今のおすすめCD

最近気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

Cool Cluster/東京ザヴィヌルバッハ(2002:east works)

 コンセプトは、コンピュータとのセッション。

 MACの作曲ソフト「
」を即興ミュージシャンに見立てたバンド、東京ザヴィヌルバッハの新譜が出た。

 東京ザヴィヌルバッハとしては3枚目。メンバーが坪口昌恭(key)と菊地成孔(sax、CD-J)の二人体制になって、初のアルバムになる。
 ちなみにメジャーデビューの1作目だ。ああややこしい。

 非常にシンプルなアレンジで、コンセプトがより明確にされた。
 ぼくは東ザヴィのアルバムを聴いても、どこまでが「M」の自動演奏でどこからが人力なのかさっぱりわからない。
 たぶんリズムトラックのほぼ全てと、キーボードの一部が「M」だと思うけど。

 彼らのコンセプトをより明確にするために。「M」の演奏のみが抜き出され、そこへ二人が襲い掛かるってアレンジを、ほんの片鱗でいいからいいから取り入れて欲しかった。

 せわしなく刻むビートに乗って、硬質なメロディが断片的にかぶっていく。
 1stで濃厚だった70年代マイルス色は払拭された。ジャズ仕様のクラフトワークみたい。
 ときおりスクラッチ・ノイズが使われてるからかな。ヒップホップも頭に浮かぶ。

 かれらはアップテンポの曲でも、あくまで冷静を保つ。
 聴き手をダンスさせるより、音符との戯れに軸足を置いてみたのか。
 とはいえ多重録音で分厚い音にせず、隙間を残したつくりがスマートだ。 

 気になるのは、録音時の方法論。
 一発取りなんだろうか。なんども「M」で試行錯誤したあとで、生演奏をかぶせたんだろうか。
 録音テープは編集してるのかな。それとも一切いじらず、変拍子っぽい奇妙なリズム感もひっくるめて、「M」の持ち味なのかな。

 音楽のクオリティとはまったく別次元だけど、無性に気になる。
 もしわかったら、さらにこの盤への理解が深まるだろうから。

 その意味において、東京ザヴィヌルバッハは情報量と親密度が比例するユニットって気がする。
 個性的な方法論だからこそ、音楽の「種明かし」が知りたい。
 でないと上っ面だけ聴いて、棚の片隅に追いやってしまいそう。

 本盤の音は、冒頭に述べたようにかなり隙がある。
 すうっと聴き流したら、なにも記憶に残らない可能性がある。
 曲の構成だってわかりにくい。
 たとえば「テーマ」〜「アドリブ」〜「テーマ」みたいな明確さを、前面に出さない。
 何となく始まって、ふわりふわりとメロディが現れては消えてゆく。
 
 とりあえず、そっけない音だ。
 聴き手に熱狂を強制せず、ストイックに無機質な断片を積み重ねた。
 ソロもバックトラックと等価のバランスでミックスされている。
 (ちなみにミキサーは坪口自身。確信犯だろうな)

 ソロやメロディは自己主張せず、勝負はあくまで音像全体の質感。
 この情け容赦ない演奏へ共感できるかで、本盤の評価はがらりとかわるだろう。
 BGMで聞き流すのは簡単だけど、それだけじゃもったいない。

 じっくり音を追えば、リズムの一拍一拍で勝負しあう緊張感を味わえる。
 聴いててぞくぞくした。繰り返すたびに味が出てくる。
 きめ細かく鳴るパーカッションは、とにかくかっこいい。
 菊地成孔の青白いサックスも、演奏にぴたりとはまった。

 ゲストは大儀見元(per)と藤井信夫(ds sampling)の二人。
 菊地と坪口が在籍するバンド、デートコース・ペンタゴン・ロイヤルガーデン人脈だ。
 もっとも彼らの演奏も匿名っぽい。東ザヴィの音像に溶け込んでいる。
 
 ガラス細工の精緻さと、一筆書きの大胆さが混在した音楽だ。
 二人と一台が作り上げた、精巧な美学に酔いましょう。

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