LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

00/11/29  新宿 ピットイン

出演:イースタシア・オーケストラ
   バンマス:藤川義明(as,ss)
   メンバー:梅津和時、片山広明、時岡秀雄、堀切信志(以上sax)
        吉田哲治、神村英男、小宮いちゆう(以上tp)
        佐藤春樹(tb)、翠川敬基(cello)、関根まり(per)
        早川岳晴(eb)、小山彰太(ds)

とびきりの演奏を堪能した夜だった。

ピットインに到着したのは、7時40分頃。
仕事を強引に抜けたものの、時間がぎりぎりで・・・無事に開演前に入場できてホッとした。
中に入ってみると、なかなかの盛況。7〜80人くらいいたんじゃないかな。
しかも客層がみごとにばらばら。いかにも古くからのジャズファン風のおじさんから、若い女の子のカップルまで。
イースタシアって、幅広い人気があるんだなあ。

客席や楽屋にたむろっていたメンバーが、ぞろぞろとステージに上がっていったのは8時くらい。
まだ客電も落ちてないのに。
こういう、きどらない無造作な始まりかたは好き。
そうそう。演奏前には、クラシックのコンサートよろしくチューニングしてたっけ。
ジャズのライブで、演奏前にチューニングするなんてめずらしいなあ。

僕の席は、ステージ右手側。前から5列目くらいかな。
ピットインのステージは、そこそこ広いと思う。
だけど13人ものメンバーがぎっしり並ぶもんだから、僕の席からだとステージの一部が死角になっちゃう。
そのせいで演奏中、メンバーの何人かは演奏してる姿が見えないのは、つらかった。

メンバーがステージにそろったところで、バンマスの藤川がいきなり曲の構成を微妙に変更するむね伝える。
リハをしてるだろうに、まさに土壇場でいじるとは・・・おもしろいなあ。

<セットリスト>
1. MACEIO BLUES
2. TANGO
3. PATE POTE
4. FIO DENTAL
  (休憩)

1 DANCER'S IMAGE
2 TATUZINHO
3 NANA'S DREAM
4 BOLD AND ABLE
 (アンコール)
ROM DO-DO

演奏が始まってびっくり。
先日藤川のライブを見に行ったときは、とことんフリージャズだった。
だから今回もてっきりフリーな演奏かと思いきや。
いきなりオーソドックスなビッグバンドジャズが始まった。

メロディはほんのり癖があるけど、基本的にはなめらかでポップなサウンド。
メンバーは目の前の譜面台を見つめながら、きれいなアンサンブルを聴かせた。
PAは通しているものの、全体的にヴォリュームは小さめ。
個々の音がかなりくっきり聞こえる。もっとでかい音で流してもいいのにな。

藤川はほとんどサックスを吹かない。ときたま、テーマをアンサンブルの一員として、いっしょに吹くくらい。
ずっと客席に背を向けたまま。ほぼ、指揮者に専念していた。

一曲目の演奏から、しきりに藤川がメンバーにサインやキューを送る。
どんな意味を持ったサインなのか、わからなくて残念。
たぶんソロのキューとか小節数、もしくはどのテーマやサビを吹くかを指示してたんじゃないかな。

二曲目は翠川が作曲の「タンゴ」。前半に翠川のチェロのソロをたっぷり聞かせる。
先日の緑化計画のライブと違って、チェロの音がしっかり聞こえてうれしい。
テンポはスローになり、とてもロマンチックな曲。
さりげなく関根が大活躍。
ソロのバックでさまざまな小物を次々に取り出し、いろんな音色のパーカッションで演奏に華を添えていた。

三曲目は「パテ ポテ」。まずは関根によるパーカッションのソロから始まる。
名前も仕組みもわからないけれど、面白い楽器を使ってたなあ。
おおきい筒から紐が出た形のパーカッションを抱え込む。
その楽器を叩いたり、紐を引っ張ったり。
そのたびごとにさまざまな音色が生まれていた。

ホーン隊によるコミカルな雰囲気のテーマをはさんで片山のソロになると、藤川が的確にバンドをコントロールする。
身をよじらせながらパワフルに吹くソロに対し、見事なタイミングで、他のメンバー全員によるブレイクをなんどもなんども入れた。

