Merzbow Works

Iannis Xenakis"Persepolis+Remixes Edition 1"(2002,USA)

 クセナキスの代表曲のひとつ"ペルセポリス"をオリジナルと、リミックスの2枚組でリリースした作品へ、メルツバウが参加した。

 クラシック寄りのアカデミック路線でなく、ノイズの切り口で親しみやすさを表現した。さらにリミックスでノイズ分野のミュージシャンを集め、どれも力がこもっている。
 秀逸な企画の盤。クラシックとノイズ、両方の客層へ訴求が狙いか。どの程度売れたか不明ながら。

 他のリミックスは大友良英やズビグニエフ・コワルスキーなど。全9人が参加しているが、他の人たちは不勉強でよく知らず。なお本企画の取りまとめもコワルスキーは関与と記載あり。

 クセナキスの"ペルセポリス"はもともと1971年に、イランの第5回シラズ・ペルセポリス国際芸術祭の委嘱で作曲された。56分のテープ作品で、8トラック録音。初演は会場に設置された無数(100個の記載をネットで見かけた)のスピーカーから流されたらしい。
 さぞかし心地よかったろうな。

 Disc1のオリジナル曲はパリのINA/GRM(国立音響学協会/音楽探求グループとでも訳すのか)がクセナキス監修の元、オリジナルのテープへリミックスを施した、とライナーに記載あり。クセナキスは01年没、晩年は作曲活動から離れたともいわれる。00年〜01年に作り直したのならば、この辺の時間軸が少々腑に落ちない。
 なおリミックスにより、オリジナルの56分から60分ほどまで延長された。

 オリジナルは全編にわたりエコー成分を纏ったさまざまの軋み音が、重なり覆い合って絶え間なく持続する。メロディ要素は希薄で、スケールの大きさを空虚な残響感で表現する。音色はやりきれない空しさを感じさせ、栄華を誇った当時のペルセポリスよりも、壮大な廃墟と化した遺跡の風景を表現したかのよう。

 そうとうに単調な展開だが、音響作品として聴いたら刺激的。1971年の作品だが、今の時代でも十分に鑑賞に堪える。ハーシュやノイズの要素もあるが、隙間が多いため圧迫感は少ない。空しい音像はペルセポリス遺跡のみならず、さまざまな都会へもそのまま通低しそう。
 とにかく浮かび上がっては漂う低音のざわめきが痛快だ。徹頭徹尾クセナキスは突き放し、冷徹で荘厳な音楽を構築した。

 Disc2はメルツバウのみを詳述し、それ以外は以下へ簡単に触れる。

大友良英:
 空虚感へ電子音を足し、煌びやかさを強調した。テンポはオリジナルと類似している。行き交う音の瞬きが、幾分スピード要素を増したか。原作を縮小再構築な印象あり。後半で、ぬぼっと重たいふくらみが前面で蠢いた。最後は唐突に終わり、針音がわずか続く。

池田亮司:
 むき出しのノイズによるハーシュ。カットアップを多用し、オリジナルの雄大さはほぼ無い。早回しテープのようなせわしなさが、寸断とともにぶちまけられた。リミックスというより、オリジナルテープを素材の一つとし、彼の作品を目指したアプローチ。
 インダストリアルの要素も感じるが、持続性はあえて廃した。中盤以降はこじんまりな電子音のつぶやきへ。

ズビグニエフ・コワルスキー:
 幾分乱暴な耳ざわりだが、オリジナルのイメージを強調した。ハーシュさや寸断、フィルター・ノイズで空虚さをうねらせる。テンポアップしてミックスを。オリジナルの良さに、コワルスキーの鋭さを混ぜた良い編集だ。最後はハーシュの嵐。

アンチマター:
 厳かな電子音の高まりから。オリジナルより、若干色彩を感じた。4分ほど経過してハーシュの要素がわずかだけ加わる。けれどその後はオリジナルを活かしたサウンド。ある意味、素直なリミックスだ。

コンストラクション・キット:
 パルスやクリック・ノイズで点線でオリジナルを描画した。おそらくテンポはさほどいじってなさそうだが、寸断まみれの音像は妙にスピーディ。ヘッドホンで聴くと、耳へ電子音がまとわりつくような気分だ。あっさり終わる。

フランシスコ・ロペス:
 前半はオリジナルの揺らぎを、あえて抑えて表現する。細かい音の重なりは伺えるが、クセナキスよりも飾りを削り取って細部の瞬きへこだわった。やがて中央へ収斂し、一気に突入する。加速の凄みをびしびしときらめかせて。最後の30秒強は無音を採用した。

ラミナー:
 煌びやかさと退廃さの両方を混ぜた。フィルター加工も踏まえ、オリジナルの要素を残しつつ、自らの浮遊感も表現した。派手さは無いが、キュートなリミックス。

ウルフ・ランゲンリッヒ:
 原曲をわずか加速させた。肌合いを残しつつ、場面が巧みに切り替わる。残響はディレイ風に加工も。淡々と音を紡ぐ。ときおりのディレイ効果が、凄んだ魅力あり。足元が不安定に震え、立ち尽くす。
 ディスクの最後を、原曲の迫力とリミックスの凝縮で見事に締めた。

<各曲紹介>

8.Merzbow (7:00)

 実質、無題。曲目クレジットはミュージシャンの名前で代用された。本盤のミュージシャンによっては、曲名がついている。単なる気分だろうか?音源提示時の行き違いだろうか?なおメルツバウはオリジナル盤を愛聴していた、との記述もネットで見かけた。

 細密のきらめき。極低音が二つ鳴り、低周波を辺りへ撒いた。原曲のくすみを拭い去り、重厚ながら軽やかさを踏まえた幕開け。たっぷり溜めて、一気に炸裂した。

 強烈なハーシュが耳を劈く。複数の高音がそそり立ち、入れ違いに前面へ出る。細長い落下が幾筋も。花火が勢い良く落下するごとく。
 奥深い空虚がいきなり大口を開けて、ぐいぐいと吸い込み始めた。新たなハーシュがすらりと刃を抜く。吹きすさぶ風。

 大口はいったん方向を変え、まっしぐらに体表を震わせた。吸い込み口も取り込み、全体がよじれながら突き進む。
 最後は涼しげなフィルター・ノイズが横一面に細く流れた。

 オリジナルの色合いはほぼ、無い。あくまでメルツバウの切り口で表現した。   (2009.3記)

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