今のおすすめCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

CM Collection vol.2/山下達郎(2001:Wild Honey)

 ファンクラブ用に発売された、山下達郎のCMソングを集めた第二集。
 もちろん思いっきりマニアックな内容だ。
 
 達郎の場合、プロモーション戦略にCMを多用している。
 音のクオリティにこだわるため(すなわち予算)とビジネスを両立させるための方法論なんだろうけど。
 でも、このCDはもちろん「CMソングベスト盤」みたいに、安易な企画じゃない。
 ファンなら垂涎の貴重テイクがみっちりつまってる。
 
 達郎のファンなら、CM曲も聞き逃すわけには行かない。
 CMテイクだけで終わってしまった曲、CMのためだけに録音された曲がかなりあるから。
 もっと言うと、CMテイクとレコードで、まったく別テイクな曲もあったりするんだけど・・・。

 なにはともあれ、収録曲はこんな感じ。
<曲目リスト>
1.資生堂 バスボン‘74
2.ラグノオ シュガーレスPーキ‘75
3.資生堂 店頭BGM‘75「南の島」
4.資生堂 MG5‘76
5.不二家 ハート・チョコレート‘76(バレンタイン編)
6.資生堂 店頭BGM‘76「HOT HOT」
7.資生堂 FRESURE‘78
8.日立マクセル UD‘80(秋編)「RIDE ON TIME」Remix
9.ホンダ インテグラ‘85「風の回廊」
10.東芝 RUPO‘90「HYPER BOY」
11.ららぽーと スキードーム SSAWS‘93「湾岸スキーヤー」
12.IBM Aptiva‘95
13.ミスタードーナツ‘96「ドーナツ・ソング」
14.SANYO FRAGILE‘98「FRAGILE」
15.SANYO Burberrys BLUE LABEL‘98
16.NTT Communications‘99「Love can go the distance」
17.Only with you(instrumental)‘84

 あくまでCM作家として活動していた70年代から、ごく最近のものまで幅広く収録している。
 ぼくがリアルタイムで聴いたのは80年くらいからかな。
 じっくり聴きたかった曲が目白押し。めちゃくちゃうれしいリリースだ。

 一番ぼくが思い入れあるのは、(10)の「HYPER BOY」。
 当時のFM番組(「プレミア3」だっけな?「サタデー・ソング・ブック」だっけな?)のCMに使われた。
 打ち込み中心のサウンドは達郎の新境地に聴こえ、フルサイズのリリースを心待ちにしていた。

 ところがその後リリースされた「アルチザン」では見事にボツっており、さんざん悔しがったもの。
 今後フルサイズでリリースされることはないだろうなぁ。

 その他の曲も、どれもきっちり作られたすばらしい作品ばかり。
 シュガー・ベイブの未発表曲って趣な、3分くらいの小曲(3)。
 クールなシカゴ・ソウルの(4)、ジャングル・ビートをひたすら刻む(6)、2分間のサーフィン・インスト(7)。
 このあたりは、純粋にCM向けに録音されたものだけど、どれも作品として見事に成立している。

 キャリアがブレイクするきっかけとなった(8)をはさんだ後半は、余裕たっぷりで堂々たる作品が並んでいく。
 CMのために作曲したのではなく、「達郎の曲をCMに使いたい」というニーズの変化によるものだろう。

 達郎自身、あくまで「CMソング」と位置づけながらも、80年以降はプラスアルファを自らの創作にフィードバックしているようだ。
 来るべきアルバムリリースのために、さまざまなタイプの曲を試行錯誤しつつ、発表しているようにも聴こえる。
 
 後に少年隊のシングルとなった(11)、スペクター・サウンド風の(12)、ワイルドなビートで畳み込む(13)などは、(10)と並んで貴重なテイクだ。

 のちに「COZY」に収録されはしたもの、(13)はアップテンポな打ち込みで、アルバム版とはまるでちがう。
 フルサイズ版がリリースされているとはいえ、(14)や(16)も完全な別テイク。
 ファンとしては、ここまでどっさり詰め込んでくれて、嬉しい限り。

