今お気に入りのCD(番外編)

CDじゃないけれど、見に行ったライブの感想です。

00/8/18  西荻窪 アケタの店

出演:明田川荘之&お盆オールスターズ

 僕が明田川を聴いたのは、7/29の深夜ライブ以来だから・・・ほぼ半月振りかな。
 この日は裏にCO2。おまけに家に帰ってチラシを整理していたら、ファンタズマゴリアもライブをやっていた、盛りだくさんの日。
 仕事中(おいおい)にも、今夜はどっちに行こうか悩んでた。
 最終的には仕事がどたばたしてしんどかったので、疲れをいやしたくなった。
 そんなわけで、椅子がしっかりしていてのんびり座れ、なおかつ音楽もリラックスできると思えた、明田川を聴きに行くことにした。
 ・・・そして。まさにリラックスできた夜だった。

 今回のメンバー構成はこんな感じ。
 明田川荘之(p,オカリーナ)、山本ヤマ(tp)、内野勝利(tb)、松風鑛一(as)、望月英明(b)、楠本卓司(ds)。
 リズム隊とアルト・サックスにベテランで気心の知れたメンバーを置き、ほかのホーンは比較的(?)若手を置いてのステージだった。
 開始直前に明田川がペットとボーンの二人に譜面を配り、今日のステージのだんどりをいろいろ説明してたなあ。

 8時過ぎに明田川がオカリナを吹き始め、ライブは始まった。
 今夜の曲目はこんな感じ。セットリスト形式で書いてみる。

(第一部)20:05〜20:45

1)アフリカン・ドリーム
2)Mr.板谷の想い出
3)スモール・パピヨン

(休憩)

(第二部)21:00〜22:40

1)テイク・パスタン(duo)
2)コージャク・テンプル
3)テツ〜アルプ
4)OK是安

 この日のコンサートは、珍しく明田川が全曲の曲紹介をしていたので、ありがたいことにセットリストが書けた(笑)
 別に、今夜初めて聞く曲はないんだけどね。
 とはいえ紹介してくれなかったら、こうしてセットリストはかけなかったろうなあ。
 
 さて。ワクワクしながら聴き始めた今日のライブ。
 まずは一曲目の「アフリカン・ドリーム」を演奏が始まって、強烈な違和感があった。
 リズムがばらばら。ピッチが合わない、特にホーン隊の演奏に力がない。
 ときに楠本がアフリカ風に叩くドラムが面白かったくらいかな。
 もっとも、演奏の呼吸が合ってないんだから。
 ビートが外れて、空しく響いてしまう。
 明田川のテンポにリズム隊があっておらず、妙にばらばらな演奏だった。
 
 2曲目になっても、居心地の悪さは変わらない。
 根本的な原因は、どうもホーン隊に元気がないことだ。
 もしかして、遠慮しているのかなあ。自己主張を今ひとつ感じられなかった。

 明田川のピアノを聞きながら、松風がアルト・サックスを持ち上げて、残りのホーン隊に合図を送ってテーマを吹くんだけど。
 そもそも松風のテンポがずれてるし、さらにホーン隊も息があわない。
 もどかしい演奏だったなあ。

 ちなみにこの曲は、数年前に他界したトロンボーン奏者、板谷博に明田川が捧げた曲。
 演奏前に「お盆だからね・・・」と明田川がMCで言っていた。
 メロディは切なく、静かに響く名曲だ。

 この曲では、ソロをas・b・pが取る。
 ソロになると無伴奏になり、自分のテンポでじっくりアドリブをはじめる。
 松風のアルト・サックスは音を小さく絞ってしまう演奏だった。
 ところが、どうもこの奏法が逆効果。
 マイクがブレスノイズを拾ってしまい、か細く聴こえてしまう。
 「もっと大きい音で吹いて欲しいなあ」と、もどかしかった。
 
 でも、ピアノはこの曲くらいからエンジンがかかり始める。
 みずみずしい音が次々あふれだし、PAからの音と生音が微妙に響きあって、店いっぱいに漂った。
 松風が目を閉じて、ピアノソロを聞き入っていたのが印象的だったな。
 もしかして、板谷のことを思い出していたのだろうか。

