Merzbow Works
非常階段"Windom"(Alchemy:1991)
京都のノイズ第一世代のバンド、非常階段のライブ盤。メルツバウは当時より交流あり、ライブではよくドラムで参加していたとの記事を見たことあり。
本盤は91年の10月に東京で録音された2曲と、同年6月に東京は新宿アンティノックで行われたライブ音源を1曲収録。メルツバウは秋田昌美として、ライブ音源にドラマーで参加した。
非常階段の結成は1979年。オリジナル・メンバーはJOJO広重と頭士奈生樹だったらしい。1980年に頭士が脱退、T.美川が参加。80年代後半にJUNKOやコサカイフミオがメンバーに加わる。強烈なハーシュ・ノイズをばら撒くバンドで、1982年の"蔵六の奇病"が代表作と語られるようだ。
のちに美川とコサカイはインキャパシタンツを結成。轟音ノイズの代表バンドとして、活動を広げる。
非常階段が現在、どのように活動してるかは不勉強で知らない。少なくとも07年現在、"蔵六の奇病"がリマスター再発される動きはあった。07年にはライブ活動も行っている。
録音物では04年の"ラスト・レコーディング・アルバム"が最新。
JOJO広重は1984年にインディー・レーベルのアルケミーを立ち上げ。積極的にノイズや前衛的なバンドをリリースする。本盤もこのアルケミーからリリースされた。アルバムとしては10作目あたりの作品らしい。
非常階段はカセット音源で膨大な作品をライブ物販しており、全貌が良くわからない。『極悪の教典』という60分テープ10本組の作品まであるようだ。
スタジオ作品のほうは、アナログ的な轟音ハーシュが飛び交い続ける。
(1)は金切り音と変調された叫び声らしきもの。さらにハウリングめいた音と低音成分が混沌と膨らむ。
ドラムやベースのようなビートを固定させる趣きは何一つ無い。無造作に抽出されたノイズが、奔放に蠢いた。
録音の分離はまずまず。ノイズの濃霧に包まれ、ボリュームを上げるほどにエッジがくっきり際立つ。
(2)も基調は一緒。幾分、スピード感が増したか。超高速の螺旋に絡め取られ、中へ中へと突進する。泡立つパワーノイズが幾分、ビートめいて聴こえる。
奔出するノイズは一時も休まず、鼓膜を刺激し続ける。メルツバウとの対比をあえて言うなら、非常階段は強靭な生々しさがを感じる。バンド形式だからか。重なる音に揺らぎを感じた。
即興性では同じかもしれないが、ストーリー性を視野に入れたメルツバウと異なる個性を感じた。
なお筆者は本作以外、"蔵六の奇病"のほか数枚程度しか、非常階段を聴けていない。
いずれにせよ凄みとスリルが混在する、ハードエッジなハーシュ・ノイズの傑作。見つけたら是非、聴いて欲しい。あまりに隙がなく、一度聴いたらぐったりするほど。
さて。本盤収録のライブ音源は、非常階段のメンバーとしてJOJO、T.美川、Junkoがクレジット。コサカイと秋田昌美がゲストとして参加した。
本稿ではメルツバウ参加音源のみを詳述します。
<各曲紹介>
3.Live910608 (22:15)
フェイドイン、すでに荒れ狂った状態から始まる。その前のスタジオ録音にくらべ、さすがに分離がこもり気味。秋田昌美のドラムがランダムに叩かれ、シンバルがつんざく。
パワー・ノイズが溢れ、秋田のスネア・ロールと絡まるようで無作為にはじけた。
乱打なドラミングではあるが、バスドラらしき音やスネアのパターンなど、単発的なビートを提示する。音像が整理までは行かないが、ベクトルは若干明確になる。
本盤収録のスタジオ作とは趣きが違う。といっても、他のメンバーはてんでにノイズをばら撒き、収斂へは至らない。
エレキギターのハウリング、人声と思しき変調された揺らぎが複数。ボーカリストが3人いるはずだが、ノイズに埋もれて判別が難しい。高音で呻いてるのがJunko、ときおり吼えるのがコサカイか?
ドラム以外は、エレキギターのハウリング。さらに別の電気的なパワー・ノイズが混ざっていそう。
濃密な展開は欠片も空白が無い。ドローンのように強烈なハーシュが空間を塗りつぶし、ドラムが壁をぶち抜くかのごとく、叩き続ける。グルーヴは嗜好せず、空気を叩きのめすかのよう。まったく混沌ならばノイズに混じるが、ときおりくっきりとパターンを提示する。これが逆にノイズの中で異物となり、轟音の酩酊へ安易に溶けぬ障壁となった。
轟音一辺倒のハーシュに向かわぬ要素として、秋田のドラムがユニークな存在となって聞こえる。
冒頭から力任せの疾走が続き、展開めいたものは無い。9分をすぎた辺りで、ひよひよと細うすべったいノイズが宙を舞う。ドラムは叩き倒すがごとく、手数が増えた。
ぐいぐいと前のめりに向かうパワーに圧倒される。
13分辺りでノイズが大きく左右に揺れ始めた。ドラムが中央でしゃにむに打ち鳴らす。中央のフィルター・ハーシュは轟然と動かない。しかしギターらしきノイズのうねりが野太く、飛翔へ向けて力を溜めた。
助走の苛立ちをスネアの乱打が後押しする。パルスの周期が次第に速まり、恍惚へ。
フィルター・ハーシュは佇み続ける。
ドラムが唐突に消え、ハーシュのみが残る。観客の歓声がいくつか。唐突に音が消え去り、幕。 (2007.7記)