Merzbow Works
Flying
Basket (すっ飛び篭) (2015:Family Vineyard)
Alto Saxophone,
Vocals - 坂田明
Double Bass, Percussion - Darin Gray
Drums - Chris Corsano
Electric Guitar, Harmonica, Electronics, Producer - Jim O'Rourke
Electronics
[Noise Electronics] - Masami Akita
Produced June 2013 at Steamroom, Tokyo
坂田明、Jim
O'Rourke、Chikamorachi(ちかもらち)とMerzbow。どこから突っ込んでいいかわからない多彩な顔ぶれの共演作に見えるが・・・。フリージャズの形骸だけ持ち込んだインプロで、ノイズはむしろ添え物。
ミュージシャンの関連を解きほぐすとまず、坂田明とChikamorachi(ちかもらち)につながる。Chris Corsano, Darin
GrayのデュオChikamorachiは、09年から坂田明と共演歴あり。以下4枚のアルバムをリリースしてきた。
2009 Friendly
Pants
2011 And That's The Story Of Jazz...
2011 Live At Hungry Brain -
2012 Sora Wo Tobu!
ジム・オルークはこれら4枚の盤にプロデューサーやミキサー、演奏など様々な立場で参画してきた。本盤をプロデュースしたオルークの人脈で、さらに刺激を求めてメルツバウへもつながった格好か。
つまりメルツバウはゲスト扱いで主導権を本盤で握ってはいない。
音像のメインは鋭くフリーを絞り出す、坂田のアルト・サックス。ここへ鈍くベースが絡み、ドラムが手数多く叩きのめす格好。エレクトロ・ノイズがまとわりつく一部が、メルツバウだと思う。オルークと秋田昌美の音の区別が今一つ不明。ハーシュ系がメルツバウだろうか。
圧倒的に不満なのは、メルツバウのミックスが非常に小さいこと。音楽の一要素として埋もれている。バランスを求めたオルークの意向は伺えるが、ならばメルツバウを起用する必然性は無い。単なる話題作りでしかない。
ゲストだろうとも耳をつんざく音量と埋め尽くす音圧が存在しないならば、メルツバウでなくとも、適当にノイジシャンをあてがえばいい。オルークが自分でやってもいい。
それでも、メルツバウを入れたのはなぜ?だから、話題作りだろう?
録音は2013年で翌年の発売だったが、製造工程に手間取り2015年のリリースとなった。収録されたSteamroomとはよくわからないが、東京でのジム・オルークのプライベート・スタジオか。
<全曲紹介>
1.Flying Basket 1:11:27
アルト・サックスの無伴奏から、バンドが加わりノイズがまとわりつく。場面ごとには面白いところもある。だが坂田が無自覚でフリージャズを疾走させ、即興的にベースとドラムが加わる構造は、噛み合わない会話を見てるようで楽しめず。
フリージャズを狙わないならば、坂田のサックスも単に話題作りの客寄せパンダでしかない。
インプロの構造として、ドローン的な雰囲気が多い。つまりはオルークの好み。後半でワウが続く静かなエレキギターの演奏がオルークか。横で電子音が、静かに、密やかに鳴る。音色も大人しく。これがメルツバウなの?ならば、ずいぶん丸くなってしまった。
坂田もアルバム一枚通して吹きまくりなわけではない。ドラムやベースとの必然性も薄い。つまりインストとしても、小奇麗なダイナミズムでまとまってしまい、音像的にはもっともらしいが熱狂して聴けない。オルークの趣味性やコントロールがあまりに前面に出てしまった。ましてChikamorachiは単なるスタジオ・ミュージシャン的な感じだ。
坂田やメルツバウは面白がって参加かもしれないが、お仕事的なそっけなさも感じてしまう。
本稿はメルツバウ至上主義の論点なため、敢えて繰り返し問う。なぜ、メルツバウが必要だったの?
「ノイズが欲しい」それだけの理由なら、メルツバウとの共演はあまりに寂しい。
(2016/4:記)