Merzbow Works

Sphere (TZADIK:2005)

All music by Masami Akita
Masami Akita :Compuer,Percussion

Recorded and mixed October-November 2004 at bedroom and Living room,Tokyo
Produced by Masami akita
Mastered at Hit Factory by Scott Hull at Hit Factory Mastering,NYC.

 "1930"(1998年)に続き、TZADIKからリリースされたメルツバウ名義の2作目。ジョン・ゾーンはさほどメルツバウの作品をTZADIKからリリースしない。たとえば吉田達也の作品を大量リリースするのと対照的だ。マーケティング戦略なのか、それとも節目にリリースするつもりか。
 
 使用写真はジェニー・秋田によるもの。音源は2004年の末に自宅録音された物を使用している。ベッドルームだけでなく、居間で録音というのが新鮮。パーカッション群を居間で録音したということか。

 この時期に何作かリリースされたような、リズムを前面へ出す作品を集めた。ハーシュな要素もむろんある。しかしダンサブルさを希薄に、太鼓の持つ根源的なスリルに着目した作品と感じた。
 確かにこの時期、メルツバウとビート物は切り離せない。しかしメルツバウは直後に、またハーシュの大海へ漕ぎ出す。したがって本作は一里塚の記録な意味合いが強い。

 さらに当時、大きなテーマだった動物愛護への意味合いが消し去られているのもポイント。電子音楽へのストレートなアプローチを取った。
 メルツバウにしては素朴な肌触り。音量をぐっと上げると、凄みを増すが。とはいえポイントを充分に絞らずに作った印象をぬぐえない。より内面へ向いた作品、と捉えれば良いだろうか。

<全曲紹介>

1. Sphere Part 1 (9:13)

 底光りする低音パーカッションの乱打と鈍い低音が広がる。実際には乱打に聴こえても、複数のリズム・ループを重ねているようだ。呼吸のように低音ノイズがじわりと広がり、スピーカーの前から沁みだして来る。
 ぎろりと凄みが漂う一曲。

 基本路線は変わらないが、3分くらいで一巡り。ぐっとパーカッションが存在感をまし、歯軋りする電子ノイズが前へ出てきた。
 荒々しい展開は控え、にじり寄る迫力で幕を開けた。
 
 がらがらと回転するノイズはハーシュの布をかすかに絡まらせ、執拗に繰り返す。
 冒頭からの鈍い低音の染み出しは続く。明確なアコースティック・ビートでありながら、音色をいじって現実性を希薄にした。
 終盤ではミックスの配置を換え、よりハーシュさを前面に出す。
 
 幾層ものノイズが折り重なり、深みある音像を構築した。
 変わり続ける表層と、変わらぬ低音を吹き出す響き。 
 最終段でハーシュの吹きだまりのみが残る。

2. Sphere Part 2 (15:30)

 前曲での低音フレーズがぐっと前へ出た。もしかしたらエレキベースのサンプリングかもしれない。
 じわじわと電子ノイズが周辺を煙に包む。シンプルなパーカッションが周辺の肉体をそぎ落とされ、骨格のみで立ちふさがった。リアルタイムで叩いた演奏を流しているかのよう。時折パターンを換え、そして左右の連打へ戻る。

 3分直前で水のように漂うノイズの響きが快感だ。
 ベース・パターンをオスティナートに、幾つかのパターンが現れては消える。せわしなく行き来するアレンジは、メルツバウにしては性急。カットアップを得意とする、ジョン・ゾーンの好みも取り入れたのか。
 事前に二人が相談の上、作品を作っているのかは不明だが。
 ポップさとは無縁ではあるが、聴きやすい作品であるのは確か。

 超高音は控えめ、様々な手管で低音を強調している。スピーカーを震わせ、小刻みな響きから全体像へ融ける極太のノイズまで。

 8分半頃に一旦、音像が変わる。小動物の咀嚼を模したノイズが沸き立ち、表面を小刻みに揺らした。リズムはフリーになり、空気がゆらめく。
 音数が増え、ノイズの深海をゆったりと前進する。

 激しく表面で火花が散った。回転も激しさも控えめに、訥々と力強く押し分けて進む。 いつしか太鼓の音へ変わり、スピードをじんわりと絞った。
 新たな太鼓が加わり、平べったく伸ばされて中央で削られる。
 軽やかに回転を上げ、切り落とす。

 一旦ノイズが沸き立ちそうな気配で・・・消えた。 

3. Sphere Part 3 (13:31)

 前曲より若干テンポアップした。重心高くなり、ベクトルは高地へ向かう。
 ハーシュがおぼつかなげに呟いては、次の音へ変わった。大人しい。左右だけでなく、斜め上下へ。音の位置は立体的に立つ。
 次第に音圧が高まった。音程を持った回転音が中央で浮かんでは沈む。
 エレキギターのようにも聴こえた。

 展開をあからさまにしないが、ふと気づくと時間が立っている。音楽の変貌と共に。
 曲としては物足りなさが残る。一時も立ち止まらず変化するさまは刺激的だが、迫力に欠けるためか。
 空気を噴出し、ハーシュと混ざって膨らんだ。地平は微妙に広がる。
 
4. Untitled for Vasteras (29:36)
 
 昆虫の咀嚼音をイメージするノイズの奥で、残響たっぷりの打音がかすかに響く。
 この曲のみ、まったく別のモチーフをタイトルに採用した。"VASTERAS"とはなんだろう。検索すると、スウェーデンの都市名"ベステロス"がヒットする。その場所でコンサートをやったことがあるとか、そういうつながりだろうか。

 ビート性は希薄で、サウンド・ループのリピートで小節感を出した。
 地が沸き立ち、足元を不安定にぬかるませる。
 凄みと迫力がじわり進出し、ハーシュの刷毛が塗りつぶした。多層構造は常にありつつ、内へ内へ沈む。 
 奥底で大太鼓が鳴る。着実に。

 洞窟の表面では嵐が起こり、波頭が崩れた。凪へ。大太鼓がふわりと宙へ浮かぶ。
 風が粒立ちを撒き散らし、吹き寄せた。鳥のさえずりを模した電子音のループ。地平線までぐっと視界が広がり、安定した進行に。
 一筋の光が、わななきながら前を刺す。モーター音が連動し、平和裏に佇んだ。

 明確なループが左チャンネル上で蠢く。左右のそこかしこで並行してノイズが動きあい、嵐へ戻った。
 中央で低音が丸くなる。拡散しない。佇んで、見つめる。あたりが苛立っても、落ち着きを保ったまま。
 水面へ着地し、ふらつきながらも佇む。もどかしさを秘めて。

 いくつものノイズが一気に消え、エコーを含ませた高音が頼りなげに揺らめいた。
 一瞬だけ、太く輝く。ところがすぐに細まり・・・ささやかな炸裂音を漂わせる。

 ぐっと前へ出て、ガラス越しの炸裂。本体は一気に宙へ飛び、見下ろす。足元の嵐を後にして。
 中央の蠢きは抽象性を増した。かたときも停止せずに表面は鮮やかに変わる。観察するような冷静な視線で、じっと見つめた。
 低音と高音とさえずりと唸り。いくつもの要素がじわじわと現れる。

 咆哮。低音を伴わぬ、鋭い咆哮。振動へ姿を変えた。脈動がリズムとなる。
 更なる展開を期待させて・・・融けた。  (2006.10記)

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