今のおすすめCD
最近買い込んで、気に入ったCDを中心に感想を書いてます。
したがって、特に新譜だけってわけじゃないですが、お許しを。
Ween/White Pepper(2000:Electra)
アメリカの録音マニアバンド、ウイーンの新譜は久しぶりのスタジオ作。
去年の彼らのリリースは2枚組みのライブ盤だったから、97年の「The
Mollusk」以来のスタジオ盤かな。
今回のアルバムでは、過去のメンバー兼プロデューサーのアンドリュー・ワイエスが脱退(?)し、クリス・ショー(詳細経歴は不明)をプロデューサーに迎えている。
彼らの音楽性は、無節操なまでに幅が広い。宅録のチャカポコした音質で、くせのあるポップスを披露してたかと思えば、ハードなギターをうならせる。はたまたカントリー&ウエスタンの世界へずぶずぶに踏み込んでいく。
このアルバムでも、とろけんばかりの甘いメロディから、パンキッシュに歪んだ曲まで、どっちゃりと混在している。
だから、彼らの個性が見えてこない。それが唯一の欠点だろう。
ジャケットは飾りっけがなにもない。前面にピーマンのイラストを書いただけ。バンド名もタイトル名もなんもなし。
スリーブを開いてみても、色とりどりのピーマンの写真しかない。
あとはまっしろけ。CDそのものも、白地が一色でなんにもクレジットなし。
(詳細クレジットは、裏ジャケに記載されている)
このアルバムの特徴は、まさにその中ジャケットの写真があらわしている。
やりたい曲を、ためらわずに片っ端からつめこんだ。基本的なカラーはない。あくまでスタンスは純白で、先入観なし。
しいてアルバム各曲の共通点をあげるなら、演奏者が一緒(おんなじピーマン)って言うだけ。
うがちすぎかな。ジャケットを見ながら聞いていて、そんなメッセージを感じてしまった。
甘いポップスがあれば、ハードなギターでわめく曲もある。ひねくれたインスト曲を聞いたかと思えば、カントリータッチの演奏がつづく。
僕はやはり「flutes of chi」「even if you don`t」「stay
forever」のような、メロディがきれいで軽快なポップスに心惹かれてしまう。
だけど、他の曲だって魅力的なところはいっぱいある。
まるでコンピレーションを聞いているようだ。
視点は定まっていないけど。散漫さではなく、多彩さにつながっている。
この目的意識のあいまいさは、一歩間違えば単なる駄作になると思う。
だけど、微妙なバランスで駄作になることを避けるところが、彼らの才能・・・っていうか、センスだろう。
ザ・ムーンライダーズ/マニア・マニエラ(1982:Tent/Canyon)
日本を代表するひねくれポップバンド、ムーンライダーズ7枚目のアルバム。
なんでも、このアルバムは81年には録音を完了していたが、レコード会社に「ポップでない」を理由に、リアルタイムでは発売を拒否されたらしい。
そのため、82年にCDでリリースされたそうだ。
でも82年にはCDなんてメディアは、まあったく普及してない。
(僕がCDプレイヤーを手に入れたのは87年くらい。たぶん早くも遅くもないくらいじゃないかな)
その後、当時はやっていたカセットブックとして、84年にリリース。LPリリースをされたのは86年だそう。
そして僕がこれを聞いているのは、再びCDだ(96年発表のリマスター・ボックスにて)。さまざまのメディアを渡り歩いた、おもしろいアルバムなんだなぁ。
もっともリアルタイムでは、このアルバムのリリースをめぐったドラマが繰り広げられているとはつゆ知らず。96年にボックスセットを買うまでは、本アルバムを耳にしたことがなかった。
僕自身がムーンライダーズの名前を知ったのは、90年くらい。
ファミコンの「MOTHER」の音楽に心底ぶっとんでからだ。
あの音楽は、とにかくかっこよかった。ファミコンのしょぼい音なのに、すさまじいインパクトがあった。
カートリッジを差して電源を入れた瞬間の、あの静かなメロディが出たときの驚き、簡素なフレーズの破壊力は今でも覚えている。
その音楽の作曲家が鈴木慶一と知り、「アマチュア・アカデミー」がムーンライダーズの初体験。そんな経緯もあって、僕の好きなライダーズはどちらかといえば80年代後半からだ。
さて、本アルバムだ。このアルバムは、ライダーズが初めてPCをレコーディングに持ち込んだ作品だそう。
とはいえ今の耳で聞いてみると。打ち込みのタイトさよりも、人間くささのほうが先に立つ。
音作り的にも、古くささは否めない。
