今お気に入りのCD(番外編)
CDじゃないけれど、見に行ったライブの感想です。
00/11/1 新宿 新宿ピットイン
出演:渋谷毅オーケストラ+1
渋谷オーケストラのデビューは、1986年の10月に名古屋で行われた「高柳昌行の世界」がきっかけだったそうだ。
そのまま今に到るまで、多少のメンバーチェンジをしつつも、脈々と活動を続けている。
渋谷は今年で61歳になるはず。なのに枯れずに活動を続けてくれるのはとても嬉しい。
もっとも、渋オケのライブを見るのはこれが始めて。
名前は、ピットインやアケタのスケジュールで名前は何度も見かけていたのにね。
足を運ばない理由をあえて挙げるなら、そのとっつきにくさ・・・かなあ。
渋オケのCDは、何枚か持っている。
アルバムを聴いていて、あまりの自由な演奏に気後れしていたせいかも。
構成はありながら、自由自在にソロをまわしていく音が、すっごく「大人のジャズ」に聴こえた。
だけど、先日あるメルマガで渋オケのレビューを見かけた。
そこでは渋オケのライブを、とても魅力たっぷりに書いていたんだ。
そのメルマガをきっかけにして、僕は聴きに行くチャンスを狙っていた。
本日の出演者は下記の通り。
渋谷毅(p、org)、峰厚介(ts)、松風鑛一(ts、bs、fl)、津川研太(sax)、林栄一(as)、松本治(tb)、石渡明廣(g)、上村勝正(b)、古沢良治郎(ds)、ここに、スペシャルゲストとして坂田明(cl,as)が加わる。
僕は日本のジャズ界には詳しくないけれど、かなり見慣れた名前が多い。そうそうたるメンバーだと思う。
開場は当然のごとく遅れた(笑)
僕は仕事を早めに切り上げて、本当の「開演時間」の19:30には新ピに到着してたけど、観客すら並んでいやしない。もう、みんな「開演時間」には慣れっこなのかなあ。
せまい新ピの椅子に腰掛けて開演をひたすら待つ。
フロアにリハーサルの音がつぎつぎ漏れてきて、これから始まるライブの期待を盛り上げた。確か20:00ちょいまえくらいに開場したはず。
観客数はたぶん20人強。出演メンバーのわりに、さみしい客数なのでびっくり。もっと大勢聴きに来るのかと思ったよ。
開演したのは20:15くらいかな。
どやどやとメンバー達がステージに上がり、楽器を持ち出す。
さらりと渋谷がメンバー紹介したあと、演奏が始まった。
最初は思い思いにメンバーが音をふわふわ鳴らし、演奏に突入していく「Great
Type」から。
音はそれほど大きくない。
それぞれの音がくっきり聞こえて、ちょうどいいボリュームだったと思う。
それにしても、奇抜なオーケストラだ・・・。
ソロ回しが多いのはともかく、ほとんどバンドのメンバーがソロの演奏をバックアップしないのにはびっくり。
この夜の演奏では、だれか管がソロを吹いているときは、ほぼドラムがリズムを刻むのみ。
普通なら、ベースやギター、もちろんピアノがハーモニーをつけるのに。
つぎつぎリズム隊が演奏を止めていき、ドラムとソロの管のみでデュオをしているシーンすら、しばしばあった。
こんな構成のせいもあって、とにかくドラムの音が馬鹿でかく響く。
その音色が、なによりかっこいい。
単純にPAのミックスのせい・・・じゃないと思うけどなあ。
後半でドラマーが飛び入りしたけど、奏者が代わった途端にボリュームが小さくなって、派手さがなくなったもの。
非常にパワフルなドラムだった。
タムがメロディアスに鳴っていたのも印象に残っている。
「Great Type」の演奏は淡々とソロを回して続いていく。
それぞれのフレーズは気持ちいいけど、聴き所のメリハリを見つけられずに、不覚にも一瞬眠りこけちゃったみたい(苦笑)
トリッキーなフレーズのテーマが印象的な曲なのに・・・惜しいことした。
続いては、「What MASA is・・・She is out to lunch」。
作曲者の松風が、とてもロマンチックなテナーのソロを聞かせる。
そのあとに続けたカーラ・ブレイの曲(たぶん「Utviklingssang」だと思う」)を聴いていて、渋オケの魅力が染み込んできた。
派手さはとくにない。でも、音がとにかく優しい。
暖かい雰囲気をソロのフレーズに漂わせて、しっとりと音が溢れ出す。
ソロ回しを淡々と続ける自由奔放さが、逆に音へじっくり向かい合えた。
坂田明もバンドの音に溶け込んでいた。
僕自身は彼は「山下洋輔グループ」の一員、ってイメージが根強く残っていたので、もっとフリーな演奏をするのかな、と思っていたけど。
なめらかなメロディを次々にホーンから繰り出して、さすがのソロを聴かせた。
ほとんどリハをしていなかったのか、ソロの合間に左右の奏者から、曲構成をちょこちょこ教えてもらってたけど・・・愛嬌ってもんでしょう(笑)
林栄一のソロもパワフルだ。
彼のほうが坂田よりもよっぽどフリーな感触がする。
でも噴出す音の奔流はとても勇ましかった。
第一部が終わったのは9:15頃。
休憩を入れて、9:45頃から第二部が始まった。
二曲目に演奏したのが「酔った猫が低い塀を高い塀と間違えて歩いているの図」。
この曲、僕は大好き。複雑でコケティッシュなメロディがすばらしい名曲だ。
今までほとんど聞き取れなかった渋谷のオルガンが、イントロのフレーズを可愛らしく叩きだしたときのかっこよさと言ったら・・・。最高の瞬間だった。
その後も演奏は次々続いていく。
「Ballad」、「Jazz me blues」「First Rinner」など。
トミー・ドーシーのカバーの「Jazz me blues」は、ディキシー時代の古い曲らしい。
渋オケで演奏すると、生き生きとしたメロディがつぎつぎ流れ出す。
ソロ回しの合間に、テーマを吹き鳴らす瞬間が、これまたいい。うきうきしながら聴いていた。
「First Rinner」では、ドラマーが飛び入りする。
名前を聞きそびれたけど、手数が多いスピード感のある演奏だった。
ひとときも立ち止まらずに、太鼓を叩きまくっていたっけ。
上でも書いたように、ドラマーが代わったとたんに、音が沈み込んでちっとも聞こえなくなる。
PAで音のバランスは、多少工夫して欲しかった・・・。
さてさて。あっさりと演奏は23時前に終了。
どこがどう、っていうのは難しいけれど、充実した夜だった。
渋オケを聴いていて、特徴的なのはやはりバンドリーダーの渋谷のプレイ。
ソロすらほとんどとらない。バッキングを控えめにするだけ。
メンバーの音を楽しみつつ、興が乗ると演奏に加わる・・・って感じかな。
だけどいったんピアノの鍵盤に指を乗せると、めちゃくちゃ色気のある音がこぼれてきた。
この音の色気こそが、渋オケの魅力なのかな。また聴いてみたい。
掌を伸ばし、鍵盤を優しくなでまわすかのように渋谷はピアノを弾く。
そんな演奏スタイルが、音のイメージにぴったり合っていた。
一度、ソロピアノのライブも聴いてみたいな。