Merzbow Works

Merzzow(Opposite records:2002)

Recorded and mixed at bedloom 2000-2001
Finally mixed on Jan 2002
All music by Masami Akita

 ひょっこりニューヨークのオポジット・レーベルからリリースされた。
 2002年前半は01年に録音した音源をかたっぱしからリリースしていたが、これもそのうちの一枚。
 本作のタイトルは、メルツバウの名前に引っ掛けている。
 日本人ならすぐぴんとくるだろうが、アメリカ人はどう感じるのやら。

 ジャケは期待を裏切らずインドっぽい象の置物の写真(撮影は秋田昌美)をデザインし、中を開いてもずらりと象のイラストが並ぶ。
 全11曲とメルツバウにしては短めな曲を詰め込んだ構成。
 
 さまざまなアイディアがわんさと詰めたのはあいかわらずだが、特にミニマル的要素が強まった。
 ループするフレーズをアレンジの肝にした曲が目立つ。

 ダイナミクス・レンジの幅を広げ、サウンドの密度も意識的に変化させて。
 隙間を強調した音像だからこそ、いざハーシュになったとき、さらに厳しく耳へ飛び込む。
 
 だがメリハリが効いたことで、あんがい聴きやすい盤になった。
 刺激一辺倒を求める時には、残念ながら物足りない。

 「音楽」の存在を常に意識するサウンドだ。

(各曲紹介)

1.Elephant song
(7:49)

 フェイド・イン気味に重厚なノイズが溢れてきた。
 ほんのり音程を感じるフレーズをループさせ、その上で静かにノイズが踊る。
 ノイズによる象たちの遠吠えだろうか。

 豪音で押しつぶさず、じんわりとさまざまな音色が噴出す。
 メインのループはいつのまにかひしゃげ、鈍くスピーカーが振動。

 ラスト3分くらいで、ほんのりリズミカルに変化した。
 エンディングはまさに象の咆哮みたい。
 スケールが大きい題材のわりにシンプルな構成は、室内楽を意識したのかな。

2.Horiwari(3:39)

 タイトルは「掘割」(地面を掘って作った水路)だろうか。
 すがすがしい電子音がキラキラと流れてゆくイメージから、この単語を連想した。
 さらに浮かんだイメージは動物園。象の周りに、深い堀を作ってるとこがあるじゃない。あんな風景の感じ。

 前曲とはカメラの視点を切り替え、淡々と流れる水の無限さを表現した曲だと受け止めている。 

3.Inside looling out Pt.1
(9:15)

 一昔前のSF映画にありがちな、コンピュータ・ルームの印象。そこへ迷い込んだのか?静かにパチパチと電子音がどよめく。

 おもむろに前面へ音の出る瞬間がスリリングだ。
 後ろで小さく、雄大なメロディが流れる。
 映画のサウンドトラックに使えそうな聴きやすい音楽。
 
 たまに響くノイズが、いいアクセントになった。

4.Inside looling out Pt.2
(8:37)

 これまたポップなアンビエント・ノイズ。じわじわと刻むビートの上で、ドローン風に揺れる。
 マックで作ったノイズの多重録音だと思うが、灰野敬二がたまにやるギターソロを連想した。

 いわゆる単音ノイズを微妙に変化させ、耳を埋め尽くすタイプの音像。
 でかい音でも小さな音でも、この手のサウンドは楽しめる。
 
 pt.1とは違い、メロディアスな雰囲気はさほどなし。
 だけどひたすら続く容赦ないノイズが、実に優しく耳に滑り込む。
 矛盾した表現に聴こえるかもしれない。
 でも、実際に聴いたら、きっとそう感じる人は多いはず。

 ゆったりしたテクノとしても聴ける。チル・アウトにはちと音色が厳しいかな。
 オーラスに響く鳥の鳴き声っぽい音が、すげえ異様だ。

5.Koshinzuka(2:10)

 庚申塚・・・かな?タイトルに意味を求めすぎるのは、聴き方が固定しちゃってよくないだろう。
 だけどアルファベットで日本語らしきタイトルがあると、つい漢字へ置き換えたくなる。

