Merzbow Works
ALECEMPIRE VS MERZBOW LIVE CBGB's NYC 1998(2003:DHR)
Recorded at CBGB's 11/4/1998 New York,USA during the
Dital Hardcore Festival
All tracks written and performed by Masami Akita and
Alec Empier
Mixed at AES,Berlin,Germany 2003
Masterd by Steve Rourke at
Abby Road Studios,London,UK
ニューヨークでの98年ライブ音源が、2003年にひょこっとリリースされた。
クレジットを見る限りメルツバウはCD化に際して、口を挟んでいないようす。
ライブ録音はニューヨーク、ミックスはドイツ。で、マスタリングはイギリスのアビー・ロードと、各国を行き来した製作だ。
演奏はたぶん、すべてが即興。
このころのメルツバウは、PCでノイズを作っていた。だが後年のループ多用はまだみたい。豪腕のパワー・ノイズがおもな武器。
明確なビートなインダストリアル・テクノを使うアレックス・エンパイアが、ハーシュなメルツバウと渡り合う。
どちらも個性を曲げないぶん、二人ともハマった瞬間の快感が聴きもの。
きっちりフロア向きな音源になってて面白い。
リズムをくっきり刻むため、メルツバウを聴いてない人にもとっつきやすい盤だろう。
だがメルツバウの根源な個性である「無制限な変貌」の観点だと、アレックスによる規則正しいビートが邪魔くさい。
つまりメルツバウのファンとしては、あまり評価できない。
とはいえ録音加減の絶妙さに舌を巻いた。
後半の迫力もすごい。
ライン録音だと思うが、分離を分かりにくくして臨場感を優先させた。
さあ、でかい音で聴こう。
<全曲紹介>
実際には編集なし、ライブを丸ごと収録した音源と思われる。
が、ポイントごとにくどいほどトラックを分け、全19曲仕立てにした。曲間のブランクは一切なし。
この構成を高く評価する。
CDは全部で"長さ58分"とクレジット(実際は57分51秒)された。
しかし聴くときに毎回、頭からひと繋がりで聴き通すのは、時間に縛られてキツいもの。
細切れに好きなポイントを指定できて嬉しい。
1.The alliance(3:16)
鈍い金属音からハーシュ・ノイズが滲む。いっぽうはビートの利いたドラムン・ベース。
アナウンスと歓声、スクラッチも加わった。
ハーシュはメルツバウ、その他のビートがアレックスか。
だとするとアレックスの要素が強い曲。
メルツバウは比較的にぎやかし役。まずはアレックスに敬意を表したか。
ずしんと響くテクノ・ビートやスクラッチは、どうやって出してるんだろう。
その場でサンプリング操作か、それともDJプレイなのか。
聴こえる歓声も、雰囲気から言ってアレックス手持ちの音源では。
メルツバウのハーシュは埋もれ、ほとんど聴こえない。
2.The destroyer and merzbow(2:24)
アレックスを押しのけメルツバウの轟音が登場。だがアレックスも負けていない。
二人のせめぎあいが聴ける、最初の瞬間だ。
メルツバウは金属音の連打みたいな音だろう。
きっちり踊れるビートに背中をぐいぐい押される、かっこいい瞬間が続く。
その場にいたら重低音が気持ちよかったにちがいない。
リズムは数度ブレイクし、退屈しない。
3.A fire will burn(0:48)
一転して平板なシンセのフレーズ・ループ。
後ろのメルツバウは、ハーシュで空間を埋め尽くす。
ちょっと一息か。あくまでノイズ流で。
4.Nightmare vision(2:08)
メルツバウの電子カーテンが、ばらりと広げられた。
幕があがり、おもむろにアレックスはシンセの刻みで盛り上げる。
なんだか心が沸き立つ瞬間。
5.The full destroyer/merzbow meltdown(4:26)
インダストリアル・テクノの噴出。アレックスがぐいぐい目立つ。
メルツバウは後ろでホワイト・ノイズに悲鳴を上げさせる。
一分くらいたったところで、ひしゃげた電子ビートが猛烈に乱打されるが・・・これはどっちの音だろ。
メルツバウがアレックスのビートをサンプリング、波形加工してるようにも聴こえる。
2分半くらいで攻守の交代。メルツバウがノーリズムで埋め尽くす。
あくまでダンス・ビートにこだわるアレックスと対照的だ。
くるくる表情が変わる、このトラックも楽しい。
6.The white man destroys his own race(2:28)
きっちりしたエイト・ビート。メルツバウはハーシュで隙間を塗った。
埋もれ気味で聴こえづらいが、スクラッチっぽい音をアレックスが出してるんじゃないか。
ここもなんだかインターミッションっぽく感じた。
7.Curse of the golden angel(3:26)
一転してノーリズム。不穏なムードに変わる。
じわっと叩かれるドラム。
ひょいひょい電子音がランダムに顔を覗かせたのち、ビートにまとわりつく。
エレキギターのソロみたい。低音成分は控え、キュートな香りすらも。
スクラッチ・・・よりもゴム風船をこするようなノイズが耳をくすぐった。
最後はふたたびドラムの音が復活する。
きちんとこのトラックだけで、構成を成立させるとこが凄い。
8.The predator(1:49)
シンプルなハーシュノイズが、じわじわと波形編集されて表情を変えた。
変貌する表面を楽しむ曲。
アレックスのビートが邪魔くさい。ロジカルなビートに頼りすぎ。
