Merzbow Works

Zophorus (2007,Blossoming Noise)

Recorded & Mixed at February 2007 at Bedroom, Tokyo
Music by Masami Akita

 テーマはノイズまみれの、か細いメロディか。ハーシュが炸裂するなか、ときおりシンプルな数音のメロディが現れる。(1)に顕著だが、激しい混沌と対比するかの如く。そもそもメルツバウの作品で、メロディめいたものが現れることすら珍しい。
 低音はあまり出さず、中高音域を丁寧に使ったノイズのミックスが楽しめる。騒々しいが全てが細かく聴こえる、デジタル・ノイズの美学だ。

 千枚限定、タイトルは"Zoophorus"のもじり。Zoophorusとはギリシア建築で柱頭の上部にある幅広を飾る、動物のレリーフを指すらしい。分かりづらいが説明はこちら(日本語)かこちら(英Wiki)。ペンで書かれたような、キメラな鳥ジャケットも秋田昌美の作品だ。

<全曲紹介>

1."Zophorus Part.1"   13:13

 まず全体を埋めるノイズ。低く緩やかな音が奥で鳴る。B。そしてC。厳かなオルガンのごとく。吹きすさぶ電子の嵐をまったく気にせず、凛として。執拗に2つの音が繰り返された。目先にふさがるノイズの奔流を押し分けて。耳は二つの音を追う。変化を求めて。存在の確かさを探るべく。

 静かな二音に誘われたか。目の前のノイズも絶叫だけに留まらず、変化をつけてきた。時に捩り、時に震える。メロディを描く模索か。けれども奥の二音の連続には及ばない。
 奥ではまだ、二音が淡々と繰り返されている。

 震える目の前の電子音は、音程を持っている。奥の二音がスッとハモった瞬間、どきっとした。
 騒々しく轟き続けるハーシュ・ノイズ。奥は厳粛なオルガンめいた音。対比は最後まで、続く。

2."Zophorus Part.2"   8:07

 回転灯の脈動。新たなシンセが次々現れ、最初のループはみるみる形骸化し、骨格だけになった。前曲の2音と響きが似ている。前曲もフィルター処理で上下を切られ、奥まった配置に留められたか。

 今回はミニマルな脈動を基礎ループに、目の前で激しくノイズが蠢く。電子音だが胴体は複雑に膨らんだ。一本でなく複数のロープが瞬く間に変化を続けた。
 基調となる脈動は淡々と続き、躍動するノイズが主役だ。つんざく高周波が穏やかな中域と重なり、太さも鋭利さも異なる複数のそそり立ちが、ランダムに刺しては消える。まっすぐなだけじゃない。しなり、曲り、揺れる。
 全体は躍動的なわりに重たい。どこか陰りを持った響きだ。

3."Zophorus Part.3"   8:51

 サウンド全体が揺れる。脈動とシンセのパルスやリボン状の響きが絡んで、ジワジワと浮かび上がった。響く低音と、中高音の対比か。賑やかにリボンは左右に振り、下からシャワーで噴き出した。ごそごそと蠢く低音。
 そこへ。奥の音へ気が付いた。フルートのように静かな旋律。耳を澄ます。いや、目の前のノイズを意識から消し去る。メタル・パーカッションも邪魔だ。えいや、とノイズを耳で押しのける。微かに、微かに。緩やかな旋律が聴こえた気がする。2音の旋律が。

 消えてしまったか。もはや目の前の激しさは、興味を弾かない。あの2音が聴こえないか・・・が、気になる。
 スッときれいに整理され、メタル・パーカッションとシンセの応酬。メタルはエッジを加工され、ひしゃげた音色に。奥に何か、メロディが聴こえる気がする。幻聴か。不思議だ。たしかに聴こえる気がする。途切れがちの、緩やかな二音が。

4."Zophorus Part.4"   17:01

 せわしなく転がるメタル・ノイズの嵐。いったん電化され、エッジはがりがりに削られてる。金属質だが、どこか軽い。傷つきそうで、どこか不安定だ。
 シンセの音色が細かく足された。ニワトリの声とリボンを混ぜたかのよう。それぞれのノイズはゆっくり左右にパンを繰り返した。

 聴こえた。今度は確かだ。右チャンネルで、前曲のメロディをシンセが一瞬奏でた。すぐに解体されてしまう。今度は中央。稚拙な上下のメロディ。ひよひよと浮かぶ。頼りなく。
 明確な定位で、今度はノイズを耳で押し分ける必要はない。くっきり並列した。ノイズ側はここでも元気だ。メタル・パーカッションと降り注ぐハーシュ、能面の鋭い響き。複数が次々と配置され、隙間なく踊る。

 ついに力弱いメロディを押しのけた。賑やかに全面で踊り始めた。骸骨な骨格ドラムとディストーション成分のみのノイズがセッションする。うつろな響きだ。賑やかなわりに、不思議と頼りない。業を煮やしたメロディが現れ、高らかにソロ。しかし、奥まっている。
 ズタズタに切り裂くノイズ。悲鳴を上げてメロディが崩れる。復活するメロディ。高速回転のノイズと、不安定だが揺れるメロディ。
 二つが対比しあい、ついに決着つかぬまま消えた。

5."Zophorus Part.5"   5:08

 リズミカルな脈動と剛腕ハーシュの両翼で始まった。フィルター・ノイズが威勢よく鳴り、リズム側は前のめりに倒れ続ける。
 混沌がすべてを覆い、脈動がノリをキープした。めまぐるしくノイズが溢れる、メルツバウ独特のオーケストレーションが美しい。

 このアルバムの統一テーマ化と思われた、メロディとノイズの融合は、ここでは聴けない。アンコールで全員が順繰りに挨拶するかのように、めまぐるしく音の主役が変わっていく。
 みっちり詰まったノイズの快楽がここにある。
   (2015/9:記)

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