Merzbow Works
Tranz <Caminante Recordings.2005>
MARES1 and MARES2 composed by Masami
Akita
Recorded and remixed at bedroom ,Tokyo 2004
ESRMA1 and ESRMA2 composed by Elliott
Sharp
Recorded and remixed at Studio Z0aR, NYC 2004
mixed and mastered at Studio Z0aR,
NYアンダーグラウンドの奇才、エリオット・シャープとの共演盤。各種のユニットをまたにかけるシャープだが、ぼくの知る限りメルツバウとの共演は本盤が初めて。
発売に至った経緯も不明。どなたか詳しい人、ご教示ください。
対等な関係でのコラボ作品なので、もしかしたらレーベル主体の企画かも。クレジットでは最終マスタリングは、シャープ側で行ったことを伺わせる。
全4曲入りで、"ESRMA"、"MARES"と互いの頭文字をとった曲を2曲づつ収録した。
文頭の頭文字が作品の主導権を持ち、相方が作品素材を提供する。受け取った側は作品にまとめ、リミックスをほどこす手法だ。
ジャケットのどこにも曲目クレジットは無い。デジパック仕立てのジャケットに4枚のカードが挟まれ、それぞれに曲名と分数が記載された。カードと実際の分数を見比べるしか、曲名を判別するすべは無い。
じわじわとうろつくノイズが身上。もちろんハーシュっぽい箇所もあるが。
二人のコラボにしてはあまりに机上過ぎるきらいあり。シャープがもっと肉体的なアプローチをとったら、違う世界が見えただろう。
さらなる次を期待したくなった盤。
<全曲紹介>
1.MARES1(12:22)
エリオット・シャープの素材を元にメルツバウが作曲した。おそらく素材をマックへ取り込み、波形処理したと思う。
じわりじわりとノイズが左右で微妙にズレながらはじけて、やがてハーシュの表情を見せて育ってく。
元の素材をどうやって作ったのか。ここでは馴染みのメルツバウらしい作品に仕上がった。
ループを多用し緩やかに表情が変貌、重層的にノイズが絡み合う。エレキギターと思しきサンプリングも左チャンネルで聞こえる。
なんだか既聴感を覚えた。メルツバウが過去の作品で使ったサンプリングを、ひょっとしたら混ぜているかも。
豪快なハーシュを期待すると当て外れ。中央をぽかっと開け、左右でうねりが玄妙に揺らいでは漂う。
5分半を経過したところで、確かに中央でハーシュは炸裂した。
轟音で聴いていたら、カタルシスは確かにある。
しかしメルツバウお得意の、めくるめくノイズ万華鏡の痛快さは控えめ。
聴き応えは確かにある。そして本盤でこの曲がもっともメルツバウらしい作品だ。
本盤の魅力から最も遠い位置にある曲ともいえるが・・・コラボの意味合いを極力薄め、メルツバウがやりたいようにやった一曲ではないか。
ざらつくノイズの肌触りは、じっくり聴くと気持ちいい。
8分50秒あたりで一旦世界がカットアウトされ、砂塵から静かな水中へ沈没する。
切り替わる瞬間のスリルが、さりげなくもかっこよかった。
10分半あたりでふたたび砂塵の世界へ吸い上げられた。
音像そのものも奥底へ潰され、ぐうっと前へ浮かぶ。
エンディング間際は、物悲しいほどに極端な音像を振らせるミックスを行った。
2.ESRMA1(8:51)
シャープはメルツバウの素材をあっけらかんと宙へ投げた。
前曲から違和感なく、するりと世界が繋がる。
これこそどうやって曲を作ったかさっぱり。ラップトップ奏者でなく、プレイヤーとしてのイメージが強いシャープだが・・・。
楽器のオーバー・ダビングはなく、あくまでPC上でノイズを操作したかのサウンドに仕上げた。
前曲でも聴けた水の泡立つようなノイズは、ここでも使用される。
