Merzbow Works

Termeric (Blossoming noise:2006)

All music by Masami Akita
Recorded & mixed at Bedroom,Tokyo nov-dec 2005
 
Instruments:MAX4/MSP2,VCT plugin,Reaktor 2.0 & 4,Peah 2.1 TDM,Hyperengine 2.3.1,Hyoerengine-A 1.5,EMS synthi'A',Small tin box,Piezoelectric mic,Duch call,Surrounded objects & effects

Percussion by Victoria

 発売当初は久しぶりに単独名義のスタジオ作、という印象だった。ライブ盤や競演盤が続いたため。
 4枚組のボリュームで、シングルCDのついた限定版も発売。それは100セット限定でTシャツやポストカードなども封入した。日本に輸入もあったが、あっというまに売り切れ。日本に入ったのは10セットのみ、な噂もあり。ちなみに筆者は未所持。
 なお限定版に同梱のシングルCDは、"Black Bone Part.5"と題され、単体でものちに発売された。

 演奏クレジットの冒頭に続く単語は、ソフト名か。しかしループの加工にこだわらず。アナログ・シンセやマイクも使い、じわじわとデジタル一辺倒の作風から移行する過程の作品な感あり。
 なおパーカッションでVictoriaなる人のクレジットも。誰だろう。

 各盤は色分けされ、微妙にアングルを変えた鶏の迫力ある写真を、CD盤面に印刷した。
 ハーシュを基調ながら、Disc-3では空虚で隙間の多い作品をあっけらかんと提示。
 録音当時のアイディアをぎっしり詰め込んだ、ストイックな重箱の強靭な作品。こだわりから脱却するかのごとく、冷静にノイズと向き合った。ニヒリズムも仄見える。

 初心者には向かないかも。メルツバウの一里塚的な位置づけと捉えている。

<全曲紹介> 

"Orange"
1.Black Flesh PT.1 (3:48)

 複数のニワトリたちが鳴く。そこへ強烈なハーシュ・ノイズとメタリック・パーカッションの打音がかぶさり、強烈に炸裂した。鳴き声は機械の叫びと重なって溶ける。ビート感は希薄に。
 轟音一辺倒ではなく、ときおり静寂も挿入。ちりちりと唸る音は鳥の鳴き声を模したのか。太いシンセがゴムのようにうねり、ふくらんだ。
 
 みりみりと存在感を増し、ニワトリのつぶやきがBGMに。一気にスピードを増して迫る。中空へ浮かび、漂った。拡がる電子音。
 ふっと空虚に消え、消えた。

2.Black Flesh PT.1 (9:46)

  低音成分をたっぷりまぶして回転する。モーターが激しくよじれ、すりつぶした。砕片が飛び散っては辺りへ撒き散らす。中央をしっかり確保し、ボディはぶれない。迫力は増えて硬いものまで軋みを含ませて地へ押し付ける。
 金属のベールがあたりにかぶさった。

 シンセの音がハーシュと混ざって回転を続ける。速度は微妙に変わりつつもためらいは無い。
 音像は単一のモチーフだがよどみなく変化を続ける。周辺にまとわりつく高音部のきらめきは、鳥の声も電子加工しているのだろうか。

 4分半をすぎる頃にパーカッションがわずか参加し、いったん場面が変る。回転は低く停滞してぎざぎざといくつものハーシュが屹立する。ランダムに、シンセの細い響きを巻きつけて。
 
 いっときの息継ぎ。さらに豪腕へ掴みなおし、回転を利用して振り上げる。高く。高く。
 真上から滑り落ちた。がらがらと細かな物質を薙ぎ、柔らかなシンセの物体へ突き立った。中へ向い、力任せに頭を押し付け、回転する。
 低音。高音。方法論を試行錯誤し、あくまでも真っ直ぐに。力尽きたか、最後はじわり回転を落とした。金切り声を残して。

 複数の音源をミックスしているが、情報量は少なめ。すっきりと整理し、一つ一つのノイズを吟味するかのよう。

3.Black Flesh PT.3 (19:35)

 機械の唸りをループに、スクラッチ・ノイズをいくつか振りかけた。不穏に低音が繰り返され、緊迫を作る。物を動かす音。じわり、寄った。
 メタル・パーカッションの乱打をサンプリングして電子加工か。ランダムに小さな破裂がそこかしこで発生し、左右で飛び散る。バリバリとくちばしを大きく開けて咀嚼する。

