LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

00/12/16 池袋 東京芸術劇場・中ホール

出演:金徳洙サムルノリ

 「韓国の代表的打楽器、チャンゴ(杖鼓)・プク(鼓)・ケンガリ(小金)・チン(銅鑼)をサムルといい、演じ遊ぶをノリといって<サムルノリ>」(パンフレットより引用)
 過去に山下洋輔や仙波清彦と共演したニュースを見て、サムルノリは名前だけ知っていた。
 結成は1978年とか。もっとも音を聴くのは、今回が始めて。
 パンフによれば坂本龍一や鼓童、シャンカール、ハービー・ハンコックらとも共演しており、世界中で活動するユニットらしい。
 
 裏でやってたMULL House 3/5とサムルノリと、どちらに行くか迷ったけど・・・あんまり聴く機会が少ないかなと思いこちらへ。
 会場はえっらくきれい。ロビーにクロークがあるような、ちゃんとしたホールに行くのはひさびさ。
 客席はまずまずの入り。400人くらいいたのかな。

<セットリスト>
1・シッキム
2・三道ソルチャンゴカラク
3・トッキイヤギ
4・三道農楽カラク

 (休憩)

5・トダン
6・ピョルシン
7・パンクッ

 開演時間を5分くらいすぎて、幕がするするすると上がっていった。
 ちり〜ん、ちり〜んと静かに鐘がなり、カズー風な音色の笛がメロディを奏でる。
 厳粛な雰囲気でステージが始まった。

 舞台にはコの字型に小さな台が三つ。
 中央にサムルノリの主要メンバーであるパーカッショニストが4人。
 舞台左側には琴や笛風の楽器を演奏するメンバーが3人。
 右側には小さな鐘や太鼓を叩く人が3人。
 そして、そのコの字型になった中央に、男が2人。
 全員、民族衣装風の衣装を着て、どっかりあぐらをかいている。

 ステージ後方には、鎧を着た獣頭人身の大きな絵が数枚ぶら下がる。韓国の神様かな。
 さらにハングルでなにやら書かれたのぼりが一本。
 舞台美術はその程度のささやかなものだった。

 一曲目は中央に座った男の二人(朴鐘鎬、南相一)による歌を中心に、金利恵による舞踊を盛り込み、荘厳に演奏する。
 歌はコブシをぐいぐい効かせ、ホール中に響く。たぶん、マイクは使っていないはず。
 ただ、正直退屈になる場面が多かった。
 演奏のテンションが低いし、曲調の展開が少なくって。
 開演前に飲んだビールの酔いが回って、うとうとしてしまった。

 二曲目でがらっと雰囲気が変わる。ステージ中央に4人だけが残り、タイトなパーカッションアンサンブルを始めた。
 全員チャンゴ(杖鼓)を抱え、着実にビートを積み重ねていく。
 音程をそれほど出せる楽器じゃないらしく、刻むリズムがすごいわりに音色が単調で残念。
 とはいえ、いかした演奏だ。

 三曲目の「トッキイヤギ」から、わけがわからなくなってくる。
 サムルノリを「パーカッション集団」としてみていた僕は、この公演を「厳粛な音楽を演奏する楽団」なのか、「とにかくエンターテイメント」とすればいいのか。距離感がどうにもつかめなくなっちゃった。

 この曲は寸劇風の演出。主演は朴鐘鎬、南相一の二人で、一人はウサギの格好、もう一人は亀風の甲羅を背中につけて舞台に登場した。
 語られる歌はほぼすべて韓国語なので、ストーリーがいまいちわからない。
 最初は「ウサギと亀かな?」と思ったが、どうやら違うみたい。
 ウサギ役が亀役にどつかれたりしながら、「私は牛です!」「私は馬です!」とか(この部分だけ、日本語で言っていた)と叫び、形態模写をする。
 ウサギのくせに、他の動物を羨ましがるのを皮肉るストーリーなのかなあ。
 
 コメディなのか、儒教風の教育物語なのか。それすらわからないので、ひたすら音楽を聴いていた。
 「私は〜です〜!」って叫ぶときのメロディがかっこよくて、妙に耳に残ってる。
 全般的にメロディが緊張感に溢れ、演奏のテンションが高いのは素直に評価したい。

 そして演奏された「三道農楽カラク」。これが音楽的には今夜のピークだった。
 またもやステージにはパーカッション4人のみ。
 今度はチャンゴ(杖鼓)が二人に、ケンガリ(小金)やチン(銅鑼)が各一人の編成。
 ケンガリのチャンチャンいうビートを軸にして、チャンゴやプクを激しく叩いていく。
 即興の要素は少なそう。時折、ビタビタとユニゾンでビートが突っ走る。
 
 基本はアンサンブル。ケンガリとチャンゴが応答しあいながら、激しいリズムでぶっといグルーヴを作り出した。
 途中でチンを演奏してた人も、ケンガリに持ち替える。
 そこからケンガリとチャンゴによるリズムの会話が、ハイスピードに盛り上がっていく。
 ケンガリの乱打が甲高く響き、ずっしりとケンガリが支える。
 緊張感たっぷりにさまざまなリズムがスリリングに絡みあう、最高の瞬間だった。

 休憩を挟んだ第二部では、かなり様相が変わってしまった。
 音楽のコンサートというよりも、音楽をメインに据えたパフォーマンスみたいな感じ。

 まずはおごそかな雰囲気で始まった一曲目。
 赤を基調にした民族衣装で、金利恵がゆったりと舞う。
 続いてはいったん幕を下ろして、舞台にコの字型に据えられた台をとっぱらう。
 演奏されたのは男4人による、語りのような歌のような曲。
 リズムはどちらもオマケみたいな感じで、どうも物足りない。

 三曲目はメンバーが頭に紐を結び付けてきた。
 弁髪をイメージするとわかりやすいと思う。
 頭の先に棒をつけ、2メートルくらいの布切れをくっつけている。

 それを太鼓のリズムに合わせ振り回し、新体操のリボンみたいな動きで楽しませる芸だ。
 ほとんど首を動かさずにリボンが踊るのを見るのは楽しいけど、さすがに10分くらい見てたら飽きてしまった(けっきょく、20分以上この芸をやってたんだよ)
 
 しまいには、5メートルくらいの弁髪布を持ち出して、ビートにあわせて振り回すのには呆れてしまった。まるでサーカスみたい。
 視覚的には楽しめるけど、もっと音楽が聴きたいのに。

 セットチェンジの合間にリーダーの金徳洙が話したところによると、この芸は世界初演らしい。
 金徳洙としては、いつまでも太鼓の連打だけでなく、新しい芸を盛り込みたいんだろう。気持ちはわかるんだけどな。

 エンディングでは、メンバー一堂が太鼓を叩きながら拍手に答える。
 パーカッションを演奏しつつ、順番に客席に下りてくる。
 そのままステージ後方の出口に向かって行進して行った。

 「これで、またロビーから客席へ戻ってきて、ステージに上がったところで
大団円かな?」と思いきや。
 メンバーがロビーに消えてしまったところで、あっさり客電がついてお開き。
 えっらくあっさりした終わり方で、拍子抜けしてしまった。

 とりあえず、楽しむことはできた。
 とはいえ、もっとパーカッションを聴きたかったなあ。
 2時間ずっと4人によるケンガリの連打だけでも楽しめたのに。

 僕がサムルノリを見たのが遅すぎたのかな。
 もし20年前に聴いていたら、すさまじい衝撃を受けていただろう。

 2001年3月に金徳洙は単独来日し、山下洋輔や金子飛鳥と共演するらしい。
 こっちのライブは楽しめそうだ。

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