 三曲目にやった「スモール・パピヨン」は、コンボ演奏の場合には高らかにテーマを吹き鳴らすホーン隊が、利き所の一つだと思ってる。
 だから、楽しみにしてたのに・・・まだ、いまいち。
 ところがリズム隊はそろそろ、ピアノと息が合い始める。
 いさましくドラムが煽り立て、ベースが弾む。演奏をどっしりと盛り上げていた。

 今ひとつだったホーン隊も、実力が現れ始める。  
 ソロになった途端に、ホーン隊の雰囲気が一変した。
 まずトランペットの山本のソロ。
 彼女はフレーズを次から次に繰り出すのではなく、同じフレーズや音を執拗に繰り返してテンションをあげていく。
 身体を後ろにそりかえらせつつ、パワフルにソロを聴かせた。

 お次のトロンボーンのアドリブもいいぞ。
 ダイナミックに音量をあやつり、力強くメロディを搾り出す。
 リズム感もばっちり。バックの演奏と一体になって、見事なソロだった。

 エンディングでのテーマ提示では、まだ僕が期待してるほどにホーン隊は自己主張をしなかったけれど。
 新しい「スモール・パピヨン」の魅力を見つけ出したような気がした。

 せっかく演奏がまとまってきたのに・・・あっさりと休憩に突入。
 このままプレイを聴きたかったなあ。

 しばしの休憩のあとは、まず明田川と松風による「テイク・パスタン」。
 この曲はピアノが自由にテンポをゆらすので、なかなかバンド演奏は難しいらしい。
 松風のソロは依然として線が細いながらも、さまざまなメロディが溢れ出す、素敵な演奏だった。

 「コージャク・テンプル」になって、フルメンバーでの演奏が再開。
 休憩の間にテンションが下がるのを心配してたけど、あっさり杞憂に終わった。
 勇ましい四つ打ちのビートをドラムやピアノが繰り出すのに乗って、メンバーが自由自在にソロを乗せる。
 僕はこの曲をCD「Mr.板谷の想い出」で聴いただけだ。
 CDではピアノ・ソロだったから、こうしたコンボ形式で聴くのは初めて。
 こんなに壮大でかっこいい曲だったとは・・・・。

 明田川のピアノは、すでに奔放さを全開にしている。
 もはやバッキングもソロもない。
 ソロではあふれ出るメロディをつぎつぎ披露し、飛び切りのアドリブを聞かせた。
 バッキングにまわっても、興が乗るままに鍵盤を肘や腕でひっぱたき、クラスター・ノイズでソロイストを煽り立てる。
 とても印象深い演奏だった。

 そして「テツ」の演奏の美しかったこと・・・。
 たぶんこの曲は、30分以上演奏していたと思う。
 ソロとバッキングが渾然となった、すばらしい演奏だった。
 僕は完全に演奏にのめりこんでいた。
 ・・・いつのまにか、演奏は「アルプ」に変わっている。
 白玉を多用したこの曲のテーマを、バンドが何度も何度も繰り返していた。
 おごそかなメロディをバンドが一体になってプレイする瞬間は、とてもすばらしいものだった。

 「アルプ」の余韻を残したまま、演奏は「OK是安」に。
 しばしリズム隊にのって、明田川がオカリーナでブルーズを吹く。
 何度もキーの違うオカリーナを持ち替えては、なめらかに吹き鳴らしていた。 
 「OK是安」では、ホーン隊がつぎつぎソロを取っていく。
 
 尽きることなく、次々に耳を引く新鮮なメロディが松風のアルト・サックスからこぼれだす。
 山本は身体をなんども後ろにそらせ、トランペットでタイトに同じフレーズを積み重ねる。
 ふっとした瞬間に溢れたメロディが、なめらかでかっこよかった。
 内野のトロンボーンは、派手さはないものの着実に演奏に彩りを与える。
 音を汚くぶちまけることなく、しっかりと芯のある音色でソロを取っていた。
 
 思うに、今日のコンサートではノイジーなプレイヤーがいなかった。
 明田川はいつものように、鍵盤を激しくひっぱたいていたけれど、ピアノって楽器の特徴か、それほど喧しく響かない。

 だからこそ、今夜のコンサートはとてもメロディアスだった。
 時に激しくなりつつも、やさしいフレーズを積み上げ、重ねていく。
 終わってみれば非常に充実した、とびきりのコンサートだった。

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