今のおすすめCD
最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。
Dinosaur Tracks/Tower of Power(1999:Rhino)
再発物といえば、ライノ・レーベル。もう何年も僕はそう思っていた。
ビル・イングロットによる丁寧なリマスターに、かゆいところに手が届く企画・選曲。
僕の棚には、何枚もライノ盤がおいてある。90年代前半に、再発ものを僕が追っかけていた頃なら、ライノしかレーベルがなくたって困らなかったかも。
だけど最近はだいぶ様変わりした。技術の進歩とともに再発が活発になって、リイシューレーベルもいろいろ出てくる。オリジナルのメジャー・レーベルだって、どっさりリリースする。CD屋に行っても、目移りするばかりだ。
そんな今、ライノの影が僕の中で、だいぶ薄くなってきたのは否めない。
とびきりの再発は健在だから、期待をもたせるレーベルなのは間違いないけれど。
とはいえ、このリリースには度肝を抜かれた。もっと速くチェックしなかったのが悔やまれてならない。
「ライノ・ハンドメイド・シリーズ」。
テーマは「これまでリリースされていなかった音源だけを、CDに詰め込んで発表する」。
しかも、限定盤。入手はインターネットのみ。(東京では一部のショップに入荷してる)
どういう関係でテープを入手してくるのかは定かじゃない。もちろん、ブートじゃない。
再発レーベルとしては、理想の企画だろう。
さて、このアルバムは限定1万枚。タワー・オブ・パワーの不遇の時期、1980年から83年までのスタジオ音源を集めたものだ。
オリジナルアルバムで言えば、「Back on the
Streets」(79年)から「Power」(87年)までの、ちょうどリリース空白の時期。
ディスコやテクノやサンプリングに業界が塗り替えられて、タワーのような人力・タイト・ファンクの出番がなくなりかけていた頃だ。
もっとも今この時点ですら、タワー・オブ・パワーの売上はたいしたことないだろう。寂しい話だけど。
まずは、このアルバムを聞いて欲しい。
タワー印のファンクがつまっている。タイトなホーン隊も健在だ。
僕がタワーを好きなのは、弾むベースが産み出すゴムみたいに弾力あるリズム隊に、暖かいメロディ。
ホーンは一糸乱れず吹き鳴らすのに、どこか甘い雰囲気が全面に漂っているところ。
そんな多彩な魅力がつまっているところが大好きだ。
リズム隊こそ、ヴィト・サン・フィリッポ(b)にマーク・サンダース(ds)。
でもチェスターはいるし、ホーン隊はエミリオもドクもグレッグも健在だ。
一曲だけとはいえ、レニー・ピケットもゲスト参加している。
一曲一曲の紹介は次の機会に譲りたい。GbVの次は、タワーの全曲紹介をやろうかな。
ちなみに、このCDはライナーもしっかりしている。エミリオ・キャスティロによる当時の回顧談はもちろん、全曲紹介すらエミリオ自身がやっていて、読み応えがある。
当然のことながら、全部英語だけれども・・・。
このアルバムに収録されているのは、どの曲も粒ぞろい。ただ、ちょっと小粒の曲が多いかな。70年代の全盛期を、期待はしないでね。
でも、けっしてばかに出来ない。日のあたらない時代とは思えない力強さがある。
リズム隊がシンプルなのに楽しめるのは、ホーン隊ががんばってるからだろう。
エミリオがライナーで言っている。
「(このCDの音源を録音してるとき)僕らは恐竜(時代遅れ)といわれた。だけど、今は伝説って言われてる。何が変わったのかわからない。でもおかげでこのCDをリリースできて嬉しいよ」
僕も同感だ。タワーの音楽は、昔から何も変わっちゃいない。強情と思えるほど、時代に擦り寄った音楽を演奏しない。不器用に、自分らの音楽を追及するだけ。
そんなスタイルが、今まで第一線で生き延びられなかった原因だろう。
だからこそ、80年代前半はタワーをちっとも聞けなかった。
今とは雲泥の差だ。今なら、オリジナルアルバムがかたっぱしから、CDで手に入るんだから。
そんな環境の変化を喜び、それにこのアルバムを聞けたのを素直に喜びたい。
ケイハクウタガッセン/渋さ知らズ(2000:NEW GATE LABEL)
権利関係がどうなっているのか、あいかわらずわかりかねる。
ニュー・ゲイト・レーベルからの海賊盤ならぬ、「山賊盤」の第二弾が出た。
今回は1999年12/27、江古田バディでのライブ盤だ。
渋さ年末に恒例で忘年会的なライブをやっている。この日は実質4時間半もの長丁場にわたって行われたそうだ。
このアルバムはポイントをぎゅっと凝縮して、3枚組にまとめてくれた。
3枚組で3800円という良心的な価格もうれしい。
おまけに音質も「山賊盤」とは思えぬイイ音だ。DATのオーディエンスっぽい音と、PAラインっぽい音が混在する音源だが、目立ったノイズはまったく感じられない。オフィシャル音源といっても通じるだろう。
さて、肝心の演奏の方だが。こちらもごきげん。
総勢40人を超えるプレイヤーらによる、分厚いビッグバンドジャズが全編にわたってぶちかまされる。
