Merzbow Works

Fantail (Clu Clux Clam:2002)

All music composed,performed and Directed by Masami Akita
Recorded and Mixed at Bedroom,Tokyo May-Sep 2002
Track 6 recorded live at the Kathedral,Toronto on Sep 20,2002
Live mixed and recorded by Jake Disman

 真っ白のジャケット。
 裏面にレーベル名(趣味悪いなー・・・)とレコード番号。それだけ。
 背の部分にクレジットすらない。すごくそっけないデザイン。
 ジャケットは白地に書かれた線画。"Jenny Akita"のイラストだ。苗字が一緒だけど、秋田昌美の関係者か。

 描かれたのは教会(かな?)と、抽象的な孔雀の絵。
 メルツバウがこの時期こだわってた、"動物シリーズ"の一環だろう。
 当時、メルツバウのHPには「孔雀鳩"むねみ"をフィーチャリングしたアルバム。」と記載されてた。

 レーベルはカナダ。リリースは2002年かもしれないが、実際に入手したのは2003年になってから。
 カナダで行われたライブ音源を除き、秋田の自宅で録音された新曲を収録。
 詳しいクレジットはないが、おそらくすべてパワーマックで製作された作品だと思う。

 ストイックさが強調されたCD。鋭く空間を塗りつぶすハーシュを多用し、強風のイメージが脳裏に浮かぶ。
 ボリュームをごく小さく絞って聴くと、くつろげる。
 あたりいちめんにレースの幕を広げているかのよう。
 しかし。ボリュームを上げると・・・強烈なノイズが果てしなく湧き出てきた。

 これはメルツバウの意図した聴き方じゃないと思う。たぶん。
 だけど本盤をBGMにしてて、この二面性を発見したときは愉快だった。
 なんだか果てしない洞窟の深淵をのぞいてる気分になったんだ。

<全曲紹介>

1.Clouds (7:06)

 冒頭はサンプリングらしきループで始まる。ときおり、規則正しく鳴る「じりっ」とした電子音。
 じわじわ唸るノイズが彩りをつけつつも、親しみを拒否するかのように単調な音像が続く。

 おもむろに弾ける電子音は丸まって身を震わせる。赤く熱したフライパンに落とされた、ひとつの卵のように。
 サンプリングの唸りは継続し、新たなノイズは中央でくるくると回る。
 
 じんわりとかき鳴らされるエレキギターらしき音は、もしかしたら生演奏のサンプリング加工かも。
 不定形に表情を変えつつ、どこかループや波形操作の感触が残る。

 どこか透き通った音使いは、ジャケットのイラストが持つムードにぴったり。
 金属質の塊が思い出したように響く。
 
 終盤でまたエレキギターらしき音が、ひずんで暴れた。
 比較的、隙間の多い作品。みっしり音を詰がちなメルツバウには珍しい。
 独特のハーシュノイズはエンディング間際で、思い出したように騒ぐ。
 そして、カットアウト。

2.Catapillar 2002 (10:32)

 四つ打ちを畳み込むようなリズムで、パルスがのめった。
 右チャンネルに重心が寄ってるな。
 ハーシュではなく、スペイシーなエレクトロ・ノイズが這いずる。

 ここでもループを強調。音像はくるくる変化するが、それぞれの周期は常に意識した。
 右チャンネルで唸るノイズを通奏に、中央や左側で電子の泡が砕けては膨らむ。

 低音成分は比較的控えめ。だが、上に伸びるノイズでもない。
 視線より下で、ノイズが平べったく暴れた。
 猛烈な回転の映像が脳に浮かぶ。いくつもの平面が互いに干渉せず、空気をもみくちゃに。

 そう、あくまでベクトルは水平。音の位置は一定でなく、左上や右下みたいにそれぞれの位置を感じる。
 細く細く細く。甲高く空気を丸めて鳴くノイズの周りを、破砕された粉末が飾り立てた。
 
 ノイズの展開にストーリーはない。
 イメージの赴くままに音を選択し、ふくらませて作ったと想像する。
 高速回転で近寄りがたいものの。どこかシンプルでキュートなイメージのノイズ。

 前曲同様、終わり間際にハーシュがぼろぼろっと姿を現す。
 骸骨のように、すかすかで大人しめなハーシュだけど。

 ラストは力強いパルスとハーシュのせめぎあい。
 カットアウトだ、やっぱり。

3.Mountain  (3:33)

 微細粒子が唐突に破裂し、あたりを埋め尽くした。
 ときおり太い管がゆれ、咳き込むようなうなりを上げる。
 すかさず噴出す、新たな粒子。

 光をさまざまに反射させ、きらびやかに輝く。
 多少ループっぽいところもあるが、基本はノーリズム。
 気分の赴くまま、意識をふるいにかけた。

 いまはさほど大きい音で聴いてないが・・・低音成分は少なそう。
 淡々と細かなノイズで風景を描く。ストーリー性はない。ノイズの写真ってこんな感じかな。
 唐突なフェイドアウトで、あっというまに曲が終わる。

