今のおすすめCD
最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。
SUMMER IN THE CITY/Joe Jackson(2000:Manticore/Sony)
最初に断っておこう。このアルバムは、ジョー・ジャクソンの音楽キャリアの代表的アルバムじゃない。単にファン向けのものだ。
もしジョーの音楽を聞くなら、もっといいアルバムはいっぱいある。
僕が思う、ジョーの全盛期は1982年から1986年まで。
1979年にデビューして以来、ジョーはアルバムごとに音楽スタンスを軽やかにかえてきた。
そんな彼がニューヨークの小粋な音楽を、ポップスに玉成させて聴かせてくれた時代だ。
1982年の「Night And Day」、84年の「Body And Soul」、86年の「Big
World」。
この3枚は聴いても、決して損をしないと思う。
ジョーの音楽キャリアにかげりが出てきたのは1987年の「Will
Power」以降。
このときに彼はフルオーケストラのクラシカルな音楽へ趣味を傾倒させてしまう。
ポップ音楽の視点から見た場合には、魅力的とは言いがたい音楽を作るようになってしまった。
その後、ジョーは1991年の「Laughter & Lust」を最後にポップスから足を洗い、「Night
Music」(1994)、「Heaven & Hell」(1997) 「Symphony
No. 1」(1999)
といった、クラシカルなアルバムを発表していたようだ。
これらのアルバムを僕は未聴なので、どんな音楽なのかコメントは出来ないけれど。
そのまま僕は、彼の名前を忘れかけていた。
もうポップスの世界には返ってきてくれないと思っていたから。
ところが、色々な事情があったんだろうな。
ジョーは1999年に「Just-for-the-Hell-of-It Shows」と銘打って、ニューヨークを中心に10回のライブを行った。
メンバーはむかしからの仲間である、グラハム・メイビー(b)とゲイリー・バーク(ds)によるトリオ編成。
ジョーはピアノを弾きながら歌う。
このアルバムはそのツアー音源から収録されたライブ盤だ。
2000年8月の録音というから、クレジットはないが8月の4,5,7,10,11日にわたって、ニューヨークのJoseph
Papp Public Theaterで行われたライブだろう。
ジョーのオリジナル・レーベルであるマンティコアから発売されている。
収録曲は、オリジナルとカバーが半々というところ。。
ラビン・スプーンフルの「サマー・イン・ザ・シティ」のカバーから幕を開ける。
ダイナミズムを活かし、シンプルな編成を逆手に取ったかっこいいアレンジだ。
例の印象的なベースリフがないから、もどかしいところもあるけどね。
ジョーの歌声は、時にちょっと頼りなくなるところはあるものの、衰えはそれほど感じさせない。
唇をひんまげてシニカルに歌う、ジョー流のきどったスタイルが健在なことをしみじみ感じてしまう。
その他のカバー曲はヤードバーズやデューク・エリントン、ビートルズにスティーリー・ダンなど。
オリジナル曲も、彼のキャリアからほぼ満遍なく選ばれている。
ジョーのピアノはポイントでは決めるものの、流麗とは言いがたい。
リズム隊はタイトで安定感はあるけれど、派手なところはない。
だけどジョーのファンだったら、このアルバムはしみじみ耳に響くと思う。
「このアルバムにはギターを入れない」とか「一発取りでライブを聞かせて見せよう」とか、こだわりを重視したジョーの久々のポップスがここにある。
ピアノトリオ編成で贅肉をそぎおとし、メロディのみで勝負するいさぎよさが心地よい。
名盤の「Night And Day」収録曲、「ANOTHER WORLD」が始まる瞬間のかっこよさといったら・・・。
