今お気に入りのCD(番外編)
CDじゃないけれど、見に行ったライブの感想です。
2000/8/14 西荻窪 アケタの店
出演:緑化計画
彼らの演奏を聞くのは初めて。どんな雰囲気かとライブハウスに入っていったが、開場時点で客は数人。でも、つぎつぎに観客がやって来て、最終的には20人くらい入ったかな。
妙に若い女性客が多い、アケタにしては意外な客層だった。
緑化計画のメンバーは、翠川敬基(チェロ)、片山広明(ts)、早川岳晴(eb)、石塚俊明(ds)がオリジナルメンバー(注)らしい。
今回はゲストに北陽一郎(tp)も参加。あまりリハーサルをしていないのか、曲間に片山からぼそぼそっと曲の説明を受けているのが微笑ましかった。
まずは、ゲストを立てて(?)トランペットとドラムのデュオからスタート。
「メノウ」って曲だったかな。
フリーな演奏をしばし繰り広げたあとに、残りの三人が混ざっていく。
リズムはフリーで演奏され、とても緊張感があった。
小節の頭を感じさせないから、聞いていて浮遊感がある。
中盤で片山のサックスに乗って、すぱっと音の景色が変わっていったのがよかったな。
曲を通して一定なビートこそないが、翠川とリズム隊が柔軟にリズムを出し入れする。
だれかの演奏がきっかけになって、リズムの主導権がころころ変わりつつ、曲の表情がみるみる変化していくさまがスリリングでよかった。
とにかくこのバンドは、音が小さい。ベースとチェロにはかろうじてアンプを通してるけど、管がでかい音で吹き始めると、とたんにチェロの音がかき消されてしまうのが残念。
幸いなことにチェロの真ん前で聞けたから、多少は微妙な音の流れを楽しめたけど。
意識しているのかいないのか、それぞれの楽器から生まれるかすかな音のひとつひとつに至るまで、セッションの要素に組み入れたキュートなアレンジだった。
フリージャズは目の前で見ると一味違うなあ。演奏の間、ふと思っていた。
演奏者のアイコンタクの有無に関わらず、微妙なステージの雰囲気で音が変化していくのは、生で聞いているともろに肌で感じられる。
フォルテからピアニッシモまで、ダイナミックレンジを広々と使った彼らの演奏は、耳をそばだてていないと音を聞き逃してしまいそうなほどデリケートだ。
だからこそ、セッションの流れをしみじみ感じられたのかもしれない。
曲のレパートリーはかなり多いみたい。
一曲終わるたびに翠川が楽譜をぱらぱらめくり、次の曲を選んで演奏が始まっていく。
彼らの音楽は、無国籍だ。アフリカ風にも、中近東風にも、時に歌謡曲風にも聴こえる。
なのに、どれにも似ていない。不思議なオリジナリティがある。
もちろんアメリカのジャズにも似ていない。
だけど音のノリは、まさに「ジャズ」だ。
ゲストの北は、遠慮がちに吹いていたのが残念。リハが足りなかったのかな。
もっと片山といっしょに激しく吹いて欲しかった。
ドラムの石塚は多彩な音を聞かせる。スティックやマレットにブラシを使い分け、さまざまな音色のリズムで他のプレイヤーをあおる。時には素手でタイコを叩いていた。
ベースの早川は、ぶっとい音で低音を響かせる。
全体を通して、一番彼がリズムの芯を受け持っていたかのように思う。
片山はいつものように身体を曲げて、太く音を振り絞る。
ソロを取っていてもフリーなノイズに固執せず、なめらかなメロディを奏でていた。
ただこういうPA無しの演奏だと、小さい音で演奏するときに音がかすれるのが、ちょっと残念だったな。
そして翠川は、終始目を閉じて指をチェロに躍らせる。優しく、時に激しく。
弓でゆっくりとフレーズを弾くと、ふくよかな音が流れ出す。アンプをほとんど感じさせない、生音を生かした豊かな音だった。
今日のハイライトは第二部の二曲目。「アグリ」って曲かな。
テンション高く、ブレイクを立て続けに決める威勢のいい曲だ。
次々に耳に飛び込む彼らの音が心地よかった。
なのに、第一部が8時過ぎに始まって、45分くらい。30分の休憩をはさんで、後半がやはり40分強。
第二部最後の曲が、なんだか中途半端に終わってしまったせいか、物足りなさが残る。
実力の片鱗しか聞くことが出来ずに、ライブが終わってしまってもどかしい夜だった。
(注)緑化計画はかなりキャリアのあるバンドだそう。
過去には佐藤春樹(tb)、馬場たかもち(parc)、板谷博(tb)、望月”グズラ”英明(b)、石渡明広(dsでの参加)、吉田哲治(tp)、藤井信雄(ds)といった、数々のメンバーが参加していた。(情報提供:じぇいく氏)
2000/8/13 吉祥寺 MANDALA2
出演:鬼怒+勝井+岡地、“A”
(19:35〜20:35)“A”
開演時間をちょっと押して、まずは“A”の登場。
見るのは初めて。予備知識は何もない。
MCによれば、定期的に東京で活動してるバンドみたい。
メンバーはds、b、gにas兼Voのカルテット構成。
轟音のリズム隊の演奏に乗って、硬質なアルトサックスを吹き鳴らしたり、叫びのようなヴォーカルをかぶせる、アグレッシブな演奏だ。