 (4)の冒頭みたいなサウンドがイントロだが、すぐにノイズが噴出し、ぐっとアグレッシブになる。
 もっともわずか2分の小品だし、カタルシスまで行かない。
 あれこれカットアップ風に画面が切り替わり、すぐさま終了。

 このアルバムのCMソングみたい。

6.Music machine(9:58)

 エレキギター・・・だよな、これ。サンプリングかな。さりげなく鳴らした一音を繰り返し、スクラッチノイズで彩る。
 おもむろに登場したベース。と打ち込みのリズム。なんか普通のインダストリアル系ロックバンドみたい。

 セッション風に各楽器が絡み合い、グルーヴが生まれる。
 実際にはメルツバウのミックスで構築したマジックだが。
 だんだんリズム隊が音に埋もれ、豪音ハーシュが主役になっちゃうのが惜しい。せっかくだから、とことんまで擬似ノイズバンドを繰り広げて欲しかった。

 エンディングでは再びリズム隊の演奏を重厚に繰り広げる。
 プログレ好きな人にも、馴染みやすいアレンジでは。

7.Horse(4:48)

 ナッツ系を食べる音に、ハーシュノイズがかぶさる。
 メルツバウらしい爽快な豪音が嬉しい。一気に突き進み、中央突破。

 途中で聴ける電子の軋みは、なんとなく馬のいななきにも聴こえた。
 
8.Penderecki(4:51)

 前曲よりもっと粒の細かい電子音が弾ける。
 そっとかぶさるのは、オーケストラっぽいフレーズのサンプリング。

 豪音ノイズが次第に比率を上げてゆくものの、ある一定のリズムパターンを常に頭のどこかで意識させる。
 エンディングへむかって次第に厳しく、重たく収斂する音像が面白い。
 音飾の変貌をまざまざと味わえる。

9.Green(9:17)

 シタールみたいな鈍い響きの音による、重たいフレーズをループさせる。
 ノイズは後ろから次第に絡み付いてきた。
 この曲ではフレーズとノイズの主従関係が交代する、明確な瞬間を感じた
 具体的には1分24秒くらい。微妙にリズムがズレ、前後が入れ替わる。

 そのあとはガリガリなノイズの独壇場。たまに冒頭のシタール風なフレーズが前面に出るものの、パルス風の電子音が常に自己主張する。

 しかしループするフレーズが見え隠れすることで、リフ役割も担った。
 浮き立つリフではないだけに、単調さを感じてしまう。
 唐突に叩き切られるエンディングで、我に返った。

10.Humming bird(6:52)

 これもフレーズ・サンプリングの組み合わせかな。複数のうねりが浮かんでは消えてゆく。 
 連想したのは初期メルツバウのテープ・コラージュ。

 純粋な電子音だけでなく、オーケストラみたいな音の早回しを混ぜ込んでいるようだ。
 さまざまな周波数が混在する。

 定位の感触が面白い。時には左右で対話させ、時にはセンター一本で音を膨らませた。
 極端に定位を固定させ、すぽっと産まれた隙間に吸い込まれそうな妄想が浮かぶ。

 左右からじわりじわり耳を覆われ、次第にメルツバウのノイズ洞窟へ引きずり込まれる。
 この曲が7分弱で助かった。60分くらいかけじっくりやられたら、妄想が現実になったかもしれない(笑)

11.Aenokoto 223(3:15)

 いわゆるメルツバウ印のハーシュノイズがやっと聴けた。
 パルス風のうねりをどこかに固定させ、他のノイズが絡んでゆく。
 
 中盤ではせわしなくパンするノイズがもどかしい。もっと激しく。さらに過激に。

 つかみ所なく、休まずにノイズが踊りつづける。
 そして一気にカットアウト。あっけないぞ。
 3分くらいじゃメルツバウを聴いたって実感が味わえないのかな。
 まるでジングルみたい。 

   (2002.8.18記)

一覧へ

表紙へ