深い響きのドラムに乗って、調子っぱずれなピアノにジョーのカウントがかぶり、イントロが始まる。
なにげないアレンジだけど、むちゃくちゃいかしてる。
「YOU CAN'T GET WHAT YOU WANT」だって、オリジナルではアレンジの要だったホーン隊がいないのに、見事にベースとピアノでサウンドをがっしり支えてる。
薄いヴォーカルには、寂しさが漂っちゃうけど・・・。
たしかにカバーよりはオリジナルを、もっと聴きたかった。
だけど、それは秋までおあずけかな。
実は2000年の10月頃に「Night And Day II」って、スタジオ盤がリリースされるらしい。
全10曲のシンプルなアルバムだ。
アルバムタイトルは、いまいち新鮮味がなくて怖いところもあるけどね。
今年はジョーが復活してくれるかな。
ぴんっと背筋を伸ばして突っ走る、いかしたジョー印のポップスをまた聴いてみたい。
Gwoh-in/Hayakawa(2000:Studio
Wee)
HAYAKAWAはベーシストの早川岳晴が中心になって、1995年に結成したインストバンドだ。
1995年にファーストアルバムをリリース(僕は未聴)し、これがセカンドアルバムになる。
現在の編成はドラム二人に、ギターが二人。
ゲストで岡部洋一(ボンデージ・フルーツ)が3曲にパーカッションで参加している。
だけど根本のコンセプトは、演奏を左右真っ二つに分けられるところだろう。
それぞれのメンバーのコンビを、早川のベースがどっしり支える構成だ。
編成自体は、一時期のクリムゾンを思いだす。
もっともこのバンドの音楽は、筋肉のうねりを感じる。
それともうひとつ。サウンドの主役をあえて立ててないみたい。
アレンジの要はベースだろうけど、ほかのバンドメンバーもだまっちゃいない。
的確にポイントで自己主張を繰り広げる。
リフが炸裂し、ベースが暴れてドラムが煽り立てる。
ところどころでギターがソロを取るものの、ステージ前面まで飛び出してこない。
あくまで音楽の一つとして演奏している。
だからアドリブよりも、バンドの一体感が聴き所じゃないかな。
メロディアスながらハードなリフが次々に現れては消えていく。
ぐしゃっとバンドが絡み合い、骨太で柔軟なノリが溢れ出す。
聴けば聴くほど、すばらしさがスピーカーから溢れ出してくる。
スリリングで迫力ある演奏が山盛りだ。ぜひともライブを聴いてみたい。
Fedayien!/Fedayien(2000:地底)
川下直広(ss,ts,vln)、不破大輔(b)、大沼志朗(ds)の三人による、緊張感溢れるジャズが楽しいフェダインの新譜が出た。
「フェダイン」とは、アラビア語で「戦士」のことだそうだ。
まさにその名前にふさわしく、彼らは突っ走っていく。
激しいテンションで次々に音を繰り出して、そこここで火花が散る瞬間が何よりの聴き所だ。
今回はバディでのライブを中心に、二曲のスタジオ盤を盛り込んだ構成になっている。
ゲストには太田恵資(vln)、山本俊自(fl)、梅津和時(as)、山崎弘一(b)と、もりだくさん。
今回のアルバムでは、選曲はライブでおなじみの代表曲ばかり。
もっとも馴れから来る弛緩は感じられない。
ぴんと張った緊張感が、常に曲を通して感じられる。
ゲストの演奏は自己主張をするより、フェダインのプレイに溶け込んでいる。
またフェダインの面々もゲストを気にすることなく、自分らの演奏に自信を持って突き進んでいく。
トリオ演奏とは思えない音の厚みと手数で、空間を埋め尽くすのが特徴であるフェダインの音を味わうのには、この盤は適当でないかもしれない。
レコーディングレベルが低いうえに、演奏も派手さがないせいで、最初に聴いたときは暗い雰囲気を感じてしまった。
とはいえ聞き込むにつれて、魅力がじりじりと伝わってくる。
