Merzbow Works

UKAWANIMATION! (2008:avex trax)

 さまざまな肩書で現代映像美術の価値擾乱をはかってきた宇川直宏が、08年に発売したソロ。なおDommune開局はこの2年後だ。今から遡って本盤を聴くとDommnueの原型が内包してるように感じる。当時はあいにく本盤の存在を知らず、価値や位置づけは不明だ。
 メルツバウ史の観点でも、エポック・メイキングになりうる盤かもしれない。

 本盤は後述の通りさまざまな、前衛ミュージシャンへ宇川が楽曲コンセプトを伝え音楽化したもの。僕はCDのみの盤で聴いたが、DVDつきの盤もある。そちらは楽曲ごとに宇川のPVが付されている。
 ここでDommuneへの萌芽を見たのは(1)幅広く、前衛な人々のオーガナイズ、(2)クラブ・ミュージックへの傾倒。音楽構造にどこまで宇川の口が入っているかは、正直よくわからない。各曲で捧げられたキーワードの選択基準も、はっきり言って不明だ。
 だが刺激的なアイディアを斬新な人々の才能を駆使し、形にするオーガナイズの才能ははっきりと表れている。

 本盤は顔ぶれもそうだが、実際のサウンドもクラブ寄り。生演奏ももちろんあるが、ダンサブルなビートが続く。本質的に、宇川はこの手のサウンドが好きなのかな。Dommuneの第二部で各界のクラブ・ミュージックを執拗に流し続ける宇川らしいアプローチと考える。

 メルツバウ史で重要なのが「宇川の関与度合い」。この3曲目に収録された楽曲は、一年後にメルツバウはアルバム化する。しかも13枚の月刊シリーズとして。そう、"13 Japanese Birds"。月間日本の鳥シリーズだ。本盤収録曲は本シリーズの1作目に再収録された。

 すると、愕然とする。宇川は本盤を「コンセプトをミュージシャンに伝え」音盤化した。メルツバウが本盤で取り入れたのは"日本の鳥"であり、"ドラムとノイズの融合"だった。
 メルツバウは"13 Japanese Birds"を代表として、それまでのPCラップトップ路線からドラムとの融合、さらにアナログ楽器回帰を果たす。この大きな方針変更のきっかけが宇川のアイディアによるものだったのか。メルツバウ至上主義の立場としては、たまたまメルツバウが温めていたアイディアへ、宇川が載ったと信じたい。しかし、真実は・・・?
 もしかしたら宇川はテン年代のメルツバウを示唆した水先案内人なのか・・・?

<曲紹介>
3.  feat. MERZBOW【羽毛に纏わる水滴無限循環】 Dedicated to アヒル (Duck)

 メルツバウの(3)については、別盤に書いた感想リンクを貼ることにする。全く同じテイクみたいだし。
 アルバム"Suzume: 13 Japanese Birds Pt. 1" (2009:Important records)の三曲目、"Tori Uta"が本盤に収録の曲だ。


 本盤の収録曲と参加ミュージシャンは以下の通り。11曲入りだが48分程度とコンパクトな仕上がり。(6)、(8)、(9)は1分程度の短いトラックだ。けれどもミニマルなテクノを中心に、ダンサブルな音楽が続く本盤の内容は悪くない。バブリーなアイディアの奔流を楽しもう。

[収録曲]
1.  feat. 石野卓球 x 萩原健一【惑星のポートレイト 5億万画素】 Dedicated to カメラ (Camera)
2.  feat. DAZZ Y DJ NOBU【千葉八街のリアルアンダーグラウンド落花生栽培】 Dedicated to 落花生 (Peanut)
3.  feat. MERZBOW【羽毛に纏わる水滴無限循環】 Dedicated to アヒル (Duck)
4.  feat. JONTE x TOBY【開いた身体は白い列島】 Dedicated to ウナギ (Eel)
5.  feat. ALTZ【溺れながらの光合成実験】 Dedicated to 酸素 (Oxygen)
6.  feat. HANATARASH【偏西風の次第♯1】
7.  feat. STRINGRAPHY【Strings of Life】 Dedicated to弦 ( String )
8.  feat. ABRAHAM CROSS【盗まれた平衡感覚】 Dedicated 飼い主のいない猫 ( Stray Cat )
9.  feat. HANATARASH【貿易風の次第♯2】
10.  feat. MEG x iLL【秘境の奥の虫歯の記憶/持ち主はユリ・ゲラー】 Dedicated to スプーン (Spoon)
11.  feat. 田中フミヤ【57杯目のブラッディー・メアリー】 Dedicated to ウォッカ ( Vodka )

   (2015/9:記)

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