だけど、これは技術の進歩によるものだから、いたしかたないだろう。
ついでに、もう一つ本アルバムへの不満を言うならば。
ミックスのバランスが悪い。ヴォーカルが演奏に沈んでしまっている。
そんな不満点があるにもかかわらず、このアルバムはここ数日、ずうっと僕の部屋で鳴りつづけていた。
本アルバムの歌詞には、テーマがある。
表のテーマは「薔薇」。何曲にも渡って「薔薇」が歌いこまれる。
裏のテーマは「工場」。でも、この裏テーマは、僕が「テーマ化されてる」って思い込んでるだけ。そう言及された資料やインタビューは見たことない。
「工場と微笑」「ばらと廃物」「温和な労働者と便利な発電所」って曲に、なんとなく歌詞テーマの共通点を感じている。
音は、ぐしゃっとこもって分離の悪いミックスに隠れがちだが、さまざまな音色が現れては消えていく。
聞いていて、どうも居心地が悪い。アレンジは断片的なフレーズをつぎはぎにした感じがする。
メロディは一聴しただけでは耳に残らず、何度も聞き返して覚えたころに、やっとその特徴が染み込んでくる。
なのに、その居心地の悪さが、とても心地よくなる。
予定調和を壊そうとするライダーズの意地が伝わってくる。
ねじれたポップ感が身体に染み込んだころに、最終曲の「スカーレットの誓い」で大団円を迎える。
細部まで練りこまれた、こだわりが楽しい。それにしても、時代の進歩は残酷だ。
もしリアルタイムで聞いてたら、すっごく先鋭的な音楽に聞こえていたろう。
なのに、今聞くと。そのこだわりが手にとるように透けて見えてしまう。
そんなひねくれた聞き方をするのは反則かな。
なにはともあれ。6人の男たちが産み出す、ひりついたテンションの高さは時代を超えた魅力がある。
ザ・ビートニクス/Exitentialist a
Go Go〜ビートで行こう(1987:Tent/Canyon)
上で紹介した鈴木慶一が高橋幸宏と組んだ、不定期ユニットの2作目。
しばらく前に購入したまま放り出してしまっていた。
「マニア・マニエラ」を聞いていて、もっと軽いポップスが聞きたくなって引っ張り出してきたら、はまってしまった。
僕は鈴木慶一の歌声は好きだ。ちょっと鼻にかかった声で、やさしく歌い上げるときの個性はばつぐんだと思っている。
そして、高橋幸宏の歌声は苦手だ。同じく鼻にかかった歌い方をするが、それを甘ったるいとか、猫なで声って感じてしまう。
なのに、このアルバムを聞いていると、慶一と幸宏の声が溶け合って、とても気持ちのよい甘い歌声になっている。
その甘い歌声が、このアルバムでは堪能できる。
半数は英詩で、日本語の歌詞は半分。
ちなみに、バンドの「ステージ・フライト」と、プロコル・ハルムの「ピルグリムス・プログレス」をカバーしてる。
僕は両方ともオリジナルを聞いたことがないから、「ふうん」で終わってしまうけども・・・。
アレンジは、リズムを基本的に打ち込みですませる。そしてキーボードで肉をつけた後にストリングスで飾る形ってところかな。オーソドックスな作り方だ。
なんだか、全体に砂糖菓子のカバーがかかってる気分がするけれど。
このアルバムを聞いてみると、二人の歌声ってタッチがよく似ている。
慶一のヴォーカルテクニックと、エコーを聞かせたミックスのおかげもあるだろうけど。
僕が一番気に入ったのは「ちょっとツラインダ」。この曲って、CMで使われてたのかなあ。サビがなんだか聴き覚えがある。
ストリングスを聞かせたイントロにのって幸宏が歌い、慶一が受ける。そして二人でサビを歌うときの心地よさ。うっとり聞きほれてしまう。
ツルッツルの甘いポップス。普段なら、こういうのって僕のタイプじゃないはずなのに。
なぜかしっくり、耳に流れ込んでくる。
PRINCE/the Gold Experience(1995:WARNER)
僕がよくROMしているプリンスのファンサイトにある掲示板で、しばらく前に論争が起こっていた。
テーマは「プリンスの創造力は80年代で終わっているか否か」。論争は派生して、いろんなテーマに分散したが、僕が捕らえたテーマはこの一点だった。
僕自身は、プリンスの最高傑作は「ラブセクシー」だと思っている。
もし上記の論争に対する僕のスタンスを述べるならば。
プリンスの創造力のピークは、80年代半ばだったと思う。
なぜならば、自分をさらけだす表現を執拗に繰り返すプリンスを、リスナーや評論家が「新しい」と評価したのは80年代だけだったから。
プリンスの革新性は、3つあると思っている。
ひとつは、ベースを強調しないダンスミュージックを作り上げたこと。