メルツバウの完全ソロで聴きたいトラックだ。
9.Brooklyn connection(2:11)
4/4だと思うが、アクセントの位置をちょっと変えたビートがポイント。
ちょっとたつと、すぐに普通のエイト・ビートに戻っちゃうが・・・。
太いシンセが浮かび、じわっとメロディを紡ぐ。
こうなるとメルツバウのハーシュが不調和。難しいな。
左チャンネルがアレックス。右チャンネルがメルツバウ。
異なる要素が中央で溶け合うさまを楽しもう。
10.Dawn(1:48)
いったんは平穏。だが10秒と持たず、アレックスはビートを提示した。
我慢しなさいよ、ほんと。
鋭くとがったメルツバウの電子の棘は、シンセの白玉を突き破ろうと試みる。
だがすぐに扁平に・・・。アレックスが低音のホワイトノイズで補完。
11.The slayer calls at night(5:08)
埋め尽くす白っぽいハーシュ・ノイズ。
一打ち、ふた打ち。ゆっくりと打ち込み8ビートが提示され、ハーシュを押しつぶす。
霧のハーシュをかき分け、シンセの鎧がくっきり姿を現した。
ゆったりしたビートでさほど変化なし。
その場で轟音で聴いてたら、おそらく音圧に胸をかきむしったろう。
だけど小さな音で聴くと、ちょっとしたインターミッション気分になる。
呼吸を整え、手駒を確認するようにノイズの断片が顔を出す。
12.Blow this thing(2:13)
タイトルどおりめまぐるしいシンセのパルスが噴出した。アレックス流ハーシュノイズか。
メルツバウが出すのは、たぶん奥で唸る電子音。
後半で飛び出すささやかなシンセのノイズがキュートだ。
メルツバウのノイズへ軽やかにまとわり付いた。
13.606:The number of the beast(1:00)
パルスで出来た言葉で語り合ってるような感じ。
8ビートを奥にセットし、こしょこしょとパルス語が飛び交う。
14.202 lightyears from home(1:18)
空間は拡大した。
広がる滑走路へ数本のサーチライトが、サイレンを引きつれ飛び交う。
実際のステージがどんなライティングだったか知らない。
もしこの瞬間、幾本ものバリ・ライトがフロアをねめまわしてたら、さぞかしかっこよかったろう。
15.Shock treatment for corporate control(2:18)
主導権はメルツバウ・・・いや、アレックスかな。
猛烈なBPMでまくし立て、ハーシュノイズと等速で駆けずり回る。
一分程度立ったところでペースダウン。息を整えた。
かすかな獣の方向。BPMは復活し、爽やかに飛翔。
気持ちいい瞬間だ。
16.Enter the forbidden space(5:31)
タイトルは"禁止された場所へ入る"。
ゆったりしたシンセのアルペジオ。空間のみ提示され、足元も天井も存在は定かでない。
メルツバウは性急なパルス・ノイズで歯軋りした。
シンプルなアルペジオなのに、メルツバウが出すノイズを矮小に魅せるセンスはさすが。
ノイズは身体を細くし、フィルター・ノイズとなってあたりを探索。広さを確認する。
アレックスの音像は変わらないのに、ぐいぐいメルツバウの存在が大きく、重たくなった。
なにやら英語のサンプリング。
もはやノイズはその空間一面を支配してしまった。
矮小化されたのはアレックスのほう。
淡々と同じアルペジオを続けるがゆえに、メルツバウの変化がじっくりわかる好局面。
17.A degenerated nation reacting to fear(2:59)
前曲のアルペジオをかすかに感じさせつつも、実際はメルツバウが主役。
だが過激さはほとんどない。満足したかじわりと表面を変えて見せるだけ。
アレックスはストリングスっぽい音色でノイズを包んだ。
ハリウッド映画のドラマティックな場面が似合いそうな音楽。
18.A degenerated nation reaction to fear pt.2(8:26)
クライマックスが近づき、一曲を長めに取ったか。
ハーシュな音のカーテン前で語りが入る。アレックスの喋りか、サンプリングなのかは、ぼくのヒアリング能力では不明です。ごめん。
震えるシンセ音(女性クラシッカル・コーラスかな?)を左チャンネルに、分厚い低音ストリングスを右に、いったんはメルツバウが中央で暴れる。
しかしストリングスがぐいぐい存在感を増し、前面へ出てきた。
重たくも荘厳なムードで包む。
シンセの音へ、はじける電子ノイズで戦いを挑んでいるかのよう。
だがストリングスのカーテンはなかなか崩れない。
左チャンネルでは演説が淡々と続く。時に変調され、ノイズと混ざった。
ストリングスは次第に熱を帯び、表面をうねらせる。迫力がすさまじい。
映画音楽かマーラーみたいな弦だが、元ネタはなんだろう。
19.Some might even die...(4:08)
ストリングスが完全に音の中心となった。
しゃくる電子リズムも、メルツバウと思しき右チャンネルのノイズも、ストリングスを盛り立てる要因になっている。
淡々とリピートするストリングスの壁がせまりくる。
メルツバウのノイズがはじけた。停滞を良しとせず、いくつかの電子噴出で挑む。
スリリングでかっこいいひととき。
意地を見せて、低音部分はメルツバウが砕ける電子ノイズで埋め尽くした。
アレックスはボリュームを上げて、上空から空気の支配を試みる。
ボリュームを下げるストリングス。メルツバウと対等に音を分け合う。
回転するモーター音が、低音ストリングスをかき混ぜた。
先に静寂を決めたのはメルツバウ。
次第にフェイドアウトし、終わり間際でちょろっと金属の吐息をついた。
(2004.1記)