マイクにエコーのエフェクターをくっつけて、叫び声に特殊効果を重ねる。
演奏はキメが多く、インプロ部分は少ない。
ブレイクを多用した、かっこいい曲が多かった。
とはいえ、どうも演奏にムラっけがある。サックスを吹きながら、足や手できっかけをメンバーに振り分け、見事なブレイクを次々決めるのはいかしてるのに。
ソロ部分や、ゆったりした演奏になった途端にだらけてしまう。
たまに演奏するインプロ部分も、アイディアの引出しが少ないのか、単調に聴こえてしまう。
僕は隅っこの小さな椅子にすわって、ただでさえ居心地が悪いのに・・・。
演奏のテンションが下がるたびに、しんどい思いをして聴いていた。
たぶん、リズム隊がいまいちなせいだろうな。
特にベースのタイミングが遅い。もっとつんのめってノリを創ってほしかった。
途中にビートルズの「ノーウェジアン・ウッド」を、轟音プログレバージョンでカバーしてた。
ドラムとベースでばたばたっとしたビートを提示して、ギターががしゃめしゃに雰囲気をかき回す。
混沌とした音楽世界の中で、ヴォーカルが絶叫気味にテンションをあげてわめいていたのを覚えてる。
結局、最初と最後の曲が一番よかったな。
ライブハウスに、アルトサックスが高らかに響き渡り、ユニゾン気味にバンドのメンバーが、リフやブレイクをびしばし決めていく。
もういちど見たいとは正直思わないけど、もっともっと演奏力をつけたら面白い音楽になると思う。
(20:50〜21:40)鬼怒+勝井+岡地
「ブルーズ・バンドです」
ハードな即興演奏を期待していた僕は、鬼怒のMCに意表をつかれて戸惑ってしまった。
ステージに3人が無造作に現れ、鬼怒がセミアコ・ギターを抱える。勝井は真っ黒なエレクトリック・ヴァイオリン。岡地はシンプルなドラムセットに座る。
鬼怒のMCによれば、この3人は正式名称こそないものの、継続活動を意識したバンドだそうだ。
しかし、ブルーズとは・・・。
ご存知ない方のために補足すると、鬼怒と勝井は二人でプログレッシブな音楽を目的としたレコード・レーベル、「まぼろしの世界」を主宰している。
二人はさまざまなバンドを股にかけて演奏し、東京のライブハウスシーンでは欠かすことの出来ない存在だ。
鬼怒は是巨人やCOilをはじめとして、様々なセッション活動でハードなギターをプレイし、勝井はROVOやさかな、渋さ知らズなどでエレクトリック・ヴァイオリンを弾いている。
なにより、二人で結成した(今は)五人組のボンデージ・フルーツは、とても刺激的なプログレ・バンドだ。
MCで鬼怒本人も言っていたが、鬼怒も勝井も「ブルースを演るって言っても、説得力はまるでない(笑)」のに。
そんな僕の戸惑いをよそに、演奏は始まった。
・・・どこがブルーズなんだろう。
演奏を聞いていて、あまりにのギャップに僕は苦笑してしまった。
コード進行はブルーズなんだろうな。ところが、演奏は限りなくアグレッシブ。
フレーズをとことんまで研ぎ澄まし、断片的なリフを鬼怒がギターで繰り出す。
攻撃的で激しい演奏だ。
いわば首の皮一枚でぎりぎりブルーズといえる、がけっぷちのプログレ・ブルーズだった。
聴いていても、スリリングでワクワクした。
勝井のヴァイオリンはエフェクトをかけないと、思いのほかカントリーチックに響く。
演奏開始早々にヴァイオリンの弓が解け、毛がぷらぷらぶら下がってるのを、「馬の尻尾みたいだなあ。さすがブルーズ」ってマヌケなことを考えていた。
鬼怒は身体を激しくゆすりながらギターを弾きなぐり、ヴォーカルを取る。
うまいとは言いがたいが、勢いがあっていいと思う。
曲によっては岡地や勝井も歌を歌う。
一番ブルーズよりなのが岡地らしい。堂々たる歌だった。
まずは、ハウリン・ウルフの曲のカバーでスタート。
「ブルーズを演奏する」の言葉は半信半疑だったが、今日の曲はすべてカバーだったようだ。
僕はブルーズに詳しくないので演奏曲名まではわからず、MCで鬼怒が言っていた内容から推測しているけど。
リトル・ウオルターや、ジュニア・ウエルズ、マジック・サムの曲をプレイしていた。
鬼怒の弦が一本切れるが、かまわずにそのまま演奏する。
勝井の弓も、つぎつぎに毛がほつれている様子。
ベースがいないので、岡地のドラムが常にビートをがっしりささえ、その上を二人が暴れまわる。
テンション高く肉体を振り絞る、ハードでいかした演奏だった。
最後に決めたのは、プレスリーの「監獄ロック」。
勝井はエフェクトを聞かせたヴァイオリンで空間を一杯にし、鬼怒がギターでしゃくりあげる。壮大な雰囲気の「監獄ロック」だった。
サビの部分で、怒涛のように駆け抜ける瞬間が爽快だ。このあたりでもう一本鬼怒の弦が切れ、弦4本で引いていたと思う。
あっさり演奏は終わって物足りない。アンコールではさらにマディ・ウオーターズの「フーチー・クーチー・マン」を演奏してくれた。
とはいえ、演奏時間は実に一時間にも満たない。
もっともっと長く聞きたいな。次にこのライブがあったら、ぜひ聞きたい。
余韻を残しつつ、次への期待にわくわくしながらライブハウスを後にした。