今のおすすめCD

最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。

More Light/J Mascis + The Fog(2000:Pony Canyon/City Slang)

 96年の弾き語りアルバム、「Martin+Me」以来のリリースじゃないかな。
 ダイナソーJRの主宰人物、J・マスシスが飛び切りのアルバムを発表した。
 今回はバンド名義ながら、基本はすべてJの多重録音になっている。
 ゲストはいくつかのギター・フレーズやパーカッション(ケヴィン・シールズ:マイ・ブラディ・ヴァレンタイン)と、数曲のコーラス(ロバート・ポラード:GbV)のみ。

 Jの音楽は、聴いていて力が抜けてくる。
 ドラムがいまいち。リズムがドタバタして野暮ったい。
 さらにJのすっとぼけたヴォーカルが、なんともはや。
 ポップなメロディをJは作曲する一方で、どうにも歌声がへたくそだ。
 高音は伸びないし、声量もない。音程も不安定だし。
 ファルセットも、あまりにも頼りなく聴こえる。

 まず一聴して「Jが歌わなかったら、いい曲になるだろな」って思った。
 だって「Waistin」や「Does the kiss fit」は、もっとうまいヴォーカルに歌わせれば、とびきりのポップスになるだろう。
 「Where`d you go」はリズムの切れをよくすれば、かっこいいハードロックになるだろうし、「Ammaring」はテンポを1.2倍くらいにすれば、魅力が倍増するはず。

 そんな否定的な聞き方をしていたのに、何度もこのアルバムを聴くにつれ、いつのまにか僕の評価ががらっと変わった。 

 まっさきに気に入ったのが「Back before you go」。
 切れのいいギターリフと、対照的に引きずるヴォーカル。
 だけどサビのフレーズは、力任せなJの喉の響きこそが説得力をもつ。
 ドラムのとろさすら、リズムがずっしりと好転した。

 そして、なによりもエレキ・ギター。
 エフェクターを効かせて、メロディが判然としないほどに暴れる。
 ギターは身を引き絞り、きりきりと回転しながら駆け上がる。

 同様にアルバムのそこかしこで思い切り自己主張する、Jのギターに耳の感覚が合った途端、本盤の評価が一変した。
 だるい音像や頼りないへなへなヴォーカルが、とたんに強烈な説得力をもって、スピーカーから爆発する。

 最初はたるく感じた「Ammaring」までが、ひしひしと必然性を持ち始める。これほど重いギターソロがあるなら、このテンポでないとまずい・・・っていうふうに。

 だから本盤で、一番重要な曲は「More Light」。
 冒頭からエレキ・ギターとシンセによるノイズで幕を開け、ヴォーカルはもこもこに処理された
 曲全体が、嵐の一夜の光景を切り取ったようだ。
 とても切なく、なのにパワーに満ち溢れている。
 
 このアルバムはなるたけでかい音で聴いて欲しい。
 ヘッドホンで聴いたら、なおさらよさを実感するかも。
 本盤で一番大事なのは、ギターノイズ。
 Jが産み出すメロディはとっつきやすく、奥が深い。
 エレキ・ギターの音を道案内に、Jの音世界にずぶずぶ潜るほど、魅力がじわっとしみだしてくる。

The Zappa Album/Ensemble Ambrosius(2000:BIS Nothem Light)

 中ジャケットにはメンバー写真がある。笑顔で写った7人の男女らは、もしかしたら全員20代かもしれない。
 本職はバロックの演奏家らしい。このEnsemble Ambrosiusが継続性をもったユニットなのか、このアルバムのでっちあげなのか、どうもよくわからない。
 
 でも。このアルバムは、クラシックと少々ちがう。
 アメリカの偉大なロック・ミュージシャンである、フランク・ザッパの曲をカバーしたアルバム。
 演奏はすべて生演奏。バロック時代の古楽器のみを使っている。
 バロック・バイオリンやオーボエ、マンドリン、それにハープシコードなどなど。

 選曲はザッパのキャリアを幅広くカバーしている。
 初期の曲からは「アンクル・ミート」や「イディオット〜」に「オレンジ〜」。
 「ブラック・ページ」や「RDNZL」といった、中期の代表曲もほぼカバーしている。
 なにしろ、アルバムの最初と最後の選曲がにくい。

