Merzbow Works

Zeitkratzer"noize\...[larm] to listen to at an extremly loud level"(2002:tourette)

recorded at podewil berlin,center for contemporary arts
mixed at ww-studios berlin by marcus waibel & reinhold friedl
exective producer - reinhold friedl

on 1,3 masami akita:electronics

 発想転換したノイズ作品。よくやろうと思ったな。

 電子ノイズが前提のハーシュ作品を、アコースティック楽器で再現した演奏だ。
 メルツバウは2曲を提供。ほかにはメルツバウとも共演経験あるZbigniew Korkowskiが2曲。
 あとはDror feller(詳細不明)が1曲、の構成だ。

 Zeitkratzerは1997年に結成されたアンサンブル。(なんて読むんだろ。ツェイクラツァーかな?)
 既存の作曲を拒否がスタイルらしく、ルー・リードやソニック・ユースのリー・ラナルドと共演経験あり、とライナーで自己紹介してた。
 Zeitkratzerのメンバーは下記の通り。これで全員かはわからない。あんがい不定形なメンバー活動をしてる気もする。

 録音はベルリン。クレジットによれば当時、メンバーはベルリンに住んでいたらしい。
 金銭面でのサポートはreinhold friedlが行ってる。プロデュースも彼。
 たぶんパトロン的存在で、なおかつ実験も握ってるんだろう。

 録音担当のmarcus waibelもメンバーとして認知されてる。
 出音までコントロールするユニットを結成したんだ。

 実際にはエレクトロ・ノイズも多少ダビングされており、まったくのアコースティック・ハーシュじゃない。
 だけど雰囲気は良く出てるよ。
 けして雑音に頼らず、うまくアンサンブルでハーシュのイメージを出している。

 いちばんの興味は、どんな譜面を使ったのかってこと。
 偶発じゃなく再現性も確保し、きっちりスコアがあったらすごいのに。

 メルツバウが本作に提供したのは、たぶん新曲だと思う。
 だとしたら演奏に当たって、どう製作したかも興味深い。

 完成作品をメルツバウが送って、それを譜面化したのか。
 アイディアのみをメルツバウが提供し、即興で作ったのか。
 それとも秋田がきっちり譜面を作って提供したのか。

 最大のアコースティック楽器の欠点は、音色の変更に限界ありなとこ。
 アンサンブルであるがゆえ、活動フットワークに制限がある。
 まさかメルツバウと同じペースで録音、活動するのは不可能だろう。

 要するにアルバム1枚を聴いて、おなかいっぱいになった。
 さらなるコラボレーションを期待するほどじゃない。活動したら、聴くけどね。

 あくまで突然変異体として楽しむ盤。発想と演奏のセンスは面白い。

 なお、メルツバウが本作にこんな趣旨のコメントを寄せている。
 "楽器を使わないことが最初の動機だった。壊れたテープレコーダーや、壊れたギターなど。
  コントロールできない楽器自身が選んだ声が、楽器のリビドーと考えていた。ノイズこそがエロティックである。

 音楽とノイズで分けない。シュルレアリズムを音楽で表現したい。無意識への到達として。作曲は即興ではなく、無意識的行為なんだ。"
 
 短い文章をさらに抄訳していますが、ニュアンスは伝わるだろうか。
 メルツバウの音楽を秋田昌美が表現した、見事に整理された概念と思う。

[zeitkratzer]
 burkhard schlothauer - vln
 michael moser - vc
 alexander trangenheim - b
 axel dimer - tp
 melvyn poore - tuba
 ulrich krieger - sax,didjeridou
 luca venitucci - accod
 reinhold friedl - direction,p
 ray kaczynski - per,ds
 marcus waibel - sound

<全曲紹介>
 *ここではmerzbowの作品のみ、紹介します。

1.crack groove(5:51)

 メタル・パーカッションのゆったりした連打。フロアタムが加わり、電子音数本がかぶさる。
 パーカッションは一人だけみたいだから、ダビングして作ってるのかな。
 後ろで鳴るハーシュが、メルツバウだろう。
 
 耳を澄ますと、高音部分に弦での軋み音が・・・あるような・・・ないような・・・。
 アコースティック楽器の存在は希薄だ。過半数を生楽器で演奏してるなら、それはそれで凄いが。

 フロアタムにメルツバウのノイズをかぶせた印象。
 穏やかなムードで、いまいち物足りない。
 3分半を超えて、コントラバスのアルコで低音を、パーカッション連打でホワイトノイズを表現するのがよくわかる。
 が、あくまでイミテーションの域を超えない。

3.yahowa stackridge(10:54)

 この曲でもエレクトロ・ノイズがけっこう聴こえる。どこまでzeitkratzerの音だろう。
 シンバルのリズム・パターンはなかなかいかしてる。

 探り合うように音が揺らぎ、消えていく。
 背後で静かに蠢く低音の迫力が凄い。
 シンバルにフロアタムが重ねられ、リズムがより強力になった。

 zeitkratzerの存在を意識せず、純粋なノイズ作品として聴いても(1)より楽しめる。
 ドラマ性と緊張感が段違い。せわしない太鼓が心をあおる。
 
 人力のせいか、4/4拍子がなんとなく垣間見える。もしかしたら拍子をつい数えてしまうから、つまらなさが増幅するのかも。
 この時期のメルツバウはすでにPC一台でノイズを作る方法を採用していた。
 ループを多用するため、なんらかの拍子は存在する。
 だが、一人でやっている以上、リズムを自在に揺らすことは可能だ。
 ところがzeitkratzerはアンサンブルである以上、変拍子にも限界ある。その硬直さがつまらないのかもな。

 ゆっくり電子ノイズが音色を変え、すべてを包み込む。
 いつのまにか後方の暗闇が溶けだし、足元を侵食してるようだ。
 耳に残るのは混沌とパーカッションの連打。
 悲鳴のように聴こえるのは、ディジリドゥか。

 後半部分はフリー・リズム。このあたりは決め事なしで、淡々と音を出していそうだ。
 多層構造のはずが、ぐしゃっとしたミックスで構成要素を読めない。
 もやもやっとした音の響きが楽しいな。
 
 唐突に演奏は終了。余韻がふわんっと空気を揺らがせる。 

  (2004.1記)

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