Merzbow Works

Merzbow vs Tamarin (artificial music machine:2005)

Track 1-3 processed by Masami Akita
Recorded and mixed at bedroom,April-May 2004.
Material based on recordings from Tamarin"The Nationalist"

 北米のノイズ・ユニット(?)Tamarinとのコラボ・アルバムで、500枚限定。TamarinのHPはこちら。初めて聴くが、1999年頃から着実にリリースを重ねているようだ。 
 互いの作品を素材にしあった盤で、メルツバウはTamarinの"The Nationalist"(2003年)を使った。TamarinはMerzbowの"Ikebukuro dada"(2003)を使用。

 完全な競演はなく、あくまで互いの素材を持ち寄ったコンセプト。3曲づつを提供しあった。
 どの曲でも、メルツバウのサウンドにキレが無い。迷い、もしくは躊躇い。もしくは散漫さ・・・凶悪なハーシュを求めるならば、本作は薦めない。
 メルツバウのマニア向けな作品かも。もしかしたら、本作は秋田昌己による、新たな方向性の模索か。Tamarinの作品もパワーを内に秘めた芸風。メルツバウもTamarinに併せたと深読みしたくなる。

 ここではメルツバウ名義の作品のみ、詳述します。

<全曲紹介>

1.Processed 3 (12:01)

 金属を叩く響きのサンプリングに、低音気味なリフ。そこへドラム・ループが載ってくる。インダストリアル・テクノ寄りなアプローチか。そのわりに重厚さは控えめ。かすかに混ざるエレクトロ・ビートが彩りで、なおさら軽みを帯びた。

 前半はハーシュの要素はほとんど無く、真っ当なビート物として進むのが違和感あり。数分たって、やっとハーシュが滲んだ。すぐに消えて、また。じらすように幾度にもわけ、エレクトロ・ノイズが染み出す。しかしドラム・ループが明確な響きを保ち続けるため、凄みに欠けるのは否めない。
 メルツバウの作品としては、正直物足りない。ハーシュのせめぎに、力が弱いため。後半で聴こえる重い響きの奥深さ、垂直に立ち上がるフィルター・ノイズの鋭さは、いかにもメルツバウらしいが。

 終盤でふっとノイズが立ち消え、残響と高音ノイズ、スクラッチ音がしばし漂う。
 ハーシュの残骸が身を起こすが、復活まで至らない。身体を膨らませ、パワーを溜める。ゆっくりと。
 わ
ずか最後、1分半ほどかけて再びビートが現れた。これはなにを表現したいんだろう。なぜ、次の曲としないんだろう。
 メルツバウの思惑に考えを巡らすが、上手く解釈できない。

 最後でノイズは大きく口を開け、吐瀉した。

2.Processed 2 (13:59)

 左右にパンする、砂利を踏む足音。奥では低音の暗闇が広がる。
 響きがいつしか規則正しくなり、前へにじり寄った。草の鳴り。ちりちりと。影が漂い、足元をぬらす。
 展開は控えめ。空気の色を鈍く染め、震える。

 ビートが掻き消え、足元が鋭く沸き立つ。左右、中央それぞれが別の肌触りで。
 ループのタイミングが僅かにずれ、ポリリズミックな展開を見せる。しかし音の表面は穏やかさを保つ。輪郭は明確で、混在はしない。

 空気の中央が崩れ、膨らむ。静かに鳴くチャボ。煙のようにハーシュが吹き散った。
 おもむろに現れるホワイト・ノイズ。ベールの裏でビート・ループの断片がかすかに伺える。
 すっとギアが切り替わり、きめ細かくなった。ビートの骨組みが良く見えた。電子音も僅かに練りこんで。

 そして音は静かに身を隠してゆく。

3.Processed 1(5:40)

 ビート・ループ。けだるげで前のめりさが皆無。いまひとつメルツバウに覇気がない。
 ハーシュは(1)と同様、おぼつかなげに足元を蠢いた。からからと右チャンネルで小さな空回りの音。機械音だろうか。表面のビートが音色をみるみる変え、ドンカマの安っぽい音へ。この瞬間は、本作で唯一面白かった。 
 最後でハーシュのマントを一瞬翻し、リズム・ボックスの足音と共に去った。  (2006.10記)

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