ある日のフェダインのスタイルを見事に切り取った一枚だと思う。
Viva Guitar(ギター万歳!)/ギロチン兄弟(1997:creativeman
disc)
音楽の演奏よりも、「音楽を演奏するスタイル」を楽しむギロチン兄弟が1997年に出したCDだ。CDとしては2作目かな。
もともとギロチン兄弟はギロチン・タイガー(ササキヒデアキ似)とギロチン・ジャガー(勝井祐二似)の二人によるユニットだ。
ところが、このアルバムではさらに、10人のギタリストが参加している。
本盤のコンセプトは「ギターによる伝言ゲーム」。
ギロチン兄弟が作ったウエスタン風のサンプリングでコラージュを施したインストが元曲だ。
その曲をギターで感じるままになぞっては、次の演奏者に音で伝言していく。
そして10人目が伝達されたとき、どれほどもとのニュアンスを伝えているかを楽しむのが目的になっている。
この盤に参加したギタリストは、下で紹介するようにそうそうたるメンバーだ。
その気になれば、一音足りともはずさずにギターでなぞって次の人に伝えていくことはたやすいだろう。
ところが誰一人そんなヤボなことはしない。
元曲や、前のギタリストの演奏を聴くのは一回か二回だけ。
あくまでその瞬間に感じた演奏をすばやくつかみとり、感じるままの音を指からつむぎだす。
前の人の演奏にさりげなく自分のニュアンスをつけくわえ、けっして他人のコピーで終わることはない。
それぞれの演奏者によるこだわりが、聴いていてたまらなく面白い。
参加ギタリストは次のとおり。伝言順に書いてみる。
内橋和久(アルタード・ステイツ)、今堀恒夫(元ティポグラフィカ)、RECK(フリクション)、大友良英(グラウンド・ゼロ、他)、アガタイチロウ(メルトバナナ)、竹久圏(キリヒト)、大野雅彦(ソルマニア)、山本精一(ボアダムス、想い出波止場、他)、鬼怒無月(ボンデージ・フルーツ、他)、磯田収(元モダンチョキチョキズ、他)の10人だ。
東西のライブハウスシーンでは欠かせない10人だ。
この10人だから、演奏は一筋縄では行かない。
一番刺激的なのが、山本精一の演奏だ。
彼の演奏で、雰囲気ががらっと変わる。
それまでは、まがりなりにも元曲をベースに演奏が進んでいたのに、山本はそれをあっさりと無視してしまう。
多少アップテンポでハードに続いてきた演奏が、山本の番になった途端に静かでやさしいノイズに、さらりと形を変えてしまう。
なのに、この伝言ゲームは平然と進んでいく。
元曲と並べて聴いても、違和感なく溶け込んでしまう。
そう、このアルバムは伝言ゲームを片っ端から楽しむ構成になっている。
まずは伝言ゲームで10人の演奏を順番に聴かせる(左チャンネルに伝言するギタリスト、右チャンネルに伝言を受けるギタリストを置く)。
そして最後のギタリスト、磯田の演奏とギロチン兄弟の元曲をあわせて聴き、ずれ具合を楽しむ。
続いては、「confirm」(確認)と題して、最初の伝達者の内橋と最後の磯田の演奏を並べて聞いてみる。
さらにさらに「inspect」(検証)と名づけた8曲で、内橋と磯田を除いた8人
の演奏を、元曲とあわせて再生される。
ここまででもそれぞれのギタリストの演奏を堪能できるけど。
一番の聴き所は最後に控えている。
22曲目の「ギター万歳!」。
彼ら10人のギターソロが、同時にモノラルミックスで収録されている。
いきなり聴いたら、単なるノイズにしか聴こえないだろう。
だけど最後まで執拗にギターソロを聞きつづけて、この曲にたどり着くと、ギターの音一つ一つがしみじみと響いてくる。
伝言ゲームを楽しんだ10人のギタリストの個性が、音になって絡み合ってくる。
この醍醐味を感じたくて、ついついこのアルバムは頭から聴いてしまう。
総収録時間が80分の大作だけどね。