演奏はスピード感があるし、なんども挿入されるソロだって刺激的なフレーズが多い。
今回はタイトルで「軽薄歌合戦」と銘打っているとおり(このタイトルは、その日のライブのテーマだった)、ヴォーカル入りの曲が多い。約半数がヴォーカル入りかな。
だから、初めて渋さを聞く人にも入りやすいかも。
ヴォーカル入りでは、「君はこたえよ」が僕のベストテイク。
たぶん反町鬼郎による、パワフルな歌声は聞いていてわくわくする。
もちろん、渋さを聞きなれた人にとっても充分以上に楽しめる。
おなじみの曲では、「渚の男」「犬姫」「ライオン」「Pちゃん」「DADADA」そしてもちろん、「本多工務店のテーマ」。
つぎからつぎへとつるべ打ちに演奏されるユニゾンのテーマは、いつ聞いても心が弾む。
個人的に一番嬉しかったのは、「ンディーライ」の収録。
97年くらいの1月に、僕が吉祥寺で見た渋さが、この曲を演奏していた。
ダンドリストの不破による指一本のきっかけで、渋さが軽々と吹き鳴らす。
指一本で「テーマ1」、指二本で「テーマ2」、指3本なら「テーマ3」。
聞きなれたテーマが、渋さの大人数でぶちかまされるのは格別の瞬間だった。
テクノがジャズに変換したことで、こんなにもかっこよくなるとは・・・。
僕は夢中になって、この曲を聴いていたっけ。
この曲はたぶん権利関係で正式にレコード化しにくいのかもしれない。
だから、「山賊盤」でゲリラ的にリリースしてくれて嬉しい。
「ンディーライ」・・・タイトルを並び替えてください。YMOのあの曲です。
タイトなテクノポップを、荒っぽく横揺れにかえた渋さのヴァージョンは、ぜひ多くの人に聞いて欲しいな。
ちなみに同種の趣向で、タイマーズもカバーしたプレスリーのあの曲も、収録されています。
一曲は長いし3枚組ってボリュームだから、一気に聞きとおすのはかなりハードな盤だ。
でも、ぜひじっくり聞いて欲しい。
それも、できるだけでっかい音で。
この混沌として猥雑なパワーを持った演奏が、音楽を聴くことの楽しさをしみじみ味あわせてくれる。
ジュブナイルのテーマ〜瞳の中のレインボー/山下達郎(2000:Moon)
こんどの達郎の新シングルは、映画の主題歌。ちょっと個人的には見る気がしない映画だけど・・・。どうも日本のSFの実写物は安っぽさが前面に出ちゃって。偏見かなあ。
このところの達郎のシングルは、どれもタイアップがらみだ。
本人もラジオで「タイアップの関係で、シングルはしばしお待ちを」的な発言をしばしば言っている。
ビジネスとしては、そのスタンスは正しいけれど。
「ミュージシャンの創作意欲が抑えきれずに作りました」って曲を聴いてみたいな。
別に、その裏にビジネス的な裏事情や駆け引きがあったってかまわないからさ。それを前面に出すか出さないか、の違いなんだから。
オニャン子や小室以降、どうもポップミュージックに「裏事情」や「業界ネタ」が補足されがちなのが、おもしろくない。
単純に作品で勝負するポップスだって、別にいいじゃないか。
さて、前置きが長くなった。この作品の紹介に移ろう。
一聴して、地味だなあって感じた。達郎のトレードマークの一つでもある、コーラスもわずかに出るだけだし、ごきげんなエレキギターのカッティングも聞こえない。
すべて打ち込みで、淡々と演奏が進んでいく。わずかにパーカッションがキラキラっと飾りをつける程度。
ところがこのシングルを買ってカラオケを聞いていたら、途端にこの曲が好きになった。
余計な装飾を抑えて、静かに演奏が流れていく。
こけ脅かしのように、楽器が突出して騒ぎ立てることなく、ゆったりと演奏されていくから、コードチェンジの瞬間がとても心地よい。
メロディが乗っていないはずなのに、いや、メロディが乗っていないからこそ、リラックスして聞ける。癒しの歌・・・っていうのは言いすぎかな。
そして達郎のリード・ヴォーカルが乗ると、この曲には新しい魅力が付け加えられる。
歌声も抑え気味に歌うけれども、ときに喉を絞って歌い上げる部分が心地よい。
パワフルって感じじゃないけれど、歌声の裏に力強さをしっかり感じる。
エコーをあまり感じさせずに録音しているから、素朴な感触が前面に出されている。
でも、この曲がアルバムに収録されるとなると、エコーをかなりかぶせられて再ミックスされそうな気もするな。ドリーミィな感触にしたいってことで。
とはいえ、まだそんな心配は先。アルバムが発表されるのはいつのことやら。
今年中に竹内まりやのアルバムが発表されて、その次だからなあ。
次は9月くらいの達郎の新シングルを楽しみにしているかな。
あ、そうそう。ちなみにカップリングは「アトムの子」のライブバージョンだ。91年に発表されたアルバム「アルチザン」の収録曲。
92年3/15の中野サンプラザによるテイク。この日かどうかは忘れたが、この日の近辺に、僕は達郎のライブを見に行っていた。
確かこの曲は、最初に演奏されていたはず。テープによる演奏にのってステージに次々バンドが登場して。キーボードがバーン!と弾けたときのワクワク感を思いだす。ライブの瞬間を切り取った、7分近くに渡る演奏が楽しめる。