4.Waterfall (4:23)

 ギターのかき鳴らしを連想するループをけだるげに提示し、ハムノイズがじりじり存在を主張した。
 場末の光景が脳裏に浮かぶ。

 力強いモーター音。立ち尽くし、身体を強烈に絞り込む。
 再び登場したギター風のサンプリングはパワーを注力されたか、若干ボリュームがアップした。

 またしても唐突な場面転換。垂直にハーシュが立ち登る。
 奥でかすかに感じる、別のノイズ。
 霧のようなハーシュは次第に密度を薄くし、底の世界へいざなった。
 
 次への展開を期待させ、唐突に音は遮断される。

5.Door (7:33)

 タイトルどおり、さまざまなドアの開閉音で成立しているようだ。
 しかし音はどれも電子加工され、響きはひしゃげて低音がぶわっと押し寄せる。
 何十丁ものリボルバー銃による、シリンダーの回転を聴いてるみたい。

 ランダムなリズムの積み重ねを、力強くハーシュが覆った。
 混沌さが増す。断片的にかちゃかちゃ開閉音が鳴り、隙間はすべて唸る電子音が溶け込んだ。

 後ろでかすかに聴こえる開閉音は、まるでハイハットのよう。
 ときたま、明確なビートが成立する。

 いくつかの風が対話する。荒っぽくはあるが、険悪さはない。
 さまざまな世界のドアが開き、互いを理解しようと語り合ってる。
 複数のノイズが絡み合う。協和のメッセージを感じた。

 ・・・ちょっときれいごと過ぎるか。だけど気持ちいいんだよ、このノイズ。
 轟音で聴いたら圧迫されるかもしれない。しかしボリューム絞り目で聴けば、違う世界へ進める。

 ラスト一分前。ぴんと背筋が通ったノイズが世界を照らし、明確なビートが繰りかえされた。
 最後は高音パルスが身を閃かす。

6.Live peace in Tronto(Door,Barbarian and Bigfoot) (27:06)

 じわじわとノイズが吹き荒ぶ。鈴を加工したような音が、散発的に鳴るパターンをループ。
 ふたつの上へ薄い霧がかぶさり、ぱりぱりと端から凍っていった。

 音源は2002年9月20日にトロントで行われたライブ音源。
 録音とmixはJake Dismanが行っている。ってことは、PA録音をそのまま収録したってこと?

 たぶんその場では、耳を劈く轟音に押しつぶされたと思う。
 高音中心にべたっと音が張り付き、フィルターノイズの息継ぎがゆったりペースでループしてる。
 複数のループをじっくり切り替えることで、音像を変化。
 4〜5パターンが同時進行してるっぽい。細かいとこまで聞き取れないんだが。

 ノーリズムだがループがぼんやりと小節を演出。ただし踊れるような代物ではない。当然か。
 激しさを増すのは6分半くらい。甲高い電子音と低音の合間でハーシュが吠えた。
 いまいち小さめのミックスが惜しい。もっと豪快に噛み付いて欲しいぞ。
 これは秋田がPCでミックスしたバランスなのか、エンジニアが選んだバランスか、どっちだろう。

 冒頭から構成音素こそ変えても、濃密な空気は変化なし。強烈にスピーカーが震える。
 目の前に柔らかく透明な壁が立ちはだかってるよう。

 10分強たったあたりでは、いつの間にかテクノっぽいハーシュに変化してる。後ろでピュンピュンと弾けるのがかすかに・・・。
 少しすっきりした音になってる。
 低音は唸るループのみ。いくぶん聴きやすい。
 
 ふっと整理されるノイズ。極低音の上で静かにヘリコプターのローダーが何本か回転した。
 とうとつに綻びの音がした。霧の中から潜水艦に乗って深海へ。
 
 どんよりしたムードへ時折、ランダムな電子音が挿入される。この瞬間の緊張感はすごく良い。
 がりがり噛み砕かれ、左右にノイズが動き回る。かっこよさが分かりやすいノイズだ。
 だいぶシンプルに繰り返しが続く。
 フィルターやパルスをループさせ、低音はにっちり空気を押さえるせいか、インダストリアル風には聴こえない。

 濃密に迫り来る。20分経過。この部分の圧迫が、素晴らしい。
 他のノイズは後ろへ強引に押しやり、冒頭のようなのっぺりさが再び強調された。
 取り付くしまもないノイズのカーテン。冷徹にそびえ立つ。

 表面がでこぼこしているのは分かる。奥でなにか蠢いてるのも聴こえる。
 しかし目の前には、硬質でざらついた音の壁。
 なんとか手がかりを探し見渡すが、端から端まで同様だ。

 エンディングへ近づくにつれ、音の要素はフィルター・ノイズっぽく鋭利に変貌してた。
 噴出すノイズに急き立てられる。

 唐突にほとんどの音が停止した。余韻だけ残る。かすかに。

 そして、幕。じわっと染みる緊張感が嬉しい。

  (2004.4記)

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