LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

01/4/27   新宿 ピットイン

出演:菊地成孔エレクトリック&アコースティック カルテット・イン・ブルー
 (菊地成孔:ts/ss、南 博:p、水谷浩章:B、大友良英:G,Electronics)


 今夜のライブはかなりの混みっぷり。
 開場前からずらりと観客が並んだ。しかも予約客の比率がメチャ多い。
 そうとう熱烈なファンが多いようだ。

 結局、ほぼ満席。立ち見も少々いたかな。100人くらいの入りだろうか。
 開場が押したせいか、なかなか演奏が始まらない。
 咥えタバコの菊池が、ピットインの楽屋へ戻ったのが8時過ぎ。
 ライブが始まったのは、8時15分くらいだったと思う。

 しょっぱなから菊地はいかにも憔悴。
 そのままぶっ倒れるんじゃないか、と思うくらいテンションが低かった。

<セットリスト>
1)オーバー・ザ・レインボウ
2)ストレート・ノー・チェイサー
3)ミスティ
4)ユー・マスト・ビリーブ・イン・セプテンバー

(休憩)

5)ピノキオ
6)ブエノス・アイレス
7)フォール
8)スーザン・ソンタグ

(アンコール)

9)私は自動的で自由である女

 1曲目は「オズの魔法使い」のサントラで使われた、あの名曲。
 2、3曲目はジャズのスタンダード。
 4曲目はミッシェル・ルグランの曲だそうです。

 まずは一曲目。菊地が曲目紹介をした後、メンバーが楽器を構える。
 ゆっくりと一音をピアニシモでロングトーン。フェルマータ。
 そっともう一度、一音をロングトーン。こんどはピアノで。
 ・・・空白。
 
 この調子で何度も何度も、「一音ロングトーン・・・休止・・・」を繰り返した。
 音量はメゾフォルテくらいまであがる。
 ときおり、続くニ、三音。
 メロディに行くのかな?・・・と思いきや。また休止をいれてじらす。

 5分くらい、この調子で演奏を続けていた。
 休止のたびに全員、おもむろに譜面を覗き込むのがおもしろい。
 タイミングでも譜面に記入してたのかな。

 最初は刺激的だったけど、いいかげん飽きかけた頃。
 やっとメロディへ展開する。
 菊地はテナーサックスで、ゆっくりと主旋律をなぞる。
 きれいな音色を、しみじみ味わいながら聴いていた。

 ピアノ、ギターとソロ回し。
 大友はセミアコを抱えていたが、アンプを通さないナマ音っぽい音でソロを取っていた。

 一曲目が終わるとMC。この日メドレー形式は一曲もなく、律儀に曲間でMCを入れていた。
 ところがテンションが低い菊地のしゃべりは痛々しく、ギャグも滑りまくっていたけど・・・。

 二曲目は菊地いわく「ストレート・ノー・チェイサー・らしきもの」。
 演奏はいたってオーソドックスなジャズ。
 メンバー構成からもっと尖がったジャズを期待してたので、少々以外だった。

 菊地はソロを終わった瞬間、タバコに手を伸ばす。
 火をつけるなり、ひっきりなしにふかす。
 えらいせわしないタバコの吸い方だった。

 そのとき、ソロを取っていたのが南。
 演奏はジャズピアノの文脈。でも、すごく繊細な音使い。
 丁寧に鍵盤を撫ぜるさまは、先日ここで聴いた難波弘之の奏法を思い出した。
 
 この曲での大友は、アンプを通したソロ。
 けれども、かなり抑え目な演奏だった。

 大友がちょっとアヴァンギャルドっぽくなったのは、3曲目の「ミスティ」。
 ソロやエンディングでアンプにギターを近づけて、フィードバックを少々盛り込む。
 エンディングは水谷も弓で弦を弾いた。
 メンバーは揃ってロングトーンを続け、ノイジーに曲を終わらせた。
 
