LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

01/8/15   新宿 ピットイン

出演:EMERGENCY!
 (芳垣安洋:Ds、大友良英:G,Electronics、斉藤良一:G、水谷浩章:B)

 芳垣がリーダーで今年の2月に結成されたユニット、EMERGENCY!のライブをはじめて体験した。
 動員は裏の渋さに若干食われたか、50名程度。
 観客として、鬼怒無月の顔も見かけた。

 今晩のテーマは「スイングと男気」とか。
 そう芳垣がMCで宣言したとたん、すかさず大友が「そうなの?聴いてないよ・・・」と突っ込んでたけど(笑)

 レパートリーはミンガスの曲を中心のカバーばかり。
 オリジナル曲でもっと熱く盛り上がるかと思ってた。ちょっと予想外。

<セットリスト>

1)エマージェンシー・ウオーキング
2)Jerry Roll
3)Kanon
4)Creole Love Call

(休憩)

5)Fables of Faubus
6)The Inlated Tear
7)リベルトリズム(?)
(アンコール)
8) The look of Love

 芳垣がとても丁寧なMCをしていた。
 曲目紹介だけでなく、ジョークも織り込む長めの語り。大友がボケ役をいつのまにかつとめる。
 演奏がストイックに進むので、ちょうどいい感じで気持ちが切り替わった。

 1曲目は芳垣のオリジナル。まず芳垣だけがステージに上がる。
 ブラシを手に、小音量のソロがスタート。
 スローテンポであちこち手を泳がせ、ゆっくりシンバルやタムを撫ぜていく。
 おもむろに水谷が登場した。椅子に腰掛け、ウッドベースを引き寄せる。

 ドラム・ベースのソロをひとしきり続けた後、今度は大友。さらに斎藤。
 だんだんステージにメンバーが増えて音が重なり、盛り上がっていく。

 いつのまにか芳垣はスティックに持ち替え、刻み始めた。
 テンポが速まり、フリーな演奏へ変化する。
 大友も斎藤もエレキギターをかきむしる。斎藤のほうがよりワイルドだったかな。
 次第にテーマが浮び上がる。
 短いソロをはさみつつ何度もテーマを繰り返していた。

 2曲目はミンガスの曲。
 この曲が今夜のステージで、一番派手だった。
 ギターはどちらもテーマをフェイクしたフレーズをえんえん弾く。
 
 完全なアドリブへ行かず、常にテーマが意識される。
 テンポがぐんぐん上がって、つんのめるようなプレイ。
 ユニゾンでテーマをビシバシ決めていくところがかっこいい。
 芳垣のドラミングのせいか、どんなに高速になっても頭の奥が冷静な演奏だった。 

 そう、今夜のステージは、やはり芳垣のドラミングが中心。
 タイトでしゃきっとしたプレイで、つねに演奏を引き締める。
 さらに、彼のとても繊細なシンバルワークがすばらしい。
 掠るようにそっとシンバルを鳴らし、やさしくハイハットを踏む。
 ついつい、彼のドラミングを見つめながら演奏を聴いていた。

 芳垣はバッキングの時も、いわゆる”リズム”を刻まない。
 つねにソロを取っている感じ。
 テンポを提示しつつもしょっちゅうフィルを入れ、多彩なドラミングを披露してた。

 むしろ一番ジャズっぽかったのは水谷かも。
 他の3人がフリーに雪崩れ込んでも、どこか彼の演奏はどっしり構えている。
 ”Creole Love Call”がフリーに崩されてる時も、水谷がウッドベースを一音はじくだけで、いきなり雰囲気がジャジーに変わる。
 あの存在感は凄かった。

 さて、3曲目もミンガスの曲。
 こちらは全員が小さな音でプレイする。
 芳垣は指でタムの皮をこすり、はじく。大友がギターのボディを指でこすり、共鳴音で応える。
 全員の音が鳴り始めて曲が進行しても、フレーズ探り合い風の静かな演奏だ。
 芳垣はマレットに持ち替える。

 4曲目の”Creole Love Call”の作曲はエリントン。
 ちなみに今夜は普段ジャズメンが演奏しない曲を中心に選んだとか。
 この曲もAAOCやカークしか、カバーしていないらしい。
 各メンバーのソロ回しをはさむ、ミドルテンポのアレンジだった。

 水垣がソロの途中に力あまって、前にズリズリずれてくウッドベースをぐいっと引き寄せ、そのままソロを続けるさまが印象に残ってる。
 大友はあまり音を歪ませず、明るいトーンでギターを弾く。
 むしろ斎藤のほうが、ぐしゃっとひずませた音色でギターをかきむしっていた。

 休憩をはさんで1曲目もミンガスの曲。
 斎藤がソロのとき張り切りすぎて、弦を切ってしまう。
 続く水谷がアドリブをひいている時、すばやく交換してたっけ。

 後半2曲目は、変わってローランド・カークの曲。「溢れ出る涙」の邦題で知られる曲です。
 今日演奏された中で、唯一オリジナルを聴いたことがある。
 思い切りフリーにアレンジを変えていて面白かった。
 というかオリジナルのイントロでは、パーカッションがランダムに鳴って始まる。あの部分を長めに演奏したってことかな。

 大友はギターに鉄板(クリームを塗るナイフかな?)をはさみ込んでプレイ。
 最初はミニマルな雰囲気で進む。
 ところがこの曲でも水谷がベースを一音はじくだけで、いきなり風景がジャジーになる。水谷のセンスの賜物だろう。
 
 そんなフリーな演奏の中。斎藤のフリーキーなギターから、ふいっとメロディが浮び上った。
 あくまで断片的に。旋律の断片を、大友のギターが補完する。
 切ないメロディを、歪んだギターの音色で表現した。この演奏もよかったなぁ。

 ”The Inlated Tear”が終わった後のMCで、芳垣が「次の曲でラストです」と言ってびっくり。まだ二曲しか演奏してないじゃん。
 ふっと時計を見てさらに驚いた。既に第二部が始まって50分近くたっている。
 本当に時間を忘れ、聴き入っていた。
 
 最後は芳垣のオリジナルで締める。
 タイトルはよく聞き取れなかったので、間違っているかもしれません。

 オリジナルだと、芳垣の特異なドラムがさらに強調された。
 テーマのメロディはあるのに、小節感が希薄。
 演奏は常にふあふあ流れ、着地点が見えない。心地よい緊張感があった。

 それほど演奏を引っ張ることなく、後半も一時間で終了。
 拍手を送っているとすぐさまメンバーが登場し、きれいなメロディを奏ではじめた。
 聴き覚えはあるけどタイトルが思い出せない。頭をひねってるあいだも、演奏はずんずん進む。
 
 オリジナルのコード感もギターで絶妙に表現しつつも、演奏はフリー。
 旋律がなめらかなだけに、そのギャップが面白かった。

 芳垣が「バカラックの”look of Love”でした」と紹介して、今夜のステージは終わり。
 「EMERGENCY!」といいつつも、派手にぐいぐい攻め寄らずに、あくまでさりげなく音楽が流れる。
 芳垣のシャープでクールなドラムを堪能できた夜だった。

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