 太いシンセがまたしても登場。いったんは全てを消して存在する。参入を伺うノイズも意に介さず。タイミングをうかがったノイズが、襲い掛かった。しかし遠慮がち。くるりと周りを探り、ときおり齧り付く。
 シンセはいつしかそぎ落とされ、鼓動のみが残った。えぐったノイズは低くざぎざぎと震えた。

 いつの間にかアップテンポのビートが明確に成立。4つ打ちテクノに酷似したリズム。
 おもむろに挿入されるハーシュとシンセの混交が快感だ。
 前のめりに押し寄せ、体を押し付ける。
 メロディは特にないものの、シンセの微妙な音程の動きが架空の旋律となる。
 
 8分あたりでBPMはわずかに落ちた。四方八方からハーシュの滝が降り注ぎ、ぶいぶい低音シンセが唸る。きらめく高音との対比が美しい。
 上モノの動きで退屈はしないが、音構造は特に変らず続くパターンだと気づいた。

 超高音が低音をえぐり、立ち位置の主役を奪還しようと狙う。半々の力配分で交錯。
 フィルター・ノイズがいつのまにか空間へ潜った。小宇宙を形成。
 複数のハーシュがきらめき、低音が脈動を力強く続ける。この時代のメルツバウらしい、リズムを内包したパワー・ノイズだ。フロアで聴いたら凄そう。

 14分あたりで均衡が崩れ、ハーシュのランダム性が軸足をぶらせる。
 いまだ低音は残っているが、意に介さず表面をえぐり、爪を立てた。皮膚は削られ、削がれる。滲む電子のしたたり。
 元はアナログ・シンセが音源だろうか。ハウリングの高音をかぶせつつ、唸りは肉体の影が見える。

 時間は19分ほど。全体を通し、異様なポップ感ある曲だ。
 ラストでは4つ打ちテクノのイメージが、復活した。エンディングでは、小刻みに雪崩れる。ロックのエンディングでギタリストが弾きまくるように。

4.Black Flesh PT.4 (17:15)

 リズミカルなハーシュが下から突き上げ、上から波が襲い掛かる。野太い咆哮が中央に立ち、左右の壁を波打たせた。
 常にビートを保たせて、音構造をカット・アップする。テクノを流すDJのセンスに通じるものを感じた。ぐいぐい押すリズムがダンサブル。
 フィルター・ノイズの規則性が酩酊を誘い、数分たつとアナログ・シンセっぽい泡立ちから粒の奔流へ向かう。

 豪腕なノイズが継続し、次第に分厚い音壁に慣れてくる。そこで雰囲気を振動させるのが、アナログの貫き。超高音で劈く鋭さにしびれた。
 耳を軋ます電子音は無機質かつランダムに震える。
 
 地響きの低音。左右で飛び交うアナログ・シンセ。ひよひよと中空を漂うフィルター・ノイズの鳴き声。
 世界がしだいに活き活き変わる。冒頭からのリズムは薄っぺらい響きながら継続し、脈動が生命力に通じた。
 一面を振りまく力強い震えが構築し、破壊音と手を組んだ。
 やがてフィルター・ノイズが上空高く、密度を増し存在。それは、鳥の大群と見まがう爽快さを提示した。

 いったんスケールを縮小し、足元へ。薄いビートは依然と続く。
 ハーシュの轟きは足元の雛たちへ。強烈な生命力をアピールした。地を沸き立たせ、ノイズの囀りは多様化する。
 すっきりと整理しビートのみにでも、それはただの一休み。次の瞬間、電子の囀りが炸裂。心なしか、体が大きくなっていそう。淘汰されたか、数は減っているようだ。
 より明確な鳴き声も聴こえる。
 もしかしたら、実際の鳥の囀りをミックスしているのかも。リズムを足蹴に、鳴き声が激しくなる。ポリリズミックな世界へ向かった。
 幕を下ろすように、上から平たいノイズが一枚。鳴き声が激しくなる。

 そして唐突にパーカッションが複数。余韻を残し、ふいっと終わった。

"Green"
1.Black Bone PT.1 (18:23)

 野太いシンセのループ。おもむろにハーシュが2本、両チャンネルで歩調を合わせて登場した。スポットライトが中央へあたり、ショーの幕があがる。軽やかなシンセがまっすぐに動き、きらめいた。足元がざわざわと毛羽立つ。

 ループの規則性は意識したまま、上物が変化。ここでは爽快さすら感じさせるほど。アナログ・シンセの太い響きを効果的に使い、ハーシュと巧みに混ぜた。
 繰り返しによるビートは明確にあるが、リズムではなくパターンで使用。あくまで主体はアナログのランダム性ではないか。
 前半で聴ける、ゴムの表面をこするような蠢きが興味深い。