 オープニングが「ナイト・スクール」で、エンディングが「Gスポット・トルネード」。
 シンクラヴィアで作曲した曲を集めた「ジャズ・フロム・ヘル」からのナンバーを選曲してる。
 つまりオリジナルは、機械仕掛けのロック。
 すべてをきっちり生演奏で演奏する本アルバムに、この二曲を選んだセンスがうれしい。

 肝心の演奏も、ほぼ満足できる。
 なにしろテクニックばっちり。一糸乱れないアンサンブルで、メロディが流れ出す。
 古楽器の音色がここまで、ザッパの音楽にぴったりくるとは予想外だった。
 
 エコー感の少ないパキパキした音はしっとりとフレーズを奏でる。
 ハープシコードの演奏は、打ち込みみたいにタイトだ。
 クールさと人間くさい温かみが、混在する。
 聴いているとじわじわ安心するのは、演奏に不安あやふやさがまったくないせいだろう。

 唯一の不満は、打楽器がいないのでビート感が希薄なこと。
 チェロとハープシコードでカバーしているけど、やはり低音が薄い。

 この録音にあたり、スコアはすべてメンバーが、ザッパのレコードから採譜したとか。
 安易な企画ものでなく、単純にザッパの音楽が好きなんだろうな。
 「ズート・アロアーズ」のイントロで、音像がモヤけるところのかっこよさ。
 「インカ・ローズ」で強引に、エレキ・ギターの音色を真似てみせる茶目っ気。
 細かいワザをあちこちにちりばめた、アレンジが見事でうきうきしてくる。

 とはいえ、冷静に評価すると。
 彼らとしてのオリジナリティはない。
 単純にザッパを「良質にカバー」したアルバムだ。
 
 でも、ザッパファンなら耳にする価値はある。
 「Gスポット・トルネード」をアンサンブル・モデルン・ヴァージョンと、比較するのもいい。
 僕はこのアルバムのヴァージョンのほうが好きだ。
 すばらしくいきいきと、音が跳ね回っているから。
 
Spy VS.Spy/John Zorn
(1989:Electra)

 元気がほしいときには、これを聴いてみるといいです。
 高速演奏が生み出す混沌さにこだわる、ジョン・ゾーンが生み出した傑作だ。 
 内容は、オーネット・コールマンのカバー・アルバム。
 プロデューサーにはE♯の名前もクレジットされている。

 メンバー編成が面白い。
 アルト・サックスにジョン・ゾーンとティム・バーン、ベースはマーク・ドレッサー。ドラムは二人、ジョーイ・バロンとマイケル・ヴァッチャーが叩いてる。
 つまりベースをはさんで、シンメトリーな構成を作ってみた。
 くっきり左右に音像を分けて、音がケンカ腰でスピーカーからこぼれ出す。

 全編に渡って、猛スピードの音が駆け回っている。
 どの曲も数分足らず。アドリブ回しは、ほぼない。
 全員がひとときも休まずに、音を吐き出しつづけた。
 
 ソロを取るときも、全員いっしょ。
 左右でてんでんバラバラにフレーズをかみ合わせ、混ぜ合わせることで強固なビート感を作り出している。

 ジョンがMASADAを結成するのはこのあと。
 ユダヤ人のアイデンティティを前面に出した、クールなジャズを演奏するまえに、ジャズへ徹底的な落とし前をつけた盤がこれだと思う。

「ブルース・フォー・ルル」で提示してみせた、ジャズが持つ閉塞した雰囲気は、この盤の中ではかけらもない。
 何も考えていない音の奔流で、聴き手を別世界に気持ちよくふっ飛ばしてくれる。

 12年前にジョンが作り上げたこの世界は、ジョン自身ですら模倣した音楽を作っていない。
 少なくとも僕は、これ以上暴力的でいながら、聴いていてうきうきするジャズを聴いたことがない。MASADAはもう少し、ウエットな世界にこだわってるし。
 だからこそこのアルバムは、圧倒的な個性を誇っている。
 何度聴いても新鮮に響く。

 なるたけでかい音で聴いてほしい。
 機関銃でメッタ打ちにされる、爽快感を堪能できる。

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