LIVE レビュー

見に行って、楽しかったLIVEの感想です。

00/11/18   西荻窪 アケタの店

出演:渋谷毅

 深夜0時。開演時間ちょうどに、ぼくは店の中に入った。
 観客はすでに10人ばかりいる。いくら土曜とはいえ、こんな時間なのに・・・。
 それ以降もお客はひっきりなしに来店し、最終的には20人くらい客がいたかな。
 半分くらいは、若い女性。
 てっきりジャズマニアの中年男性が、メインの客層だと思っていたから意外だった。
 
 0時20分くらいに渋谷がピアノの前に座る。
 店員がピアノと反対側を照らす照明(豆電球)を消してまわり、アケタの中でピアノの周辺だけがほの明るく浮かぶ。
 ピアノの上には、灰皿とビール瓶、コップを置いてある。
 そして、何の前おきもなく・・・ピアノから音がこぼれだした。

 つぎつぎに、ロマンチックなメロディが溢れ出してくる。
 黒っぽいジャズの熱気は感じにくい。かといって、妙な堅苦しさは微塵もない。
 だけど、ふわふわとアドリブが踊るさまは、しみじみかっこよかった。
 
 流れ出るメロディは、ダイナミズム的には一定だ。
 メゾフォルテくらいの音量で、淡々とフレーズをこなしていく、自然体の演奏だ。
 ペダルを多用して、音がふくよかに響く。いつのまにピアノを弾きながら、足を組んでリラックス。
 トリッキーな演奏をしたりしない。
 実にオーソドックスなジャズ・ピアノだった。

 たぶんこの夜は、スタンダードばかりを演奏していたと思う。
 ただ、曲名がわからないので、セットリストをかけないのが残念。
 渋谷のプレイは、さりげなくすすんでいく。

 しみじみ感じたのは、テーマとアドリブの境目がわからないってところ。
 メロディがなめらかに、くるくると表情を変えていく。
 あまりに自然な展開でフレーズが流れていくさまは、一個の曲を続けて弾いているようだった。
 いつのまにか曲は表情を変え、そして一曲としての統一性がとられている。
 そんな矛盾した要素が、ぴったりと調和した演奏だった。

 和音の響きがとてつもなく心地よい。
 基本は左手でコードを提示し、右手でメロディを演奏。
 左手はさまざまな和音を弾いて、音の雰囲気をがらりと変わる。
 そんなジャズとしてはありふれたさますら、素敵に聴こえた。

 一曲の演奏そのものはとても短いものだ。
 一曲あたり3分くらいかな。淡々と演奏を始めて、さっとプレイを終了する。
 終わりっぽいフレーズを提示して、ペダルから足を離すのが、曲終了の合図。
 そして、観客の拍手に答えるでもなく、ビールをついで飲み干していた。

 第一部は30分くらい。そのあと休憩を取って第二部が始まる。
 この休憩時間が、40分くらい・・・深夜ということもあり、もうすこし構成は何とかして欲しかった。
 タバコを切らしてたせいもあり、間が持たなくて困る。
 これなら、休憩無しで一時間演奏して終わったほうがいいよ。
 ・・・じっさい、正味一時間ちょいの演奏時間だったし(笑)

 てなわけで、ぶうぶう言ってしまったが。
 とにかく1時40分くらいに第二部が始まった。
 今度はピアノの上にはビールを置かない。
 無表情で鍵盤の上に指を滑らせた。

 そう、渋谷は表情をあまり出さずに演奏していた。
 目はほとんど閉じたまま弾いてるんじゃないかな。
 ボディアクションもほとんどない。無造作に一定のタッチでピアノを演奏する。
 そして、どの瞬間を切り取っても、優しくロマンチックなフレーズが、指先からこぼれだすからすごい。

 第二部では、わりと演奏は長尺なものが多かった。
 時間が時間だけに、うっとり聴いているとつい、眠り込みそうになる。
 じっさい、演奏中に周りをさりげなく見渡すと、舟をこいでいる観客が何人も見受けられた。
 とはいえ、その気持ちはよくわかる。
 渋谷のピアノに身を任せ眠り込んでいったら、どんなに気持ちいいことだろう。
 
 第二部は2時10分くらいに終了。
 渋谷は始めて「今日はどうもありがとうございました」と、にこやかに挨拶して、さっさとステージを降りてしまった。

 アケタの外に出た途端、夜風がとても冷たい。
 渋谷の暖かいピアノと、外の冷たさ。
 その対比が妙にはまる、すてきな夜だった。

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