 メルツバウの得意技である多層構造はきっちり使い、うねりを持たせて変化さす。
 改めて感じたが、多くの音素材を使って、個々の素材を活き活き際立たせるのがデジタルならではだろうか。

 収斂して野太く中央で回転。みるみる高速に。やがて力尽きるかのごとく失速するも、あがいては再回転した。よぶんな音を消し去り、自らの音に集中する。
 タイトルにあるごとく、骨の表面を表現か。鈍く太く唸って回転するが、連続はしない。スターター部分で足踏みだ。

 次第に安定し、凄みを増してゆく。音要素も増えてきた。
 つっかえつっかえながら、前進。ここで鳥の鳴き声を模したノイズがいくつかかぶさる。骨が肉をまとい命を入手、前へ進むさまか。しかしどこか、寂しさを感じる響き。
 波のようにノイズが流れては帰ってゆく。多数の囀りを載せて。

2.Black Bone PT.2 (15:17)

 呟きが歯軋りのごとく切り裂かれ、中央からミリミリと広がった。細切れの脈動が極小ビートで戦慄く。展開は控えめに淡々と。軋みが苦しくよじれた。
 高音が震える。じわっと低めの響きが浮かんでは沈む。モーターがゆっくりと動き出した。

 音数は少なめ。ときおり電子音の飾りは入るが、基調は幾本かのノイズがよじられ、中央でシンプルに蠢いた。せわしない複数の電子音が左右から絞る。
 炸裂しそうになると途切れ、すぐさま復活。軽やかな電子音は存在感を増した。
 スピードを上げる。

 鈍くきらめきをまとい、動き出した。高らかな霧笛。ひたすら鳴り響く。
 がしがしと空気を動かし、動輪は前へ進んだ。蒸気の煙があたりを埋め尽くす。凍てつき尖った響きは辺りに。
 
 中盤でスケール感が増す。冒頭よりも左右へぐっと音像を拡大。あたり一面を覆ってしまおうと翼を広げた。
 進行する音は重心が次第に軽くなる。空回りするかのごとく。
 いくつかのノイズはてんでなペースで動き、若干ポリリズムっぽい。

 自己主張するでもなく、全員が裏に回るでもなく。互いが前へ出ては下がる。酩酊。
 くっきりと立ち位置が整理された。軽く浮かび、足元でみりみり震える。不安定にゆらり、ゆらり。次第にテンポが収斂し、ミドル・テンポをやんわり提示した。

 大きな盛り上がりは無く、じわりと曲が終わる。混沌のままに。

3.Black Bone PT.3 (16:16)

 メタル・パーカッションを電子加工したランダムな打音が冒頭でぶちまけられた。
 低音のループを寸断するかのごとく。前曲の混沌さを引き継ぎ、リズム部分を抽出した印象を受ける。

 唐突に画面が変わった。さらに低音を強調した打音。むっすりと表面が膨らみ、スピーカー一杯に鈍く弾ける。躍動感があって、曲はスリリング。テンポは重たく、ときおり音が途切れそうになりつつ、持ち直す。
 このパーカッションの一部がVictoriaの演奏だろうか。ハーシュがじわじわ滲み、ざらついた加工のリズムとあいまって歪む。

 途中でいったんスカスカに整理され、ローファイの太いアナログ・シンセがいったん登場。すぐさま高音で耳をつんざく。もう一度。さらにもう一度。鋭く尖った音が耳を刺し、鈍い響きの電子音が辺りをうろついた。

 本曲でも過激さは身を潜め、揺らぎを意識した作り。後半ではアナログシンセが泡のように唐突な増加、辺りを埋め尽くしたが。
 あえて散漫と言いたい。メルツバウが無意識の赴くまま、ノイズを紡いだかのよう。
 余韻を残し、すっと切れた。

4.Black Bone PT.4 (5:47)

 冒頭ではシンセの脈動、さらにハーシュがかぶさった。濃密なノイズの風が収斂し、中央で高まる。
 ふわり浮かび、滑空した。空気を切って前へ。風切り音が耳を切り裂く。

 あえて低音部をばっさり切り、スピード感を優先した。
 みるみる高音部だけ残し、そぎ取られた。高度を上げる。雲へつっこんだ。空気抵抗がゴムのように柔軟に。
 くいくい高まって、唐突にカットアウト。

"Purple"
1.Deaf Composition no.002 (34:12)

