Merzbow Works
Timehunter <2003 Ant-Zen>
Recorded and mixed by masami akita at bedroom ,tokyo,2002
ドイツのレーベルからリリースされた本作は、3インチCDの4枚組。"Duktus"とクレジットされたシステム手帳をジャケットに採用した。
凝ったデザインだし、大量リリースされたとは考えづらい。見かけたら購入をお薦めします。
中には2003年3月から一年分強のカレンダー付き。ところどころの日に本収録曲の時間が書かれているが、どういう意味かは不明。録音は全て2002年のため。
日本のバンドのためか、曲目クレジットは日本語でも書かれてる。
レーベルのプレスキットによれば、本作は70年代のハードロック(?)に影響されたビートを解体したことと、さらにギターのドローンをビート解体し盛り込もうとしたそう。
バンド名としてオメガ、ゴールデン・イヤリング、スポンティニアス・コンビューション、アラモなどを上げている。勉強不足で筆者は、残念ながらどれも未聴。恥ずかしながらバンド名すら初耳だった。
ビートを強調した作品が多く、かつ曲も長尺過ぎない。バラエティに富んだ作風で、聴きやすいイメージも受けた。手馴れてる、という気も。
ハーシュが炸裂するが、ビートのループと上手く溶け合ってるせいかも。
<全曲紹介>
1−1.warhorse(21:17)
最初のCDは1曲のみ。邦題は"軍馬"。システム手帳には3/1が記念日として当てられた。豪快なハーシュではなく、のっぺりとノイズが霞む。
じわっとした脈動に、歪んだギターのフレーズ断片が互いにループする。背後からハーシュの壁がそそり立ち、沈んだ。
基本はループを置き、幾つかの素材を重ねては消してゆく。沈鬱なムードが漂うが、ビートは意外に軽快。重たさを廃して、はじけた。
低音はぬめり、高音成分が微塵と吹き寄せた。時間経過と共に音は変わっていくが、ストーリー性は希薄だ。粉にまみれた不定形の物質をぐるぐると観察するかのよう。みっちりと高音が詰まり、息苦しい。
8分50秒あたりで、突然に音像が変わる。低音の脈動へ瞬時に切り替えられ、針音のループ。寸前の軋む電子音のループが復活するも、ドラムが生音(実際にはループ)に近くなり、音色へふくらみが増した。
ビートは常に一定。だからこそ淡々と感じるのかも。軋むループはときおり音色を変え、力なく垂れ下がった。
ちりちりと漂う高音。ドラムやギターのノイズは表情を変えて執拗に現れては消えた。軋むノイズは加速する。ビート感は維持されるが、ダンサブルさは皆無だ。かといってインダストリアル・ノイズほどの切迫感もない。
ひどくストイックな作品だ。脳みその歯軋りをイメージした。最後はフェイドアウトしてゆく。
2−1.space trackin (10:04)
邦題は"宇宙追跡"。6/11が指定された。
空気がひとつ、沸いた。膨らんでは瞬時にしぼむ。中央で空白をたっぷり引き連れて。
音素材は次第に多くなり、針音のループからハーシュへ変貌した。なかなか轟音へ行かない。フィルター・ノイズが現れても、どこか遠慮深げ。中央の静かで着実なビートを主体に起き、さぐるように左右チャンネルから侵食を目指した。
コミカルなビートが風変わり。中央で点滅する明かりの周りで、火花が散る。線香花火の中央だろうか。
ビートの素材は太く、底光りする。周辺のちらつきはエレキギターのサンプリングかもしれない。
これもストーリー性は無く、展開は淡々と行われる。
"追跡"の言葉から連想するスピード感は無い。微妙にせわしい周辺のエレクトロ・ノイズだが、中央はあくまで淡々と明滅した。小刻みな震えを飾りにまとって。
9分20秒あたりで、ぐっとリズムはコミカルさを増す。軽快なステップの背後で、ベースのループ。ハードさは希薄ながら、これに低音やノイズを足したら、たしかにハード・ロックになるかもしれない。
2−2.ramatam(8:40)
10/3が指定された。邦題はそのまま"ラマタム"。何語だろう。
足元を覆う、濃いノイズの霧。奥では唸りと高音の残骸だけ残されたドラム・ビートがループした。
きっちりしたエイト・ビートだが、爽快さは無い。あくまで残骸のみなので、壊れたリズム・ボックスのよう。ひよひよと漂う電子ノイズや唸る音は、どこか非現実感をあおる。
きしきしと超高音が漂い、ドラムのビートはシンバルと見まがうばかりに削がれた。
5分を過ぎるとハーシュが現れる。ループっぽい音だが、わずかにランダム性あり。爽快さまで至らないが、決まりきったノイズに食傷気味なため嬉しくなる。
後ろではきっちりとドラム・ビートが続く。ベースのループを伴って。くっきりしたエレクトロ・ノイズが目前で暴れても。この頑固さは、たしかにハード・ロックも連想した。
最後はビートのみが残り、シンセのふくらみに融けて消えた。
3−1.conga(3:26)
2003年12月3日を指定。邦題はそのまま"コンガ"。
せわしないエレクトロ・ハーシュを前触れに、ループとおぼしきパーカッションが闇雲に鳴る。低音と上モノ、2種類の楽器かな。アフリカンな印象だ。
ときおりリズムがつんのめったり、ブレイクが入ったりと細かく配慮している。
音色も次第にフィルター処理され、ひずんでいった。
ハーシュはさほど変化無く、ときおり軋んだ高音周波数がふらつくのみ。
むしろビートを強調し、頭からまっすぐに突っ込む。
3−2.stone the
crow(9:02)
ゴングをフィルター処理し、さらに極低音をエレキ・ベース風に重ねた。
いわゆるハード・ロックのイメージが漂う。
音色は次第にゆがみ、ふやけ、崩れていく。キシキシと高音のみが強調され、表面のみ尖った。
大きな曲調の変化は無い。音色と強調される音域が次第に変化してゆく。
終盤ではハーシュがすっかり前に出て、空気をざらつかせてわめいた。
最後に冒頭の音形が現れるが、すっかり低音を抜かれ、亡霊のように立ち尽くした。
終り間際のふらつくサイケな感触にぞくっと来る。
邦題は"ストーン・ザ・クロウ"。2004年3月11日を指定。
4−1CD hunter(18:01)
邦題はそのまま"CDハンター"。04年4月30日があてがわれた。
ループを基本に音が揺らめく。王道路線のアレンジだ。だが、小刻みにころころ弾むキュートな電子音が、一味をトッピングした。
基本路線は変わらず、次第にホワイト・ノイズ系の音が、フィルター系と捩られて主役となった。
音色は変わるが、構成が大きく変わることはない。ひたすら淡々とノイズが続く。
リズムが脈打ち、規則正しいパルスが表面加工して羅列された。どこか寂しげな雰囲気も。CDマニアを皮肉っているのだろうか。
終盤でぐっと音が抜かれ、静かな蠢きと探索する動きのみに絞られる。わずかに沸き立つノイズ。
次第に音数が増えていくも炸裂にいたらず、そのまま消え去った。 (2007.7記)