 そして最後に(17)。
 いまでも達郎のラジオ番組のテーマソングにつかわれるこの曲で、静かにCDは幕を降ろす。
 
 あくまで達郎の、ファン向けとしてのCDだけど。
 マニアックに踏み込んだファンサービスが、とても嬉しい盤です。
 
ブルジョワジーの秘かな愉しみ/難波弘之(1985:RVC/AIR)

 キーボーディスト難波弘之によるソロ第四弾。
 僕は現在までのところ、このアルバムが彼のソロでは最高傑作だと思う。
 アルバム全体が、統一感にあふれている。
 上品で、とっちらかっていて。
 びろうどのカーテンをそっとかぶせたようだ。

 思えば、このアルバムをリリースしたとき、難波は異様なほどメディアに露出していた。
 SFマガジンに連載していたコラム(たしか、キーボード・マガジンにも書いていたような・・・)だけでなく、FM番組のDJ(「ザ・ミュージック」だったかな)やNHK教育で番組の司会。
 さらに「飛行船の上のシンセサイザー弾き」が早川から文庫化され、SF作家としての面もアピールした。
 もちろん、スタジオミュージシャンとしての活動も活発だったらしい。
 さまざななメディアで、彼の活躍に触れることができた。

 そんな充実した時期に、このアルバムが製作された。
 僕の記憶が正しければ、本作に収録の「オペラの怪人」はリリース前からライブで演奏されていたはず。

 彼のバンド「センス・オブ・ワンダー」にもメンバーチェンジがあり、ドラムのそうる透は継続しているが、新ベーシストに小室和之が加わった。
 記憶頼りの話ばかりで恐縮だが、当時のFMで難波が「新ベーシスト参加で、歌唱面も充実した」と言っていた気がする。

 さて、またしても前置きが長くなった。
 本作の特徴は、全9曲のうちカバーが5曲、ボーカルを前面に出した曲が3曲。
 難波の持ち味である、いわゆるプログレは1曲のみと、異様な選曲だ。
 売れ線をねらったのか・・・そのへんの裏事情はよくわからない。

 とはいえ、基調となるロマンティックなトーンで一貫性を持たせ、散漫さは感じられない。
 むしろトータルアルバムとしての構築が、確実になされている。

 僕がリアルタイムで、このアルバムを聴いたときは16歳。
 本作収録の「アラベスク2番」を聞き、ドビュッシーに初めて興味を持ったっけ。
 オーケストラによるストリングスのふくよかな音色から、シンセのブリッジをはさみ、エレドラに導かれて一気にロック風のサウンドが違和感なく調和する。
 当時、そんなアレンジの発想がまるでなく、えらくショックを受けた。

 本盤唯一の欠点を上げれば、ボーカルが弱いこと。
 難波の喉は線が細くピッチが今ひとつ弱いので、不安定に聴こえてしまう。
 もっとも本盤は、かなりうまく処理されているほうだけど。

 そんなふらふらした難波の喉をうまくマッチさせたのが、「夢せぬ夢を」(UKのカバー)。多重録音の歌声は、霧の中で漂っているように聴こえる。

 その他にクラシックを2曲カバー。デュランの「シャコンヌ」と、バッハの「フランス組曲第3番」。
 さらにウエザー潟|ートとニーノ香[タの曲をメドレー形式にした「スピーチレス〜ロミオとジュリエット」。
 どの曲もやさしい手触り。深みのあるシンセの音色が心地よい好曲だ。

 だがやはり、この曲で一番の聴き所は「オペラの怪人」。
 そうる透のパワフルなツーバスにどっしり支えられ、キラキラ光る鍵盤が舞い降りてくる。
  
 難波のキーボードは、バランスが絶妙だ。
 荒々しい勢いと、クラシック風の構築美が見事にブレンドされている。
 
 アルバムを通して、プロデューサーの立場(本作は難波のセルフ・プロデュース)では、もっと甘いつくりの作品にすることも可能だったろう。
 だけど、プログレにこだわりのあるプレイヤーとしての難波が、曲アレンジにこだわったため、アルバムの構成が微妙に破綻している。

 特にボーカル曲の間奏で、その傾向が見られる。
 間奏になったとたん、急にキーボードが自己主張し始める。
 このプログレ風ソロがなければ、パワー・ポップとして成立してもおかしくない。
 なのにあえてソロを押し込んである。
 そんなアレンジのほつれっぷリが、とてもいとおしい。