 いきなりのハーシュ。咳混むように寸断し、鋭く砕けた。破片が舞い、新たな渦巻きが再来する。ビートは皆無だが、弾ける部分は若干のリズムを感じる。だからこそ、破砕の瞬間はノービートが活きた。
 激しさは無い。静寂でもない。ときおりつんのめる電子音がきらめく。

 唐突に、太い響きがあたりを貫く。押しのけ、整理したところで新たな粉砕が降り注いだ。
 じわじわと力を増し、押し広げる。低音がむっくりと起きそうなところで、ふっと脱力。取りとめの無さが緊張へ変わった。

 奥行きを広げ、空間は進む。粉砕は風切り音のごとく変化し、筐体越しに聴こえるかのよう。きらめく微細が不安定に浮かんだ。重心をもちあげ、静寂へ。
 ここでのサウンドは素材こそ爆裂だが、耳への印象は大人しい。
 
 音程感ある電子音が一瞬膨らみ、高速テープ回転へ。幕の内外を出入りする。
 おずおずと歩を進め、そしてつんのめった。
 もどかしさが、つのる。強烈なハーシュへ移行せず、幕越しにおっかなびっくり触れてるかのごとく。

 カットアップでなく、切れ切れに汚れたテープのごとく。膨らみあるノイズが、浮かびそうなところで、するりと奥へ引っ込んでしまう。
 ストーリー性はさほど感じない。
 余韻をたっぷり振舞ったハーシュが轟く。不安をあおり、足元を砕いて。

 Deafとは"聴覚障害"、"耳を傾けない"といった意味。音に触れられぬ、もどかしさの表現か。はたまた奔放に自らの即興性をひたむきに提示の意味か。
 本盤では「1番」に該当する曲は聴けない。メルツバウのライブラリにのみ、存在するのかもしれない。
 不安。隔靴掻痒。そして、不安定なノイズ。展開も盛り上がりも避け、ノイズは湧き上がっては立ち退く。

 吹きすさぶ砕片が低音とぶつかり合う。だがドラマは失速し、あらたな電子音へためらい無く舞台を譲った。メルツバウにしては、すごく新鮮な展開だと感じた。
 意志の強さやストイックさ、複雑さを志向せず、ここでは散漫なほどにノイズと戯れる。
 アイディアを次々注ぐ。試行錯誤ではなく、指の赴くままに音楽を組み立てた。

 水中。暗闇。そして空虚な筐体越し。そんなイメージが頭に浮かんだ。 

 大作な本盤のなかで、一休みするかの曲。34分にわたる、本盤でもっとも長尺ながら。

 最後の4分ほどで、ようやくハーシュが前面に出た。つんのめり気味さは残して。コラージュっぽいアプローチもあり。
 エンディングは盛り上がりを拒否し、ぐじぐじと小さな電子の塊がつぶやいて消え去った。

2.Deaf Composition no.0003 (23:21)

 本曲ももどかしさを予感。冒頭は前曲同様に、きめ細かい素材から。寸断度は幾分激しい。くっきりと空白すらも。前曲のコンセプトが、より強調された。
 低音は薄く、そっと立ち位置を確かめる。前曲との創作はどう違うんだろう。前曲と同じ構成、同じ素材を使って作ったということか。単純に、似たようなアプローチの曲を同じ基本タイトルで括ったのか。

 展開の緊張感は、前曲より鋭い。ハーシュで貫かず、奥行きある空虚さの空間で、押しつぶす。
 奥で列車が走った。残響で複数の車両が進む。中央で鈍い軋み。この展開は既に、前曲とは違う。寸断が激しくなり、前方でぐすぐすと動いた。すでにスピードは彼方へ消え、蠢きが残る。

 アナログ・シンセの太い響きが、空間の中央で鈍く光った。炸裂はしない。あくまで音色が揺らぐ。早回しのテープ・コラージュめいた、めまぐるしい動きへ入れ替わった。
 フィルター・ノイズを幾本か重ね、ハーシュへ繋ぐ。後ろで電子の悲鳴が聴こえる。慙愧か悔恨か。噴出すノイズに埋もれ、高速テープ回転に変化した。

 前曲の空虚さとはうって変わり、本曲では空間を埋め尽くす志向が強い。残響や幕で覆った音像は似ていながら。ノイズそのものの力も上。前曲よりはこちらが好み。
 奔放さは同様。とりとめなくハーシュが展開し、時を過ごす。
 
 低音の平面が中空へ浮かぶ。砕片が空気を飾った。ホバリングのまま。
 高速テープが鋭く回転した。きりきりと身を細める電子音へ。
 空白を作り、中央へ集約。鈍い低音と混ざって、昇華。吹き上げた。

