Merzbow Works
Venereology (1994:Release)
All Decomposed,mixed,produced by Masami
Akita,
Recorded and mixed at ZSF Produkt Studio during Jan-Feb 1994 except "I
Lead You Towards Glorious Times",
"I Lead You Towards Glorious Times" from
live at Yaneura II,5/Feb/1994.
Live supportied by Reiko A-Noise,Bara-Vo
Live
recorded by Mackeral Can Molding Company.
Bass Guitar on End Part of (2) by
Kazuyoshi Kimoto.
タイトルである"Venereology(性病科)"の由来とは、秋田昌美が文章で執拗にこだわる、性への興味の一貫なのか?
ジャケットは表1がミイラみたいな骸骨(模型か?)、裏表紙は口腔を切った人頭断面図のマネキン(たぶん)。
中ジャケにはホルマリン漬けの陰茎と、なんとも医学チックなデザインだ。
ちなみにジャケット・デザインは、写真がAntoine
Bernhart、デザインがAbetectonics、アシスタントにNaomi
Hosokawaとクレジットされている。
つまり、メルツバウは本デザインにかかわっていない。
ノイズ=グロテスク、と短絡的にデザインされたのかも。
秋田はStudio
Voice誌の自作レビューで「SPKもどきの陳腐なジャケ」と無残に切り捨てた。
同誌では「デスメタルがテーマ」とも書く。発売元のレーベル、Releaseはデスメタルで有名なレーベルらしい。
だけどジャケのクレジットで、上記のデザイナーらへ謝辞も載せてる。(なぜかこの盤、謝辞が2種類あるのです)
この謝辞そのものへ、メルツバウは絡んでないのかな?
ちなみに本盤はExtremeが2004年頃に再発。
旧譜があっというまに消えるメルツバウにしては珍しく、店頭で継続的に並んでいた。
ジャケットで珍しいのは、メルツバウが謝辞をのべた点。アルケミーから始まり、さまざまなレーベルやバンドの名前を列挙する。
最後に某レーベルへ四文字言葉を献上する。
「自作を送ってこなかったせいだ」という噂を目にしたことはあるが、真偽のほどはさだかでない。
基本は豪快なハーシュ・ノイズ。
大ボリュームで聴くと印象変わるかもしれないが、家で聴いてたら痛快なノイズ大会の印象を受けた。
ノイズを聴き馴れた耳には取っつきやすいし、凄まじく心地よい。
メルツバウの傑作の一枚だ。
しかし慣れてないと、楽しむまでの敷居は高いだろう。
<全曲紹介>
1.Ananga-Ranga(29:02)
マシンガンのような連打が左チャンネルから打ち鳴らされ、右では強烈なハーシュ。
中央からノイズの風が噴出して、全てを混沌へ突き落とす。
鋭く冷徹に空間を潰した。
タイトルはおそらくインドの性典「愛壇」(アナンガ・ランガ)より。本書は『カーマ・スートラ』と並ぶ、有名な性典だそう。
透き通る電子音が貫き、左右の立ち位置を入れ替えた。
電子の咆哮がいさぎよく吼えては沈み、また浮かび上がる。
ごろごろと中央で激しく転がる。表面がいきなりささくれ立ち、内容物をぶちまける。
タイトルから推測するに、さらに深い意味合いを込めているかもしれない。
激しくはあるが、のちに多用する低音成分が控えめなため、痛快度は高い。
冒頭から一定のテンションを保ち続けるが、10分を過ぎたあたりからマシンガン連打の電子ノイズがビートとなり、ダンサブルさを強める。
もっともすぐさまホワイトノイズで洗い流してしまい、カットアップ的手法を使うのが、変化を好むメルツバウらしい。
次第にどっしりノイズは腰を下ろし、辺りを激しくかき回す音像へ変化した。回転物の中央を眺めているかのよう。
