LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

2001/7/25   西荻窪 アケタの店

出演:明田川+三上+石塚
(明田川荘之:p,オカリーナ、三上寛:vo,g、石塚俊明:ds)


 昼間ひさびさにどしゃ降りだったものの、基本的には暑い夜。
 ところがさらに身体が熱くなる、すばらしいライブを聴けた。

 このメンツでの演奏は、ぼくが調べられた限りでは10年ぶり。
 1991年12月27日にマンダラ2で、この三人プラス灰野敬二による演奏が行われている。
 開演前のミュージシャン同士による雑談では「8年(?)ぶりだな〜」って聴こえたから、それ以降に共演してるかも。

 ちなみに明田川+三上+灰野ってメンツでも、90〜91年ごろに数回ライブを実施してる。
 すっごく刺激的な音だったんだろうな。聴いてみたかった。

 三上と石塚はアケタで、月イチくらいでライブを実施。
 今夜はそこへ明田川が参加した格好だ。
 コアなファンを掴んる3人だし、演奏も期待できるし。
 かなり混むんだろうな、と慌てて仕事を終わらせて駆けつけた。

 ・・・ところが。こないんだ、客が。
 ずうっとぼくのひとりだけ。なんでも、最寄の沿線が人身事故で止まったとか。

 普段なら開演する8時くらいになっても、観客はぼくひとりだけ。
 明田川御大から「もうちょっと待てます?・・・あ、聴きたくなったらいつでも声かけてくださいね〜」って言われる始末だよ(笑)
 ま、そのうち誰か来るだろ、と気楽に考えて、のんびり待っていた。
 けっきょくしばらくしてカップルが一組来店。
 30分押しでライブが始まった。 

 まずは明田川+石塚によるデュオでスタート。
 オーソドックスなジャズピアノを明田川が弾き始めた。
 石塚はブラシを使って、シンバルやタムをそっと撫でる。
 リズムを刻むでもなく、パーカッション風におかずを入れるでもなく。
 淡々とドラムセットに戯れていた。

 明田川のピアノは途中でフリーに変化。
 完全にノーリズムになり、石塚とからんだプレイをする。
 ちょっとテンション低めかな。探りあいみたいな感触もあった。

 10分足らずで二人の演奏が終了。
 いったん明田川がステージから引っ込み、三上+石塚のデュオになる。
 グレッチのセミアコをじゃかじゃかかき鳴らしながら、三上が歌い始めた。
 前回聴いたときよりも、器楽的なギターだ。
 メロディアスなソロは弾かないものの、リズムやコード感にメリハリがあった。
 
 三上+石塚も一曲だけ。
 明田川が加わって、ここからはトリオ編成のライブだ。
 1セット目では三上のギターの音が馬鹿でかく、ピアノがかき消され気味。
 こまかな音使いは聴こえず、辛かった。
 3曲くらい、ここから演奏したろうか。

 基本的にすべて三上のレパートリーを演奏。セットリストは不明です・・・。すみません。
 帰って手持ちのCDの歌詞カードで記憶をたどってみたけど。
 2セット目後半で「Thirteen」をやってたって、わかっただけでした。
 
 三上のテンションは次第にあがり、顔を真っ赤に染まる。
 ギターを興に乗るまま掻き毟り、軽くステップを踏み、ステージをうろつきながら、多彩な声色で歌いつづけた。
 どの曲を聴いても、ぱっと受けるサウンドの印象は似てる。
 でも一曲一曲、明らかに違う。三上の声は説得力たっぷりだ。
 歌い始めたとたん、彼の色がぶわっと噴出してくる。
 
 石塚のドラミングがさらに激しく変化した。
 リズムキープではなく、パーカッション風な演奏。
 二人のプレイにあわせつつも、奔放にタイコを叩きまくっていた。

 明田川も「バッキング」って観点で弾いていない。
 本来の持ち味である、日本的なメロディを多用しているが、あとはいつもどおり。
 とはいえ、明田川のソロをもうちょっと聴きたかった。
 単純にピアノを弾き続けず、時には足元に置いたタンバリンやアフリカン・ベルを打ち鳴らす。
 ピアノだって、次第にパーカッシブ。
 がんがん鍵盤へ腕を叩きつけていた。

 しかし不思議だ。
 ぼくは今夜演奏されたような、日本のマイナーメロディや演歌臭さって大嫌いなはずなのに。
 明田川や三上のメロディは、なぜか素直に聴ける。
 幻の郷愁感や切なさがこみ上げる。
 仕事でちょっと落ち込んだ気分のときに聴くもんじゃないかも。ますます切なくなってくる(笑)

 1ステージ目ラストは、明田川のオカリーナをフューチャーした演奏。
 明田川がさまざまなオカリーナを持ち替えて鳴らすメロディの合間に、三上が歌をそっと盛り込む
 尻上りにテンションは上がり、しまいには三上の絶叫がアケタに響く。
 かっこよかったなぁ。 
 
 尻上がりにテンションが上がった第一部は45分くらい。
 しばらく休憩して、第二部の始まり。
 このステージが、すさまじかった・・・。

 一曲目は明田川のピアノにのって、静かにスタート。
 彼のライブで聞き覚えあるメロディだけど、曲名が浮かばない。
 明田川のオリジナルかなぁ。
 テーマをフェイクさせず、波が漂うように繰り返しテーマを弾く。

 三上は目の前に譜面台を広げる。この曲にあわせた歌詞だろうか。
 聴いてた限りでは、メロディに合うような合わないような。
 奔放な三上節だったけど。

 一曲目が終わり、拍手をしようとしたところ。
 石塚が演奏を止めない。
 静かに、静かに。シンバルを叩く。フリーなリズムで、ゆったりと。
 しばし演奏を聴いていた二人も、そのまま石塚のドラムにからんでいく。
 明田川は合間にオカリーナで「りんご追分」のテーマを一節吹いていた。
 
 このころになると演奏も盛り上がって、音に色気がいっぱい。
 さらにPAのバランスが改善されたのか、ピアノの音もよく聴こえた。

 演奏するミュージシャンの誰一人として、個性を押し殺してはいない。
 なのに、音像に統一感がある。これほど三人の相性がいいとは。予想以上だ。
 ふくよかな音の壁が目の前に広がっていく。

 そして3曲目は、「りんご追分」。今夜のベストラック。
 明田川のライブではおなじみな曲だけど、たしかに三上にも合うだろうな。
 ところが三上は、やっぱり一筋縄じゃ行かない。

 ギターを奔放に鳴らしながら、冒頭テーマをぐしゃぐしゃにフェイクして歌う。
 フリージャズ・ボーカルって、こんな感じかなぁ。
 「りんご!りんご!」と叫ぶ三上を見ながら、ぼんやり考えていた。

 インプロが始まると、音の迫力はうなぎのぼり。
 明田川は両肘で鍵盤を叩き続け、石塚のドラムも止まらない。
 むちゃくちゃに音が爆発する。それぞれの音によるせめぎあいが絶妙だ。
 すさまじくフリーなのに、どこかメロディアス。
 3人のプレイ全てが飛び道具。聴きどころの塊。
 相反する要素がしっとり混在した、とびっきりの猛演だった。 

 このあと演奏された数曲も、もはや敵なし。
 3人の持ち味が融合したライブを堪能した。
 石塚がシャープに刻んで、きれいな鳴りを聴かせたドラミングが印象に残っている。

 今夜のステージは録音されていた。ぜひCD化してほしいな。
 この演奏、たった3人しか聴いてないなんて、あまりにももったいなさすぎる・・・。

目次に戻る

表紙に戻る