Merzbow Works
Tulpas(1997:Selektion)
この盤はRLWのソロアルバムなのか?ネットで調べても、よくわからなかった。
RALF
WEHOWSKYことRLWは80年代に"P16.D4"というバンドを結成した。
同時期に本レーベルSELEKTIONを立ち上げ、活動をつづけているようだ。レーベルHPはここ。
本盤はRLWの音源をリミックスしたアルバムかもしれない。多数のミュージシャンを招いた、コンピの形式を取った。
RLWはドイツのミュージシャンらしいが、招かれた人間は欧、米、日とさまざま。日本からはメルツバウだけでなく、AubeやM.
Sato、R. Ikedaなども参加した。
音響系のミュージシャンだと思うが、名前は知らない人ばかり。J.
O'Rourkeくらいか、ぼくの知識だと。
いちおう参加ミュージシャンの記載を引用しておこうか。
Action Concret (UK), Artificial Memory Trace (B), Aube (J), Baraka[H] (D), M. Behrens (D), Brume (F), M. Buesser (D), Contrastate (UK), Crawl Unit (USA), P. Duimelinks & R. Meelkop (NL), J. Duncan (NL), W. Durand (D), M. Gendrau (Crawling w. Tarts) (USA), D. Grubbs (USA), Ch. Heemann (D), Husk (UK), Idea Fire Company (USA), R. Ikeda (J), In Be Tween Noise (USA), A Jasenka (LT), R. Kundrotas (LT), K. Kusafuka (J), E. Lanzillotta (USA), F. Lopez (E), L. Marchetti & J. Noetinger (F), K. Marutani (J), Meeuw (NL), Merzbow (J), B. Moreigne (F), N.N. und aehnliche elemente (D), NMF (B), J. O'Rourke (USA), Rehberg & Bauer (A), Runzelstirn & Gurgelstock (CH), B. Russel (NZ), M. Sato (J), J. Smolders (NL), J.P.E.R. Sonntag (D), Ch. Steiger (D), Das Synthetische Mischgewebe (F/D), toy.bizarre (F), J. Thomasius (D), A. Tietchens (D), G. Toniutti (I), E. den Uijl (NL), F. de Waard (NL), J. Watermann (Aus), A. Wollscheid (D)
多数のミュージシャンが参加する、5枚組の大作。
それぞれのCDに抽象マークがつけられ、それぞれテーマを持たせた。
本の形式を取った特殊ジャケは、英語のブックレット付き。
一ページだけ乱丁があり、正誤表付なのはご愛嬌。
なかにRLWが本盤に寄せた言葉がある。引用してみよう。
『Tulpasは1995年の半ばに着手され、1997年の中ごろに完成した。CD(1)が独特な作品"Nameless
Victims"の解釈を七つ収録。CD(2)はRLWの普通のアイディアへ委ねられた。
CD(3)では自分の作品からいくつか実際の様子を示した。その上でCD(4)に初期RLWの重要な作品を集めている。
そしてCD(5)はコンセプトっぽくするのをやめた。すでに他の作品やアイディアが引き出しの中にあったことは、言うまでもない』
つまり(1)は変奏曲集。他のミュージシャンに解釈を委ねた様子。CD(2)は即興集かな。
RLWも演奏に参加していたとしても、作品の名義は各ミュージシャンに割り振られた。
(3)と(4)も各ミュージシャンの名義。ジム・オルークは(4)に収録された。
全体を俯瞰すると、電子音楽寄りのノイズ。轟音のカタルシスよりも抽象性を意識した、かなりストイックなノイズが多い。聴いててくたびれる。
作ってる本人は面白いかもしれないが、ビートも構成もなく、淡々と進むのは辛い。
電子音楽好きでないと、5枚組を聴きとおすのはパワーが必要かも。
なかで面白かったのはCD−3。電子音がキラキラ響き、心地よい瞬間が幾度もあった。
メルツバウは(5)に収録。ここではメルツバウのみ触れます。
<曲紹介>
5−(4)"Kleine Blaue Hybriden"(7:41)
Recorded and Mixed at zsf produkt studio,26 September 1996
RLWの初期作品"Acht"(1992)に収録された同曲をリミックスしたものだと思う。
ネットで調べたところによると、原曲はエレクトリック・ギタートリオによる即興のようだ。CD評によると、静かなノイズ作品らしい。
RLWはハーモニウムやサンプリングなど、味付けを担当した。
オリジナルは未聴のため、聴き比べは出来ない。申し訳ないです。
メルツバウは自宅スタジオにて、一日で曲を完成させた。
ジリジリ唸る電子音がイントロ。カットアップ気味に世界が細かく変わる。
もどかしげに身体を揺らし、ノイズが膨らんだ。
ハーシュの文脈で作品を作っているが、どこか重心が軽い。遠慮気味と言おうか。
ひとしきりぶるぶる炸裂したあと、低音を軽く響かせ場面転換した。
めまぐるしく変わる音像は、本盤の中だと新鮮だ。
喧しめのノイズを集めたCD−5だが、中でもメルツバウのノイズはひときわ目立つ。
世界は空虚な響きを漂わす。意地のように地から沸き出すハーシュな存在。
軽く左右チャンネルをパンし、身体を絞り込んだ。
カタルシスを予感させても、けして昇華しない。
目先がくるくる変わって興味深いが、どこか不完全燃焼のところもあるノイズ。
いっそ時間をかけて、じっくりメルツバウに作りこんで欲しかった。
最後はエコーを効かせた地響きを数発。
轟音よりもノイズの変化を楽しむ一曲か。
(2004.12記)