Merzbow Works

Yoshinotune(Clue Clux Clam , USA:2004)

All music by masami Akita:
MA - Computer,Acoustic Guitar
Recorded & Mixed at Bedroom and Dinning Room Aug/Sep 2003

 テーマは源義経。製作時にメルツバウにとって、どういう脈絡があったのか分からない。
 ぼくはこの手の教養がない。したがって、どのようにテーマへノイズを当てはめたかよくわからりません。ごめん。

 ジャケットもすっかり和風風味で、中央に黒い鶏が一羽。
 中ジャケにも二羽、鶏がいた。イラストも全て秋田昌美の手による。
 そのおかげか紫を多用した色合いなのに、きっちり日本風味。ありがちなわざとらしいエキゾティックさはない。

 本作も秋田の自宅録音。些細な点だが、ベッド・ルームだけでなくダイニング・ルームを使用したのが珍しい。
 メタル・パーカッションっぽい音が使われた。もしかしたら台所用品をサンプリングしたのか。
 こういう細かい点が気になるよ。じっくりインタビューした記事ってないかな。
 
 日本情緒を漂わせるノイズ、という面白い一枚。長尺3曲で音の密度が濃い、充実した盤だ。
 どうやら低音成分をたんまりミックスしてるみたい。
 なるたけでかい音で聴いて、身体でもノイズを味わいたい。

<全曲紹介>

1.Ushiwaka Kurama Iri(25:32)

 邦題は「牛若鞍馬入り」。2003年のイベント「メタモルフォーズ」で初演された、とオフィシャルHPでメルツバウがコメントしていた。

 鈍い地鳴りへ、やがてパルスの重たいビートが重なる。1999年にリリースされたUniversal Indiansに似たテイスト。
 じわりと音が積み重なるダイナミックな曲だ。

 高音ノイズも使用されるが、基本は低音。
 ボリュームをあげて聴いてると、なんだか息苦しくなる。低周波がたんまりミックスされてるのかな。
 規則正しいビートが荘厳かつ厳格に鳴り、音世界を引き締める。
 テンポの遅い四つ打ち、と考えればテクノのスタイル。
 しかし日本人の端くれとして、このビートは大太鼓をイメージしてしまう。

 構成はシンプル。ビートが淡々と鳴り、上物が出入りする。
 さまざまな音素材が登場するが、奥行きは見えやすい。あまり複雑なミックスじゃないから。
 途中で出る笙のような響きの浮遊感が心地よい。能のノイズ版ってこんなだろうか。
 メタル・パーカッションぽい音が中盤で頻出した。

 ハーシュが吠えるのは12分頃から。唸りを上げるモーター音を従え、うっすら煙りながら吹き荒ぶ。
 破裂しそうな卵の内部から、外壁を削りたてた。
 後ろで静かに鳴る低音四つ打ちは、次第にテンポが上がる。

 貫くホワイトノイズ。
 響きが鈍く、そして強まった。
 四つ打ちとリズムの関連はないものの、なんだかポリリズミックな融合を感じた。
 
 背後のビートが存在感を増した。人の声を模した響きがシンクロする。
 次第に世界の重心が浮かんだ。舞台がせりあがるかのごとく。
 強く弾む四つ打ち。負けじとハーシュも唸った。
 そしてカットアウト。

2.Hachiman caro no uta (15:39)

 邦題は「八幡"かろ"の歌」・・・かな?「かろ」ってなんだろ。

 三味線みたいなかき鳴らしが、両チャンネルでそれぞれ響く。"アコースティック・ギター"ってクレジットがこれだろう。
 ピックアップで拾ってディストーションで歪ませたか、マックに取り込んだあと音をひずませたか、どちらだろう。

 あくまで西洋楽器を日本楽器の響きに取り込み、上手く演奏する点が素晴らしい。
 秋田昌美はノイジシャンとしてのみならず、奏者のセンスもすごい。

 すぐさまハーシュが噴出して音を埋め尽くす。
 特に左チャンネルを重点的に責めた。こう聴こえるのは僕のステレオの調子が悪いせいか。
 左チャンネルではアコギとノイズがせめぎあう。
 一方、右チャンネルはあっというまにノイズが全てを飲み込んだ。
 
 鈍く低音が揺らめく。ループで左チャンネルの攻防をあおった。
 下降スケールの音程感が、低音にくっきりあり。両チャンネルで音像がくっきり分かれ、広がった。
 前曲が拡散ならば、これは下へ削岩のイメージ。身体をうねらせ捕捉して、くるくる舞った。

 この曲もかすかに日本のイメージが漂う。
 日本人以外の人に、そのニュアンスは伝わるだろうか。
 音像が派手なハーシュノイズなので、爽快感はひとしお。
 
 いくつものループを積極的に取捨選択し、いきいきしたノイズ作品に仕立てた。
 ストーリー性は希薄だが、音の面白さで最後まで聴かせる。
 カットアップでギターのかき鳴らしが登場する瞬間がスリリング。すっかり表面はざらついてしまってる。

 ラストは軽やかなギターのかき鳴らしを一口。

3.Yoshino no Yamazakura(11:42)

 「吉野の山桜」が邦題だろう。
 シンセがうねうねとくすぶる。奥で古臭いサンプル素材をひねくったよう。
 周辺がはじけ、次第にノイズが広がる。

 どこか厚い皮越しに聴いてるようなもどかしさあり。轟音で聴くならば同じかも。
 冒頭のひよひよ鳴くノイズは、ウグイスを模したのか。

 ちょっとためらったあと、世界はがらりと大胆に。
 インダストリアル・ノイズ風にループが提示され、ぐいぐい迫った。
 ハーシュの表情も前面に提示する。
 前2曲と異なり、ここは馴染み深いメルツバウの厳しい音世界。あまり日本情緒は感じない。
 しいて言えば秋祭りのお囃子っぽいテンションがあるくらい。

 音世界が見る間に変貌するメルツバウのお家芸が、上手くまとまった一曲。
 規則正しいビートは(1)のイメージも含む。アルバムのまとめにふさわしい。

 桜の下で賑やかに楽しむ人々が産む、人ごみの「うわあああん」って響きを上手くノイズで組上げた。
 集中して聴いてたら、ほんのりノイズに酩酊したよ。

 かなり強引にフェイドアウトし、最後は音をぶった切る。
 オリジナル・テイクではまだ続きがありそう。最後まで聴いてみたかった。

  (2004.12記)

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