちょっと早くなった。
 音数が増えてリズムも複雑になり、演奏がさらに刺激的に変化する。
 ここからはエンディングまでテンションが持続した。

 最後の曲で、菊池がテーマをテナーで吹き鳴らす。
 直線的なフレーズがかっこいい曲だった。
 菊地は汗びしょになりながら、サックスを吹きまくっていた。

 演奏終了後に坪口がメンバー紹介をして、あっさり引っ込む。
 すぐに客電がつき、アンコールはなし。

 ループされたビートが響き渡り、かなりダンスミュージックに軸足を置いた印象がある。
 でも、無機質なビートの渦へ完全に埋もれたいわけでもなさそうだ。

 菊地もCD−Jをいじってる時はリズムにちょっかいを出すものの、サックスを吹いたとたん音像にあっさり溶け込んでしまう。
 彼のサックスは本当にうまい。音色がきれいで、耳なじみがいい。

 全般的にはダンスビートが前面に出たサウンドだったと思う。
 生演奏の強みを生かして、いかにマシン・ビートとケンカするかを志向すると、面白い音楽になっていくはず。
 次のライブではどんなサウンドを披露してくれるのか楽しみだ。

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