今お気に入りのCD(番外編)

CDじゃないけれど、見に行ったライブの感想です。

2000/11/4  西荻窪 アケタの店

出演:藤川義明(as)+千野秀一(p)+今井和雄(g)

 彼らの演奏を聴くのは初めて。
 アケタの店に開演時間の定時に入ってみたら、お客が僕一人・・・(^^;)
 最終的にもう一人お客はきたくらいかな。動員的にはかなり苦しくて残念。

 もっとも、演奏は最高だった。
 よく考えたら、僕はフリージャズをライブで聴くのは初めてのような気がする。
 演奏を聴きながら「やっぱりこの手の音楽はライブで見るに限るなあ」と、ずっと思えたから。

 だってライブだと、空間の雰囲気まで伝わってくるからね。
 CDだと、単なる音しか伝わってこない。奏者のアイコンタクトや、さまざまなそぶりで演奏ががらりと変わるさまがわからない。
 ビデオでもダメだ。
 カット割りを細かくすればするほど、「その瞬間に他の奏者がなにをやっているか」がわからない。ロングで引いたら・・・多少はましだけど、「空間の雰囲気」を切り取ることができるか。微妙なところだな。

 演奏が始まったのは20:15くらい。
 まずは、三人が静かに、静かに、演奏を始める。
 今井はエレキギターを座って抱え込み、弦を指で撫で始める。
 ピックを使わない。両手でせわしなくタッピングしながら、ヴォリュームペダルで調節する。
 音量はあくまで小さい。
 
 千野は時折小さな音でピアノを叩くのみ。
 エアコンかマイクのハムノイズだけが店に響き、空気がどんどん緊張してくる。
 藤川は目を閉じてすっくと立ち、ポイントポイントにアルトサックスで、わずかに食い込んでくる。

 テンションがぐいぐい高まっていった。
 演奏は次第にうねり始め、混沌と高まっていく。
 気が付いたら、三人とも激しくフリーな演奏を繰り広げていた。
 ドラムがいないので、ビート感は希薄。
 三者三様にリズムを提示し、見事なポリリズムだった。

 今回は三人ともアイコンタクトをまったくと言っていいほど交わさない。
 たまに千野が二人に視線を投げるくらいかな。
 今井はギターに屈みこんで、一心不乱に指をネックに走らせている。
 藤川は目を閉じて、ひたすら音に集中していた。

 三人が演奏に従って、身体をゆらす。
 一番派手だったのが千野かな。
 踊るように身体を舞わせながら、指を鍵盤に踊らせていたっけ。

 ピアノとギターが暴れているとき、藤川は唇をマウスピースに寄せ、また離す。
 とびきりの音を鳴らすタイミングを慎重に伺っていた。
 こういう些細なしぐさは、CDやビデオじゃ絶対に伝わらない。

 フリージャズは、聴き手の態度によっても、演奏の価値は大きく変わると思う。
 「あんなの、でたらめやってるだけじゃん」って耳を閉ざしてしまうと、どんなにテンションの高い演奏でも心に飛び込んでこない。
 だけど、このときのライブみたいに、少しでもプレイヤーの音を掴み取ろう、として聴くと、耳をわしづかみにされて演奏にのめりこめる。
 そんなあたりまえのことを、しみじみ実感していた。

 今夜の演奏は、曲らしい展開は特にない。ひたすら演奏を続けるのみ。
 だから僕は「どうやって演奏を終わらせるのか」が楽しみだった。
 フリージャズは、こういう長丁場で演奏すると、洗面器の中に顔をつっこんでるみたいだ。
 プレイヤーは音に集中しているが、ふっと気を抜くとテンションが下がってしまう。
 
 第一部でもそんな瞬間があった。
 三人とも猛烈な勢いで演奏していた中、今井が袖で額の汗を弾く。
 千野がピアノの横に置いたコーヒーで一息ついた。
「ここで終わりかな?」と思ったが、藤川が許さない。
 まだまだテンション高くサックスを吹き鳴らして、演奏は続いていく。

 けっきょく一部は、50分くらい。
 終わったときは、集中して聞いていたせいか、僕までぼおっとしてしまった(笑)
 今回は静かに演奏が終わったけど、たまにはテンションを高くしたまま、どがしゃん、ってブレイクして終わる演奏も聴いてみたいなあ。

 短い休憩を挟んで第二部が開始。
 今度は、しょっぱなから三人とも派手な演奏を繰り広げる。
 千川は持っていたマフラーでピアノの弦をひっぱたいたり、指でかき鳴らす。
 時に弦を掌で押さえつけながら音を鳴らし、極端にミュートする。
 トリッキーな演奏を多用していた。

 千野は指を激しく動かし、フリーな演奏だけでなく、時にスケールらしきものを繰り返す。
 その演奏に千川が答える瞬間もあって、とてもポップに聴こえた。
 第二部の演奏は、緊張感に満ちたプレイとはがらりとかわって、かなり聴きやすかったな。

 三者三様に即興を繰り広げる中で、奏法がもっともとっぴだったのは藤川。
 最初はソプラノサックスを使って、甲高い音でインプロをしていたが、さらに首からもう一本ソプラノサックスをさげる。
 演奏のタイミングを微妙にはかって、ここぞというところで二本吹きを聴かせる。
 キーが同じだから、音に厚みが出て面白かった。

 しまいには、さらにアルトサックスをくわえて、三本吹きまで披露してくれた。
 三種類のマウスピースをくわえるのに、かなり苦労していたけど・・・。
 僕もサックスをやっていたから多少は想像つくけど、多本吹きだとアンブッシアがめちゃくちゃになるから、そうとう集中力をそがれるだろうになあ。

 さらに藤川は声による即興も披露した。
 マイクに口を寄せて、ささやくようにドイツ語風の言葉をテンポよく乗せる。
 サックスを吹きながら叫ぶ技もやってたっけ。

 千川と今井が演奏のテンションを次第にさげていく合間に、藤川がヴォーカルである単語を何度もカットインさせる。
 幕が下りるように静かにテンションをさげて、きれいにエンディングとなった。

 終わってみると、刺激的な演奏がいっぱいの素敵なライブだった。

 今月末(11/29 新宿ピットイン)に、藤川率いるイースタシア・オーケストラのライブがある。そこでも、こういうフリーな演奏なのだろうか。何とか聴きに行きたいなあ。

目次に戻る

表紙に戻る