ひとつは、ベースのかわりにキーボードのリフでグルーヴを生み出すスタイルを確立したこと。(このスタンスは、Pファンクを代表として、プリンスの発明ではないから、発明者とはいえないだろう)
ひとつは、自らのネガティブなイメージを「クール」と表現したところ。
僕は「プリンスの音楽が好き」と言ったときに、「え〜?だって、プリンスって気持ち悪いじゃん」とよく言い返された。
だけども、プリンスはその「かっこ悪いところをかっこよく見せた」瞬間があった。それはなにも、外見的なことだけじゃない。
「ビートに抱かれて」や「KISS」に代表されるように、淫靡な、陰鬱な、危険な、そんなマイナスイメージの曲でありながら、それがメチャクチャかっこよかった。
そして、プリンスが「失速した」と感じたのは、僕にとっては「バットマン」からだった。
そのときからプリンスの音楽に「毒」が薄れたと思っている。
でも。このアルバムでは、プリンスが「毒」を取り戻しつつある。
音楽的な失速をぎりぎりのところで食い止めた、90年代を代表する一枚だと思う。
このアルバムをリリースしたのは、プリンスが契約でワーナーと揉めていた時期だ。
ゲリラ的にライブを延々と繰り返していたから、このアルバムに収録されている曲のライブバージョンは、ブートで山ほど聴ける。
もっとも本アルバムを収録したのはいつなのか、よくわからない。
へたに「ライブで練り上げられたアレンジ」と言ったら大恥かも。
ツアーに出る前にはレコーディングを終了していて、ワーナーにリリースを拒否されてただけかもしれないし。
80年代に比べ、90年代にはプリンスの毒は薄められた。
すなわち「リスナーへのすりより」に変わっていったと、今になって思う。「バットマン」以降のほとんどの曲で、プリンスは「ポップでいる」ことを執拗に心がけているかのようだ。
リスナーを無視して、ワンコードファンクを連発した「サイン・オブ・ザ・タイムズ」のころと同一人物とはとても思えない。
プリンスの心の中はわからないが、80年代後半から90年代前半までのプリンスは、自分の音楽とリスナーとの距離感覚をつかもうとして、もがいてるように思える。
ちなみに「バットマン」からこのアルバムまで、プリンスの「毒」の除去はレコーディング技術でも感じていた。この期間のアルバムは、とにかく音がうすっぺらい。
聴いていて、ちっとも迫力を感じない。特に顕著なのが「ダイアモンド・アンド・パールズ」。
僕が持ってるのは国内盤だけど、音に色気がまったくない。マスタリングのせいもあるのかなあ。
ともあれ、この「the Gold Experience」こそが。ひさしぶりにプリンスの個性が全開になり、かつ聴いていて楽しい名盤だと思う(プリンスの個性は「COME」でも全開になってると思うが、あれはどうもポップさに欠ける・・・)。
80年代のような毒は、かなり丸くなっている。そう、プリンスは丸くなっているのかも。
「P−control」は、10年前ならもっと淫靡にぶちかましていたろう。「the
most beautiful girl in the world」は、こんなに素直に美しく歌い上げなかったろう。
でも、このアルバムの曲は、過去数作以上に丁寧に作られている。
アレンジは隅々まで目配りされて、音は分厚く迫ってくる。細かいSEやギターソロの音色まで、小技もちゃんと配慮している。メロディは魅力的だし、歌だってさまざまな声色を使い飽きさせやしない。
ここまでこのアルバムを高く評価するのに、僕は3年位かかった。
最初に聞いたときは「なんかのっぺりしたアルバムだなあ」と思っていた。
ヴォーカルを強調せずにバックと一体になったミックスを、平板でつまらないミックスに感じてしまっていたから。
でも、ある朝聞いた「gold」。この曲に、いきなりひきつけられた。
キーボードにのって歌い上げられる、ミドルテンポのこの曲がとってもぴかぴか光って聞こえた。
本アルバムの魅力に気づくまでは、本稿冒頭の議論を吹っかけられても「プリンス?80年代に終わってるよ」と一言で済ませていたろう。
とはいえ、このアルバムのすばらしさを気づいて以来、90年代のプリンスをもう一度聴きなきゃな、と思っている。
しかし、90年代後半はすさまじいペースでプリンスは次々と音源をリリースしている。
ひととおりは聞いてるけど、まだまだ聞き込んだとはいえない。
2000年以降もプリンスの創作意欲は落ちないみたいだし。はやく追いつけるように、もっともっと聞き込まなくっちゃ。焦るなあ。