Merzbow Works

Maldoror"She"(Ipecac:1999)

All music by Patton / Akita
Recorded at Yellowknife Studios,Tokyo,1997
Additional overdubs by Patton at Volcan Studios,San Francisco

Produced by Mike Patton
Masterd by George Horn at Fantas Studios,Barkeley
Digital editing by Adam Munoz at Different Fur,San Francisco

 マイク・パットンとのユニットがリリースされた。名義はMaldororで2003年6月現在で、2ndはまだ出ていない。
 "Maldoror"って、英語辞書にのってないな。何語だろ。造語?

 ジャケットはピンクに塗り潰され、プラケースも透明ピンク。古めかしくエロティックなイメージで統一された。
 シンプルなデザインだ。筆記体で箔押し風に、タイトル書いてるだけ。

 見開きには第一次大戦頃を連想する、タバコをふかす半裸な売春婦らしきイラスト。
 それを開くと中央にはクレジット。左右部分には、これまた古めかしい女性のヌード写真がいくつも並ぶ。
 裏にあるイラストは陰茎をカタツムリに模しており、幻想的でおもしろい。

 だが肝心の音はさほどエロティックじゃない。むしろコミカルさが先に立つ。
 ハーシュも控えめで、コラージュが主眼っぽい。
 
 作品自体も40分足らずと短め。
 素材を秋田昌美が録音し(秋田がよくやる「自宅録音」じゃないんだな、これが。なぜだろ)、マイク・パットンが声をオーバーダブ。
 編集はサンフランシスコでアダム・マノー(経歴の詳細は不明)が行った。

 こういう音像やコンセプトを選んだのは、さて誰だろう。 
 聴くほどに、メルツバウの個性が見えなくなってゆく。
 作曲の名義はパットンと秋田の共作だが・・・。

 めまぐるしく変わる音像は退屈しないが、ハーシュを期待すると肩透かし。
 そもそも音の発想からして、この時期のメルツバウとかけ離れてる。
 コラージュ的なアプローチ中心で、人造臭強し。ジョン・ゾーンの音をイメージしたほうが分かりやすい。

 コロコロ変わる場面展開は拡散しすぎ。
 気軽なノイズ作品を求める人にはいいかもしれない。
 全体的に重心が軽く、ポップな印象もあるから。
 
<全曲紹介>

1.Butterfly Kiss(0:30)


 ディズニーかトム&ジェリーあたりのSEを片端からサンプリングして並べたような小品。
 コミカルでおもしろい。ビートが洒落ている。
 起伏もなく、ひと暴れしてあっというまに終わってしまうが、もったいないなー。
 こういう世界観をメインに、一作作ってほしいくらい。

2.Twitch of the Death Nerve(2:17)
 
 ほんのりハーシュっぽさはあるが、まだまだポップさが残ってる。
 前曲の世界観を、ノイズ国へ移したかのよう。
 やはり基調はSEだが、もう少しハードかな。

 これも特に展開はなし。奔放に音像が変化する。
 後半でちょっと静かになり、そのまま軽く騒いでエンディング。
 終了間際で咆えてるのがパットンかな?

3.Homunculus(3:52)

 ダークな世界。鋭く飛び交う電子音の奥で、低い咆哮が音程を変え複数存在する。
 女性っぽいピッチの音もあるが、後ろのハミングらしき声がパットンか。
 
 ノイズのほうは電子音が沸き立つ程度。さほど凶暴さは見せない。
 サイレンっぽく、高く引き伸ばされてきれいだ。
 ラストで女性っぽい声が、頼りなく歌った。
 
 ノイジーではあるものの、サイケに爛れた雰囲気が美しい。

4.Boutique of 7 Taboos (1:04)

 いかにもジョン・ゾーンのコラージュを思い出す曲。秒単位で場面展開あるが、不思議と一本筋が通ってる。
 ギターの引っ掻き音から始まるこの曲は、どうやって作ったろう。
 断片をコンピュータでの編集か。

 メロディや構成はとくにない。変化する音の流れを追ってたら、すぐに終わってしまう。

5.Snuff(3:28)

 じわじわとフェイド・インする電子音。目の前を塗り潰し、不安を煽る。
 ハーシュノイズっぽいが、奥行きがなく薄っぺらい。面白い音像だ。
 
 目の前にある金属板一枚に、極細レーザー光線で抽象画を掘る映像が脳裏に浮かんだ。
 こじんまりとした音像は、およそメルツバウっぽくない。

 派手に音像を変えず、最後はゆっくり収斂した。

6.Baby Powder on Peach Fur(3:37)