藤川の指先一つで、オーケストラの音がきれいに動く。
それが、すさまじくかっこいい。
結局30分近く「パテ ポテ」を演奏してたんじゃないかな。
前半ではこの曲がベストの演奏だった。

途中でドラムのソロが挟み込まれる。
これがまた猛烈なソロで、すばらしかった。
途中でフロアタムのスタンドがおかしくなり、横にいた早川がフロアタムを持ち上げる。それを和太鼓よろしく小山が叩いてみせる、おもしろい一幕もあった。

ステージが進んでいくにつれて実感したのが、藤川の天才的なアレンジセンス。
ソロのフレーズを聴きながらサインをメンバーに送り、絶妙のタイミングでバンドにバックアップさせる。
だから、ソロ回しが冗漫になったりしない。

ソロの合間にオーケストラでテーマをカットインさせ、すてきな効果を上げる瞬間が何度となくあった。
しかも。さすが直前にチューニングしてるだけある。
管はびったりピッチが合ってるから、オーケストラのユニゾンが決まった瞬間が、たまらなくここちよい。

4曲目はブラジルっぽい曲。カバーかな。
演奏前に藤川が手を振りながらリズムを取り、テンポをメンバーに提示する。
なのに、すぐさま演奏に入ったりしない。しばし藤川がリズムを取りつづける。
まるで藤川が、これから始まる演奏へ助走をつけてるみたいだった。

一時間くらい演奏して、第一部は終了。
30分あまりの休憩を挟んで第二部が始まった。
またもや演奏前に、簡単ながらチューニングを始める。
第二部では4曲演奏したが、すべてがアップテンポの軽快な曲だったと思う。

ここからは、以前から演奏している曲ばかりらしい。
後半戦はバンドのアンサンブルよりも、ソロを生かすアレンジが多かったな。

ソロが始まると、藤川がつぎつぎにメンバーに合図して、演奏をやめさせる。
そして無伴奏でソロ演奏を聴かせるってパターンが何度となくあった。
基本的にどのミュージシャンも、インテンポでソロを取ってたから、それほどフリーな印象はなかったけれども。

それにしてもメンバーの演奏を見ていて、ほのぼのとした雰囲気が伝わってくる。
リラックスしたテンションの中で、溢れる音はとてもいきいき。
音の表情はくるくる変わる。時にパワフル。時にフリー。
それぞれのメンバーが素晴らしい演奏をしていた。

最後の曲では時岡と掘切の二人に、サックス二本によるフリーな演奏をさせた。
そしてそこにオーケストラをかぶせるアレンジ。音像はしだいに混沌とした雰囲気になっていくのが楽しい。
エンディングまじかでは、小山が飛び切りのドラム・ソロを聴かせた。

左足でハイハットを規則正しく踏んで、自分でバッキングテンポを決める。
そのシューシューいう音にのり、タムの上をスティックが激しく踊る。
右足と両手のプレイはますます激しくなっていく。
なのにハイハットはあくまでもインテンポ。タムとバスドラのコンビネーションと、ハイハットの対比がたまらなくスリリングだった。

最後の曲が終わり、最高の演奏に拍手を送っていると、ステージに一度引っ込まずにアンコールを始めてくれた。
演奏したのは、リズムやメロディがアラブっぽい曲。

ここで始めて藤川がステージに上がる。
ソプラノサックスを持って、梅津とフリーなソロの応酬を始めた。
すかさず翠川がリズム隊にサインを送り、二人の音だけがピットインに響く。
藤川がまともに吹いたのは、このときくらいかな。
せっかくのバンマスなんだから、もっとめだってもいいのに。

あっというまにステージは終わったけど、正味二時間弱くらいかな。
大満足の演奏だった。
彼らは年に4回くらいのステージが目標だとか。
とてつもなくもったいない・・・。そうそうたるメンバーだから、スケジュール調整は難しいだろうけど。もっともっとライブを聴きたいな。
次のライブは一月にピットインにて。う〜む。聴きたい。

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