 蛇足ながら、今回のCD化では「hiru no yume」が収録された。
 83年に12インチシングルで発売された「Who Done it?」のB面曲。
 当時12インチで聞いてたときは、あまりピンと来なかった。
 でも今回、CD化で10年ぶりくらいに聞きなおし、「ブルジョアジ〜」と作品世界が似ていることを、改めて感じた。
 少々小粒な曲だから、この充実したアルバムを締めるには力不足なんだけどね。

パーティ・トゥナイト/難波弘之(1981:RVC/AIR)

 難波弘之の2ndソロは、1stに比べてぐっと豪華になった。
 オリジナルLPにはLPサイズのブックレットが添付され、彼の書下ろし短編「パーティ・トゥナイト」を収録。ブラッドベリ風かな。
 イラストは佐藤道明。深い赤を基調とした色使いだった。

 2000年に再発時されたときは、このブックレットも完全復刻されて嬉しい。
 とうぜんCDサイズ。従ってインパクト不足で、少々さみしいけれど。

 本アルバムのコンセプトはふたつ。
 ひとつはこの「パーティ・トゥナイト」に関連したイメージソングを収録し、小説/イラストとあわせ、多面的に難波の内面世界を表現がねらい。

 もうひとつは、海外SFのイメージソング。
 SFへのオマージュ全開だった、1stアルバムのコンセプトを深化させている。

 1stソロ「センス・オブ・ワンダー」は予算のせいか、どうも音がうすっぺらい。
 本作ではコーディネーターとして参加した、山下達郎の助言でもあったのだろうか。
 かなりその点は改善されている。

 ちなみに当時、難波は山下達郎のライブ・バンドに参加。
 その縁もあり、当時達郎が所属していたairレーベルから、本作はリリースされている。

 本作のバックは、後に難波のバンドとなる、センス・オブ・ワンダーが固める。
 おかげで音世界にも統一感が生まれ、散漫なイメージだった1stの欠点をみごとに修正した。

 曲もつぶぞろい。ただ、難点は難波のボーカルがパワーに欠けること。
 意図はびんびんつたわってくるけど、どうにも線が細くてつらい。

 「シルバーグレイの街」では、コーラスにメインボーカルが負けてしまう感すら。
 もっとも、メンバーは達郎、美奈子らだから当然か。
 この曲ではコーラスアレンジも達郎が担当している。

 いきおい、本盤でお薦めする曲はインストになってしまう。
 ディックの「パーマー・エルドリッチの三つの聖痕」や、クラーク「渇きの海」にインスパイアされて作った曲は、至高の名曲になっている。
 そうる透のツイン・バスドラムがリズムをがっしり支え、難波のキーボードが奔放に踊りまわる。
 とびっきりのプログレだ。

 どちらも静と動を巧みに曲に折込み、飽きやしない。
 特に「渇きの海」に到っては、カットアップされるピアノが美しく響く。
 センス・オブ・ワンダーの迫力と、対比を効かせたアレンジが見事だ。
 2000年の再発は丁寧なリマスターで、ダイナミックレンジが広くなっている。
 その恩恵を一番受けたのが、「渇きの海」じゃないかな。
 
 「パーマー〜」は一発録りで録音されている。
 今回初めて知って、ぶっとんだ。
 ハイスピードでたたみ込まれるキーボード群が、すべて一発勝負とは。
 すばらしいハイテクニックだ。

 ボーカル入りでは「夢中楼閣」が、とても好きな曲。
 ゆったりめのテンポで、アコースティックな感触を残しロマンティックな四つ打ちのリズムで進んでいく。
 エンディングでは北島健二が、デイヴ・ギルモア風の透き通ったギター・ソロを弾いた。

 とにかくインスト曲の出来が、濃密で大迫力。
 このタッチの曲だけで一枚作って欲しかった。
 歴史に残る大名盤になったはず。
 
 蛇足ながら、ボーナストラックは「Key Station」。
 82年に7インチシングルのみで発売されていた、TVのCMソング。
 いかにも当時のCMソング風のキラキラしたアレンジの、キャッチーな曲だ。
 のちにセンス・オブ・ワンダーに参加する小室和之が、コーラスで参加。
 ハイトーンな喉を響かせている。

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