 ずしんと打ち鳴らしはすぐさま消えうせ、ハミングする女性コーラスからスラッシュ・ノイズへ。
 これまた秒単位で場面が変わる。
 
 ひとところに立ち止まらぬ意欲は評価するが、小手先じみててつまらない。
 
 ラストのちょこっとした唸りは、ねずみ同士の噂話を又聞きしてるかのよう。

7.She(3:50)


 タイトル曲はコンピュータ処理してるにせよ、コラージュっぽいノイズだ。
 メルツバウらしい電子の嵐が、断続で噴く。
 けれど意気込みが続かないんだよ・・・すぐに低音の呟きに戻ってしまう。
 マイク・パットンか、Adam Munozのセンスだろうな。むー。物足りない。

 もっとも曲の出来は悪くない。メルツバウを意識しなければ、むしろ好き。
 過激さはないけれど。ハーシュとアンビエントが同在するアレンジは面白い。

 エコーたっぷりの女性声っぽい響きが閃く。
 洞窟の奥まで視線を延ばすと、薄汚れた"何か"が唸り蠢く。
  
 最後はカットアウト。
 女性のクスクス笑いが一瞬聴こえ、幕を下ろす。

8.Cherry Blossom Inferno(1:30)

 これまたカットアウト。
 1曲目に世界観が近い。がらがらパーカッシブに複数の音が鳴り、表情はどっかコミカルだ。
 短い曲だが、飽きない。集中力が続く。

9.The Conqueror Worm(2:03)


 小鳥のさえずりが聞こえる牧歌風景に、低音電気ノイズが割り込み、切り裂く。
 男の叫び声っぽい響きはフィルター加工し、片鱗すら残さず。

 メルツバウとは違う価値観で作られてる気がする。でも、これも軽薄で分裂した表情が悪くない。
 しかしなぜこう、頼りないミックスにするんだろう。
 スピーカーの表面で、小手先に遊んでるようだ。

 小鳥の声と完全並存させたら、もっと面白くなったはず。 

10.Bubbble Bath and a Valium(0:44)

 呟き?すすり泣き?紙をくしゃくしゃ丸める?鼻をかむ?
 それとも鼻歌だろうか。

 なんとも形容しがたい音がもそもそ響き、エンディングまぎわにローター音。
 池に叩き落され、カットアウト。
 不条理劇みたいな曲。

11.The White Tears of the Maggot(2:36)


 コラージュが基本だが、他の曲で見られるようなめまぐるしさは、いくぶん抑えめ。
 脈絡なく、電気の抽象音が散発する。
 左右のチャンネルをパンさせたり、片チャンネルで呟いたり。

 思いつきをただ並べているようだ。
 即興性は否定しないが、一本芯の通った主張を内包させて欲しい。

12.Chiffon Lingerie(2:18)

 ガバかハードコア・テクノのようなダンサブルさが仄見えた。
 全拍子打ちでBPMを早くしても、どっか力が抜けてる。

 コラージュをそここに織り込み、音をひとつながりに変容させるテクニックはメルツバウ流儀だ。だけどいまひとつ音像が軽いんだよな。
 
 先入観も期待も何もなし、単なるノイズ作品として聴いたら、まあまあの出来。
 なんかこのアルバムの感想、こんなのばっかりだな・・・。

13.Lullaby (She Who Must Be Obeyed)(8:16)

 位置づけはボーナス・トラックだろうか。
 10秒ほどの空白をおき、数分かけてじわりじわりとボリュームが上がってゆく。

 2分ほど経過して、やっと動きあり。
 ぷつっと一音入るスクラッチノイズが、今の時代では逆に新鮮だ。
 まずは3分あたりでちょっと様子を見て、そのあとでぶぶぶぶっと連打。これには苦笑した。

 金属製の抽象彫刻をさまざまな角度から舐めて映すよう。
 変化がほとんどないにせよ、たっぷりと低音成分を含む。
 安易にアンビエントへ逃がさない。
 この凄みが美しく、すばらしい。

 爆発こそしないが、本作の中でもっとも秋田昌美らしい好作品。
 
 最後の最後でハープがさらりと舞い、爽やかに幕を下ろす。

  (2003.7記)

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