ハーシュとしてのカタルシスをシャープは求めてなさそう。
あくまでぶくぶくと作品を泡立ち沸騰させ、とろ火で温度を保持した。
極端なほどダイナミクスを揺らした。
轟音を追求せず、音響派のアプローチが目立つ。
メロディも無い。テンポも無い。展開はあれど物語性はない。文字通りの即興っぽい場面が淡々と続く。
小さめの音で流していると、だんだん眠気を誘われる。
最後の数分で、猛烈にエフェクト処理されたエレキギターと思しき音色も登場する。
そうとうに単調だが、曲としての聴き応えはこのあたりか。最後になって、やっと面白そうになる。
3.MARES(10:40)
前曲とカットアウト気味に切り替わった本作は、メルツバウが主導したもの。
前の音像と関係がさっぱり無い。秋田が先に全ての音素材を作ったっぽい。
じりじり底面を焦がすスリルと、ときおり吹き出す電子音。シンプルながら緊張感ある。
メルツバウ流の作品だが、素材の感触がやはり違う。どこか瑞々しい。その点で、もっともコラボが成功した作品だと思った。
曲が短めで惜しい。せめてこの倍。長けりゃいいってもんじゃないが、じっくり聴きたかった。
ハーシュにこだわらず、前曲の不安定さを踏襲するかのごとく音楽は進む。
ぐらりぐらりと噴出しては場面を交換、すっきりした音選びで不安を演出した。
スピーカーを埋め尽くす濃密さは無い。ぶちぶち漂うノイズは隙間を多く見せ、とっつく足がかりをいくつも準備した。
ラスト3分近辺で漂うエレキギターの音は、あきらかに生演奏。シャープの演奏をそのままミックスしたのか。
エンディングではぐぐぐっと音を減らし、奥行き深さを見せた。
あまりに空白の多い演出は、聞いていて不安すら覚える。
メルツバウは自分の美学を貫き、冷徹な世界を提示した。時に漂う電子音が寄り所か。
ハーシュが一旦はじけるも、すぐに影を潜める。
泡立つ火山の見学口を用意し、手早く彼らは覗き込んだ。
奥でなにかが溢れては浮かぶ。表面をざらつかせて漂った。
4.ESRMA(15:08)
極低音が十数秒じわり漂い、唐突にメタリックなノイズがランダムに吹き出す。感触はメルツバウに近い。
より生々しくぬめった鉄感覚の音を使うのが、シャープ流か。メルツバウだと、もっと抽象的な響きが多いから。
ループを使ったようだが、ランダムな要素が強い。ざらついた金属の表面をこすりあげ、軋ませる。大ボリュームで聴いたら、歯の奥がくすぐったくなるかも。
いっぽう2分45秒あたり。ざらりと滑らせる刃のような響きが心地よい。
リズムはない。いくつかノイズが重層するも、音の表面がすっきりしてるので、見通しよく聴ける。メルツバウの音素材ってイメージが聴くほどにひしひしきた。波形をいじって過激にしたら、あのハーシュになるのかな。
エレキギターとおぼしき響きも加わった。無造作にギターをかき鳴らし、爪弾く。
ノイズ素材となめらかに混ざらせるセンスはさすが。
パーカッションの連打。かぶさる原型ハーシュ。世界がぐるぐると回った。
ゆらいだ大地よりわずか浮かび、巨体を震わせて前進する。空気をなぎ倒し、濃密なモヤをかきわけて。
ストーリー性は気迫で、淡々と音が移り変わる。
低音も高音成分もある。波形をリアルタイムでいじったか、音の質感がみるみる変わって面白かった。
中央で蠢く不定形のノイズが9分28秒や10分40秒あたりで、うにょっとスピーカー前面へ押し寄せた。唐突にノイズ世界を共有するような違和感は、得がたい体験だ。
身を捩じらせ、中央でナメクジを思わせる音像が、ゆっくりうねっては回転する。
周りでちりちりと電子ノイズがまたたいた。
身体が融けてのぺっと地平へ同一化する。表面が泡立つ。奥行きが見えてきた。
ハーシュの幕が中空から現れ、世界を覆ってゆく。ぎりぎり唸る幕を下ろすチェーン。
ボリュームがさがった。ノイズたちの退場。ハムノイズだけが残り、わずかに響いた。 (2005.5記)