LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

01/5/6   下北沢 レディ・ジェーン

出演:灰野敬二+おおたか静流
 (灰野敬二:g,per,etc.、おおたか静流:vo,per)


 今日は少々開場時間が遅れたみたい。
 連休最終日だし、観客は少ないかなと期待したけど・・・とんでもない。
 開場前に十数人が並び、最終的には30人くらい入ったのでは。ほぼ満席状態だった。

 演奏前に灰野がふらりとステージ・スペースに現れ、エフェクターをチェックする。
 足元には各種エフェクターが5〜6個並び、ピアノの上や壁にはいくつもの楽器を並べていた。
 今回、灰野のボイスもあるらしく、マイクもセッティングされている。
 これから始まる演奏への期待が、どんどん高まってきた。

 結局ライブが始まったのは8時過ぎくらいか。
 灰野がまず陣取り、おおたかが静かに入場してきた。

 灰野はエレキギターを抱え、ピックを使わずに指先で弦をはじく。
 おおたかがスキャット風のボイスで、か細く歌い始めた。

 冒頭は静かな雰囲気が支配する。
 灰野のプレイはフレーズよりも、音の響きを重視しているようだ。
 リバーブをたっぷりかぶせた単音をゆっくり爪弾く。
 時にはピックアップを平手で叩き、バスドラのような音も盛り込んでいた。

 おおたかのボイスは、灰野と渡り合うには辛く聴こえた。
 即興の引出しをどれくらい持っているか、の違いが如実に現れたのでは。
 灰野は基本的におおたかの動きを聴きながら、インプロをふくらませる。
 だから演奏の流れがちぐはぐにはならないんだけど・・・。

 灰野自身のテンションが上がりソロに没入し始めると、おおたかが切り込むチャンスがかなり少なかった。
 これはまあ、灰野目当てで聴きに行ったぼくの意見だけれども。

 この日の灰野は次々にいろいろな技を繰り出す。
 一番印象が残ったのは、サンプラーを使用した即興。
 その場でフレーズをサンプリングし、さらにインプロを重ねていく。

 ある瞬間の即興をざくっと切り取り、執拗にループ。
 サンプリングと灰野のさらなるインプロがピタリとはまった瞬間は、おっそろしくスリリング。
 サンプラーは二台使用。だから、かなり多様性のある即興が生まれた。

 灰野のボイスが飛び出した。甲高い声で絶叫する。
 ギターを激しくかき鳴らし始める。
 マイクへ身を傾けてシャウト。サンプリングされた灰野の叫び声にのって、どんどんギターが自己主張し始めた。

 次に彼が手に取ったのは、ジャンベ(かな?)。
 ドライヤーを持ち出して、皮の部分を暖めながらそっと叩く。
 あれって、演奏の小道具だったんだろうか。
 しばし暖めたあとで叩いた音はずんっと響いた。
 楽器自身のウオーミング・アップだったのかもしれない。

 おおたかは鈴をふりながら、高い声でフレーズを積み重ねる。
 灰野はパンデイロ(かな?)に持ち替えた。
 激しく叩くリズムを抽出し、ループさせる。
 そこへさらに違うビートをサンプリング。

 二重のビートが鳴り響く中、なおも違うパターンを叩き、ポリリズミックなサウンドが店内を満たした。
 アヴァンギャルドな即興なのに、とても心地よい。
 ビールの酔いも手伝ってか、ぼくはうとうとしながら彼らの演奏を楽しんでいた。

 最後に灰野が手にしたのは、ブズーキのような楽器。
 アンプを通し、弾き始める。
 しばしこの編成で演奏していると、いつのまにかおおたかも灰野もノーマイクでプレイしていた。

 おおたかが「これで〜おしまい〜・・・」と甲高く歌う。
 二人が静かに音を止める。
 少し間を置いて、観客から拍手が上がった。
 第一部は、だいたい50分くらいのセット。

 第二セットは15分くらいの休憩をはさんでスタート。
 休憩時間にトイレに行ったら、洗面所はほんのりお香の残り香があった。
 もしかしたら、灰野が演奏前に焚いていたのかもしれない。 

 灰野は早々とステージ・スペースに登場して、前半最後に使った弦楽器を片付ける。
 ちょうどいい置き場所に困ったみたい。あちらこちらに楽器を置いては移動させる、黒尽くめな彼の姿をぼんやり眺めていた。

 第二部で灰野が使った楽器は始めてみた。
 形はウクレレっぽいけれど、上下に弦が伸びている。たしか6弦だったと思う。
 共鳴盤のすぐ横、楽器の中央にブリッジがあり、琴のような感じ。
 弦を押える時の力加減一つで、チョーキングのようにピッチを変えられる。

 音程が微妙に変わって、ただでさえ表情豊かな音なのに。
 たっぷりリバーブをふりかけて灰野が演奏を始めた。
 ふわりふわり、ぶるぶる震える音が幻想的で楽しい。
 
 おおたかのボイスは、後半はスキャットよりも普通の言葉を使って歌っていた。
 ぶつぶつと単語を切り、意味を解体して歌う。
 印象に残ったのは、「come out!」や「出て・・・おいで〜」って、単語をメロディアスに、さまざまな抑揚をつけて歌っていたところ。
 ちいさなウオッシュボードを手にして、おおたかはリズムを取っていた。

 灰野がエレキギターに持ち替える。
 ここで灰野が演奏したソロが、ぼくはこの夜のハイライトだった。
 それまでの音響的なソロとはがらりとスタンスを変え、ゆっくりと高音部でメロディをつむぎだす。

 とても優しく、透き通るようなメロディ。
 リバーブが効いたギターの音色が、ぱあっと広がっていく。
 最高の瞬間だった。
 後半は灰野のボイスはなく、ひたすら楽器演奏に集中していた。

 後半の演奏も約50分程度。フェイドアウトして音が消えていく。
 灰野とおおたかが視線を初めて合わせる。
 軽くうなずきあって、今夜のステージが終わった。

 アンコールなし。灰野のカラーが前面に出た、ストイックなステージだ。
 灰野目当てで聞きに行った僕は、大満足。
 ぜひ、こういう演奏もCDでリリースして欲しいな。

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