"Yellow"
1.Black Blood PT.1 (20:16)

 膨らみ、よじれる。上から覆いかぶさるハーシュ。軋みが隅々までいきわたり、隙間をささくれ立ちで埋めた。ひとつの流れに向かって連なる。周縁は鋭く弧を描いた。
 ビート感は無いけれど、注がれる勢いでスピードを有無。いったん隙間の多い音像。タイトルから連想すれば、血脈に血がどろりとせき止められ、ためらうように。

 細く集中して突き刺し、向こうへ。薄い壁が鋭さに押し貫かれ、うねりが高まる。
 太いノイズが応援。表面で粒子を散らし、甲高く轟く。繰り返される鳥の鳴き声めいた電子音。
 全てを捩って、襲い掛かった。

 場面が次第に黒光りする音像へ変化した。8分半の辺りでは、ぎらり凄みを出しつつ、明滅を激しく繰り返す。音数が増え、低音の唸りを保ちつつ全面展開の炸裂へ。
 鋭さはあるが、恐怖は迫らない。どこか優しさと軽やかさを感じた。
 
 11分をすぎた頃、光景はざらつくテクノへ。広がりを持ち、底辺をゴムのようにぎしぎしこすった。全てが拭い去られ、断片のハーシュがドローンの上で身を翻す。
 スケール大きく動き、空虚さも。前半のスピード感覚がガラリ変わった。
 
 最終部分は冒頭の勢いがわずか戻り、ざらつきを持ちつつフェイドアウト。
 いくつかのブロックをメドレーで繋いだかのよう。もう少し凝縮感あるほうが好み。

2.Black Blood PT.2 (6:59)

 重低音なパーカッションのループがイントロ。さらに背後で低音がぐつぐつ泡立ち、前へ侵食してきた。リズムは残骸だけがわずか残り、沸く電子の本流が前面でランダムに回転。ときおり耳ざわりのいい軽やかな電子音が瞬間的に浮かび、沈む。

 寸断され細密な粉が勢い良く中央へ吹き上がる。背後のドラムは淡々と刻み続けるのみ。対比が冷徹な風景を描いた。
 
 別のリズムが登場。ハーシュを背負って。後方のビートも取り込まれ、大きなグルーヴとして斜め上から振り下ろし、持ち上げる。あっけなくエンディングへ。

3.Black Blood PT.3 (12:03)

 2曲目のリズム感を保ちつつ、砕片の噴出しは重力が軽い場所での取り入れ。低音成分を抜き去り、滑らかなほど。せわしなく、余裕を持って。複数のビートが混ざり、ランダムさを強調した。

 空中をローターが回転し、動く。空白をぐっと増やし、硬いボールの明滅。
 中空へ不気味に浮かび、白々と表面をぬめらせた。中央の芯の表皮にいくつもの砕片が突き刺さり、層を増す。電子ノイズは次第に静寂を塗りつぶし、比率が高まった。

 リバーブから内部へもぐるような空虚のフィルターへ。コアの中を覗き込み、反響のさまをじっと眺める。
 飽き足らず、ノイズの量を増やした。淡々と中央に線が一本。パルスがランダムに上下する。野太い3次元の綱となり、こちらへにじり寄った。

 メタル・パーカッションのおぼつかぬ響きが、加工されて幾打ちか。
 空しくざわめき、上空へささくれだつ轟きを吹き上げた。そっけなくフェイドアウト。

4.Black Blood PT.4 (15:01)

 イントロは肉体感覚ある曲。底辺に電子音のドローンをループさせ、うねりを置く。ランダムな日常風景が脳裏に浮かぶメタル・パーカッションの散発打ち。極初期のテープ・コラージュを連想する。
 
 おもむろに電子ハーシュが姿を現した。4枚組集大成、最後の曲ながら気負いは何も無い。
 ただ自然体で、ノイズとメルツバウは戯れた。冒頭からのループが継続性をぎりぎり保つが、メインのノイズは興が向くまま取り出し、次のノイズへ滑らかに繋いだ。
 深みのあるメルツバウの音像は健在。こまごました部分は、目配りが行き届いた。

 しかし、全体的に寂しく人を寄せ付けない。幾重にも包み込んだバリヤーを身に纏い、身を宙へ浮かせた。緻密に構築しつつ、大きな展開は無い。
 濃密さと空虚さが混在する。最後はしゅぼぉっと音が収斂しつつフェイドアウト。あっけないほどに。                                                          (2007.7記)

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