しゅばしゅばと次々にちぎっては投げ、ちぎっては投げ。電子の小さな破片が破裂しては飛び交った。
最後はこれまでの集大成か。次々にこれまでのイメージ・ノイズがカットアップで登場。
いきなり音像が切り替わるとこみると、テープ編集かも。
この頃はアナログ機材でのノイズを作ってるはずだし、瞬間的に音を切り替えづらいと思うが・・。
ノイズは激しいながらも成分をそぎ落とし、エンディングは一つの激しく身を振り絞る電子ノイズが主役。
他の電子音が補填し、舞い上がった。
2. Klo Ken Phantasie (9:21)
タイトルのPhantasieとは、ドイツ語でいうファンタジーのこと。"Klo Ken"は意味を調べきれませんでした。
前曲から前触れなしに、いきなり始まる。
今度は左チャンネルで、鈍い低音が身を潜めつつも存在を主張した。
しょっぱなから威勢のいいハーシュノイズだ。
前曲以上に重心軽く、地を這っては舞い上がる。ころころ変化するからつかみ所が無い。
曲の先頭部分、どこが変化するか掴もうときょろきょろする間に、どんどん演奏は進んでしまう。
ラスト間際でハチの羽音みたいなノイズが左右チャンネルを忙しく動き、回転数を落として次第に低空飛行へ移る。
この音の元素材が、ベースなのかもしれない。
クレジットされているベースのKimotoとは、ルインズの3代目ベーシストのことだろうだろう。
一気に高まって、カットアウト。
3. I Lead You Towards Glorious Times (5:30)
タイトルを直訳すれば「あなたを恍惚の時間へ導こう」かな。見方次第ではエロティックなタイトルだ。
この曲のみ、ライブ・テイク。構成的には、ずいぶん唐突な挿入だ。
渋谷の屋根裏2で94年の2月5日に行われたライブより。えらく短いので、編集済と推測している。
いきなり演奏はクライマックス。ハーシュノイズが覆い尽くし、かすかにデス声っぽい唸りが聞こえる。この声がBARAだろうか。
Reiko-Aとメルツバウが、どうノイズを分け合って演奏してるかは、まったく分からない。この頃のライブを一度経験してみたかった。
音像は比較的シンプル。ひたむきにハーシュが唸る中、デス声がノー・ビートで吼える。
たまにハム音などの合いの手が入るようだ。
音素材自身が、実にクリアな録音。前後のスタジオ録音作品と比較しても、明度に遜色ない。わずかにこの曲のみ、痩せて聴こえるけれど・・・。
録音クレジットはMackeral
Can Molding Companyとある。どの会社か知らないが、もしかしたら当初から発表を前提として、きっちり録音していたのかも。
マックを使い、たった一人でライブをする時代と比較したら、ずいぶん肉体的な演奏だ。
声が断続的に聴こえる。耳を澄ますと、ノイズの構成要素は多彩なのが分かる。
高音のハーシュ・ノイズをドローンのように提示し、その奥でいくつかの音素材を入れ替えているようだ。
テープは唐突に切り取られ、次の曲へ繋がる。この曲だけの、全尺版を聴いてみたい。
4. Slave New Desart (6:22)
なんだか痩せたノイズのカットアップから。すぐにペースを掴み、ハーシュへ身を変える。
ベース部分がループし、重層さをわずか見せた。後年のループを多用するメルツバウの萌芽を見る・・・と決め付けるのは性急だろうか。
テープ・ループで無常観を出したかったのかも。
唐突に(3)で聴ける、男の叫びがサンプリング気味に挿入される。
本盤の中で、もっともビートの感触が明確な作品。
カットアップがひっきりなしにあるので、つんのめるスリルを感じた。
エンディング間際、ホワイトノイズを幾度も押し付け、次第にテンポを上げる。
ロック・ショーのクライマックスを演出するかのようで、面白かった。
本当のエンディングは、電子音のパルスが登場。(1)の冒頭と違って、ずいぶん身体が軽い。
咆哮の片鱗だけ見せつけ、強引に音源は終わる。
(2005.1記)