Merzbow Works

Surabhi (Hypnagogia:2011)

All music by Masami Akita
Recorded & Mixed at Munemihouse,Tokyo Jan 2011

 ミキシングが美しい。さまざまなノイズが絡み合うさまを堪能できる。
 物語性の強いサウンドだ。各曲20分程度と、比較的コンパクトでノイズの変貌へ親しみやすい盤。

 300枚限定の発売。動物愛護を主張の一環で、ヒンズー教の牛の愛護がテーマのようだ。ジャケットには黄色い粉塵の中、川で水浴びをする牛たちが映されている。ヒンズー教の聖地、ヴリンダーヴァンでの様子らしい。
 本盤では元の音をミリ秒単位に分割後に、再構成する"グラニュラー・シンセシス"手法を使ったそう。

 タイトルの"Surabhi"はインド神話の「聖なる牝牛神」スラビーを指す。日本語文化とノイズにもこだわるメルツバウにしては珍しいエスニックな表題だが、これはレーベル・オーナーの意向か。つまり同レーベルでの前作"Kamadhenu"に続くかっこう。

 ラップトップ加工を基本に、アナログ要素を足してる気がする。ユーモアをサウンドへ取り込まぬメルツバウだが、本盤ではどことなく、柔らかさを残した。 

(全曲紹介)

1.Vanamali and Shravan (15:51)
 
 はじけるきめ細かい粉砕の噴流は、いったん途中できめ細かさのみに鳴る。
 スペイシーなアナログシンセがランダムなメロディを刻んだ。細密ハーシュの中、太く鳴き声のように。
 猛然と広がり、迫りくる波動。多数の音素材がてんでに破裂しながら、背後で力強い電気ノイズの咆哮が存在感を出した。

 剛腕の音圧とは異なる、スペイシーなシンセが空間をきめ細かく編み上げる。音程というにはあまりに幅広い周波数帯を使いながら。メルツバウ流のオーケストレーションを味わえる一曲だ。
 最後の瞬間でふっと消え、残響だけ残る瞬間がかっこいい。

2.Balaram (16:05)

 低音のミニマルな電子音の上で、複数の高音が蠢く。さらに奥深いシンセが空気を惹き込んだ。淡々と進行し構成は変わらない。上物の表情だけが変わっていく。いつしか凶暴な音色に入れ替わった。
 ここでも音全体をぐっと下げ、ダイナミックに音像を変えるアレンジを取り入れた。

 瑞々しいシンセの音色が、ハーシュと完全に張り合って存在感を出す。つんざく鋭い音色が四方八方から立ち上がり、金属質のノイズが壁を作った。
 だがアナログなシンセの音は居続ける。フィードバックも混ざっているかも。
 
 ひとしきり混沌のあと、ふたたび粘っこいアナログ・シンセの、お出ましだ。
 みるみる仲間を寄せ集め、ぐんっと賑やかに。
 改めて金属音が現れる。塗りたくるように。しかしそれはシンセを潰せはしない。

3.Yamuna Snan (20:15)

 初手から鮮やかにノイズが沸き立った。小刻みなパルスをてんでに撒き、せわしない音像を作る。
 鋭い金切り音の背後で、ループする電子音は少しづつ表情を変える。目の前は強靭なフィード・バックめいた轟音。隙間を許さずアナログ・シンセが増殖した。
 
 ひときわ分厚く立ち上ったシンセは、進出し侵攻し膨張する。
 次の瞬間、細片へ散らばり吐き出される砕片。物語性ある構成にワクワクする。

 最後は金属音でまとめた。身をよじる大きなうねりが空間をスッキリと貫いた。

(2015/1:記)

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