Merzbow Works

Sun baked snow cave (Hydrahead:2005)

Masami:computer
takeshi:g,b
wata:g,echo
atsno:feedback conbution,computer

recorded from 2001 to 2004
mixed by fangs and eatau
mastering at peace music oct 6 2004

 日本のサイケ・ノイズバンド、ボリスとのコラボ盤。CDのフルアルバムとしてなら、"Megatone"(2002)ぶりかな?シングルやアナログでコラボ作もあるはず。
 本盤の最終編集の主導権はボリス側だろうか。装丁は紙ジャケのスタイルで、線を多用するメタリックなデザインのイラストを採用した。中にはカモシカなど動物のシルエットが白抜きで織り込まれているようだ。

 クレジットは飾り文字で、どうも読みづらい・・・裏ジャケに4行ほどの詩めいたものが書かれている。よく読めず、意味は不明。誰かの作品の引用だろうか。

 激しさは無く、じわじわと侵食するスリルが中心か。ハーシュへこだわるメルツバウにしては異色の盤だ。
 
 収録曲は1曲のみ。数年かけた音素材を一気にミックスしたようだ。静寂からドローンの混沌へ、そして静寂に。
 一時間の長尺なため、気軽に聴きづらいが・・・時間があるときのBGMにしてはどうか。時の経過をじわりと心地よく感じるノイズ作品だ。
 たゆたうロマンティシズムを味わおう。

<全曲紹介>

1. (62:02)

 静謐な音世界で幕を開ける。静かなエレクトロ・ノイズが吹き上げ、沈んでゆく。アコギの爪弾きが間をたっぷりとって、かぶさった。
 この時点でメルツバウの音は入っているのかな?ノイジーさは希薄で、寛いでしまう。
 展開はあるような無いような・・・アコギを中心におくが、メロディが拡散しない。あくまでシンプルなフレーズを、淡々と続ける。
 後ろでかすかに聴こえるノイズの風。

 6分ほどたつと、アコギは自己主張を次第に出してきた。爪弾きが膨らみ、リフらしくなる。まだまだ空気は隙間が多い。
 この部分だけ聴いているとメルツバウの作品とは思えないし、ボリスの作品としても意外だ。もっと重たい作風と思ってた。爽やかさすら感じる。
 緊張を軽くまとった、静かな音世界。

 一息ついた11分ごろ、メルツバウらしき存在が前面に出た。冒頭のノイズとはちょっと音成分を複雑にした電子の風が漂う。アコギのストロークは存在するが、少々テンポアップした。
 泡立ち、ギターと重なり・・・また分離する。アコギは冒頭の柔らかい爪弾きに戻った。
 噴出す電子音が浸食し、かすかな低音の沁みだしを感じる。
 
 20分頃にはほとんどメルツバウとおぼしきエレクトロ・ノイズが主役に取り代わった。
 スピードは控えめ、重厚なドローンを敷き詰めてハーシュをかぶせてく。
 どんよりと空気を黒く染めた。
 ギターのフィードバックが、メルツバウの低音にがっぷり歯を立て、びくとも動かない。
 確かに音の展開はある。しかしそれはごくわずか。新たな音が登場し、低音に身を浸して・・・いつのまにかそこへ存在する。
 スピーディなメタモルフォーゼを得意とするメルツバウと、ベクトルは似ていて微妙に違うのが興味深い。
 鈍く底光りする音塊は表面を僅かに、てからせた。

 ギターのフィードバックが寂しげに吼える。メルツバウは野太い低音で応えた。
 涼しげにパンするハーシュ・ノイズ。
 二つの距離はじわりじわりと近づいた。
 
 中央で轟音が低音を存分に身体へ塗りたくり、のぼっと立ち上がった。
 フィード・バックの揺らめきがメロディと鳴り、サウンドをうねらせる。
 激しく炸裂する音たちは、あくまでもビートを拒否する。甲高い鳥の鳴き声が盛大にかぶせられた。
 凄みある視線をスピーカーの奥からそそぐ。
 表面のハーシュが沸くのと、低音の鈍い輝きは並立した。

 35分を経過した頃、なんだかスピードが音に加わった。ループが僅かに全面へ出て、ビートを幽かに意識。
 さらに振られるパルスがせわしなさをあおる。低音は一歩引いた格好だ。
 低音も負けてはいない。土台を震わせて歩を進める。

 44分ごろ。ついにパワーが息を絶った。音がほぼ収束に向かい、今度はエレキギターの爪弾きが音の中心と鳴る。
 ハーシュの残骸はそこかしこに散らばる。しかし迫力はすでに無い。
 風の音が聴こえ・・・いや、あれは鳥か?

 静けさが蘇った。
 ゆったりと弦をはじくエレキギター。少しだけエレクトロ・ノイズのバッキングがつく。
 中盤の怒涛は影を潜め、ただ、ギターだけが残った。

 ノイズはおぼつかなげに空気を染めた。メルツバウにしては、えらく遠慮深い展開だ。ボリスを立てたか、逆に作成時点でメルツバウがあまり関与していないか・・・どちらだろう。
 
 55分くらいからは、もはや残響のみのごとく。ベースがじわっと単音をはじき、ギターのフィードバックが盛り上がっては沈む。
 メルツバウとボリスが共演したライブの、クライマックス。ひたすら時間を食いつぶす姿を思い出した。

 フェイド・アウトしながらギターは消え・・・エレクトロ・ノイズが奥底で残った。ざわざわと蠢く。                                                 (2006.8記)

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