LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

01/3/18  下北沢 レディジェーン

出演:灰野敬二+豊住芳三郎
 (灰野:g、豊住ds)


 レディジェーンは初めて。たどりつくまでに、ちょっと迷ってしまった。
 下北沢の道はなれないもので、三叉路を「よしこっちだ!」と自信を持って、三茶のほうへ行ってしまった。とほほ。

 この店は、基本的にジャズバー。店内は横に細長い。
 ステージのスペースとなる場所の横に、10人くらい座れるスペースがある。キャパは30人って所かな。

 開店時間ちょい過ぎくらいに入ってみると、すでに観客がいっぱい。
 ピアノのある場所がステージとなる。すでにドラムセットとギターがセッティングを済ませてあった。
 
 最終的に20人くらい入ったのかな。
 外人が何人か座ってたのと、何人もの観客がめいめい録音してたのが印象的だった。
 もちろん、店内は灰野にあわせて禁煙。
 一人タバコを吸ってた人も、店員にきっちり注意されていた。

 さて。今回のコンビで演奏されるのは、たぶん今年の一月ぶり。
 前回の演奏は「in F」だったはず。
 そのとき見そびれてしまったので、今夜は楽しみだった。

 ちなみに店が作ったチラシの、コピーが秀逸。
「ギターを持った悲しみのテロリストが、フリージャズのグラディエーターと出会ったことの次第は?!」
 なんとなく音の雰囲気を捉えてて、おもしろい。
 
 演奏が始まったのは8時ちょいまえくらいかな。
 店の入り口から二人が登場。
 灰野はいつもどおりサングラスに黒尽くめ。杖もちゃんと持っている。
 楽器を持つと挨拶も何もなしに、いきなり演奏が始まった。

 まずは小さなボリュームで、プレイ開始。
 豊住が素手でドラムを叩く。
 灰野はエレキギターで、パルスのようなフレーズをかぶせていった。
 今夜は全て即興演奏。二人の興が乗るまま、演奏のテンションがぐいぐい変わっていった。

 最初のセットは、ゆっくりと盛り上がっていく。
 豊住は素手からブラシに持ちかえた。
 単にドラムを叩くだけでなく、ブラシの角でシンバルを引っ掻いて音を出したり、壁やスタンドを叩いてみたり。足をフロアタムに乗せ、ミュートさせたりもしていた。
 リズムを刻むというより、無拍子のパーカッシブな演奏だった。

 ひとしきり混沌とした打音を響かせた後で、こんどはスティックへ持ちかえる。
 そのままでかい音で叩き始めた。灰野も合わせて、ギターのボリュームを上げた。
 
 豊住は基本的にフリーに叩くが、ときにすばらしく魅力的なビートを刻む。
 小節は意識させないが、ボタン一つでリズムが切り替わるような、きびきびしたドラミングだった。

 一方、灰野は意地でもギターのリズムを、ドラムに合わせない。
 ひっかくような音色で、ギターをかきむしっていた。
 エレキギターをノイズマシーンと楽器と、2種類の位置づけで演奏する。
 ネックの上を指が駆け抜け、細かいフレーズをばら撒く。
 そして次の瞬間に、弦をわしづかみにしてノイジーな音に変化させた。

 次第にボリュームが大きくなってくる。
 ギターにエフェクターがかまされ、暴力的に鳴りはじめた。
 二人は視線を交わさない。 
 豊住はそっぽを向きながら、無造作にドラムを叩きつづける。
 そして灰野はギターに覆い被さり、時に激しく身体を震わせて弾き殴っていた。

 もっとも灰野は最後まで椅子に座ったままのプレイ。
 立ち上がって、叫びながらのギター演奏も聴いてみたかった。

 グルーヴをほとんど感じさせないまま、フリーなセッションが延々と続く。
 最初のセットは50分くらいの演奏かな。
 二人の音が高まり、ブツッと切れる。
 「終わりかな?」と思わせて、灰野がソロでギターを弾き始めた。

 ネックをわしづかみにして、太い音でばりばりとかきむしる。
 数分くらい弾いたあと、アンプに倒れこむように電源を落として終了。

 三十分くらい休憩した後、第二セットが開始。
 灰野は休憩時間に、ネックへカポをふたつはめた。
 でかい音で高音部を中心に、ギターを引っ掻き始める。
 後半は最初からテンションの高い演奏が続いた。

 ギターはメロディらしいフレーズはほとんど弾かない。
 瞬間の音をつかみとって展開したかと思うと、次の瞬間捨ててしまう。
 エフェクターを駆使して、ノイズをばら撒いた。
 聴き所の歩留まりが多いインプロだから、退屈したりはしない。
 とはいえさすがに50分間、聴くテンションを保つのはつらかったなぁ。

 途中で灰野がギターから、カポを毟り取った。
 金属棒を二本、ネックに差込んで音を変調させる。
 エフェクターで歪んだ音と重なり、奇妙な響きの音が面白かった。

 もちろん第二セットの間中、ハイテンションで突っ走っていたわけじゃない。
 緩急を効かせて、時には静かな音に変化する。
 どちらが音の主導権を握っているかは、最後までわからずじまいだった。

 豊住はタイコを叩くだけでなく、さまざまな音を織り込む。
 タムにカウベルやタンバリンを乗せたり、ハイハットを外してオーケストラのシンバル風に打ち合わせたり。
 掌で頬を叩く音、紙切れをくしゃくしゃにする音も盛り込んでいた。
 くしゃくしゃにした紙で、そのままドラムを叩いてたっけ。
 音は小さいけど、微妙な響きがおもしろかった。
 
 最後は豊住が、ブラシを振り回す。
 ひゅわん、ひゅわん、と静かに音が響く。
 灰野がそれまで弾いていたギターを一段落させて、ちいさい音色に切り替えた。
 そのまま視線を豊住に投げる。
 
 豊住は気づかずに、夢中でブラシを空中で鳴らしつづけた。
 灰野が二度三度、視線を投げるがあくまで豊住は気づかない。
 業を煮やしたのか、灰野がまたギターをかき鳴らし始めた。

 ひとしきり盛り上げた後に、やっと二人の視線がかみ合う。
 最後はやはり灰野。崩れ落ちながらアンプに手を伸ばし、電源を切り、強引に終わらせた。

 第二セットも、ほぼ50分くらい。
 そのまま拍手にのって二人はステージを退場、店の外へ出て行く。

 やはり演奏そのものはおもしろい。
 ただ、灰野のステージは、なんか緊張するんだよな。

目次に戻る

表紙に戻る