 前半セット最後の曲で、菊池はソプラノに持ち替える。
 ちなみにこのソプラノは知り合いから借りたものらしい。
 しっとりとしたせつない演奏だった。

 菊地のサックスはしみじみうまい。
 甘みのある太い音で、サックスに耳ざわりな悲鳴をあげさせる奏法は、ほとんど使わない。
 
 ライブ全体を通して、破綻のない演奏が物足りない。
 しみじみリラックスして聴けるプレイだったけど。

 しばしの休憩をはさみ、第二部は9時40分頃スタート。
 ちなみにこの日は津上健太(sax:大友良英ジャズ・クインテットや、DCPRGなどで共演)が遊びにきていた。
 共演(菊池いわく「替わりに吹いてくれ」)があるかな?と、期待したけどかなわなかった。

 第二部は菊地のオリジナル中心らしい。
 一曲目で菊地はソプラノサックスを持つ。

 演奏が始まると、大友は発振機に手を伸ばした。
 パルス音を小さく膨らまし、ピットインの中に響かせる。ドローン的な使い方だった。

 しばしのち大友はエレキギターへ持ち替える。
 ピックで弦のあちこちを弾いたり、音叉をピックの代わりに使ったり。
 バンド全体が決して乱暴にはじけないせいか、大友のノイズも遠慮がちだった。

 エンディング間近で、菊地の合図とともメンバーが倍テンでテーマを繰り返す。妙にその瞬間がスリリングだった。

 2曲目に行く前に、長めのMC。
 休憩をはさんでも、菊地のパワーは戻ってない。
 MCでの本人の言葉を借りれば、「筋肉弛緩剤を飲んだ」ような雰囲気だった。
 
 南が菊地のMCの裏で、ピアノを遊び弾きする。
 「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」や「想い出のサンフランシスコ」、「ジャイアント・ステップス」など。
 菊池が南のソロピアノを聴かせようと、ふっと喋りを止めるたびにすぐさま、律儀に演奏を止めてしまうのが面白かった。

 二曲目は「仮題」と菊地が言っていた。
 サックスをテナーに持ち替える。
 スペインの漁港を思わせる、優しいメロディの曲だった。
 メロディをベースとテナーがユニゾンで奏でる。
 そんなアレンジが、印象的。

 3曲目は、再度ソプラノサックスへ。
 こんどは一転してクールなメロディ。
 テンポこそゆっくりめだったけど、僕はこういう緊張感がある曲が好きだな。
 水谷がにぎやかにベースの弦を引っ叩く。

 MCで、いろいろ菊池が「告知ない?」ってメンバーに聴くけれど、いまいち盛り上がらない。
 おとぼけだったのは大友。「あ、CD売るの忘れた〜」とMCの段階でいきなり言い放つ。
 「ま、どうせ売れないからいっか」と、いたってのんきな感じだった。
 
 第二セット最後になる4曲目は「スーザン・ソンタグ」。
 緊張感らしき瞬間を感じたのは、この曲が一番多かったと思う。
 とはいえ、全員が最後まではじけない。
 隔靴掻痒って言葉がしきりに頭へ浮かぶ演奏だった。

 「おやすみ」と菊地が言いながら、ひらひら顔の横で手のひらを振る。
 楽屋に引き上げるメンバーに、アンコールの拍手を送る。
 どうもこのままじゃ物足りない。
 ちらりと観客を見回すと、拍手してる人はどうも少ない。なんでだろう。

 ほとんど待つこともなく、メンバーが再度登場。
 さらりと演奏を始めた。
 この曲も、しごくあっさりした印象。
 
 菊地のサックス、南のピアノ。二人の演奏は音色がきれいで楽しい。 
 水谷はどっしりビートを支える。
 だけど、大友がいまひとつ物足りない。派手にノイズをばら撒いて欲しいな。

 あっさり一曲を終えたメンバーはステージを降り、客電がつく。
 このメンバーの実力はこんなもんじゃないはず。
 腹八分目で、あっさりの夜だった。

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