Merzbow Works
Sha Mo 3000 <Essence Music . Brazil>
All music by Masami Akita
ma - computer
guitar & EMS synthesizer
ブラジルからリリースされた、珍しい作品。南米地域で始めて発売された、メルツバウの作品だと思う。
LP時代の見開きジャケットを模した。日本では紙ジャケですでに慣れた形態だが、たしかに海外では特殊ジャケット扱いかもしれないな。
限定900枚のリリース。さらに99セットの限定手作りボックス・セットも存在する。
ボックス・セットは、店頭で見ることすらかなわず。レーベルへのネット注文で、全てはけてしまったかもしれない。
レーベルのHPの説明によれば、さまざまなおまけ付。
2種類の(銀か赤)化粧箱があり、壁掛け用シルクスクリーン、秋田昌美によるサイケ調コラージュの印刷されたカードやステッカー、さらに3インチのCD−R(22分の別テイク)が同梱された。
「小さなページ・メーカー」入りとあるが、これは何をさすのか不明。作るのに数ヶ月かかった、と誇らしげにコメントがあった。
メルツバウの動物シリーズの一環。さらに明確なアニマル・ライツを打ち出した作品だ。
当時、秋田昌美は自身のHPで以下のように本作を語った。ちょっと長いが、貴重な解題であるため、全文を引用する。
『アメリカのイラク攻撃が始まった頃に制作したアルバム。魚雷探知イルカの悲劇をテーマにした曲を収録。ジャケは東京都板橋区こども動物園で飼われていたが殺処分されてしまったシャモがモデル。同施設で飼われていた他のニワトリ類も全て殺処分された。鳥の病気を治すより殺す方が経済的だと皆んな思っているからだ。鳥インフルエンザ騒ぎで虐殺されたニワトリ類たちにこのアルバムを捧げる。』
聴いていても、コンセプトへの押し付けがましさは皆無。純粋にノイズ作品として楽しめる。
しかし勝手な解釈が容易な形態だからこそ、聴き手が自由に味わうからこそ、可能な限り作者からのメッセージや主張は残したいと思う。
レーベルのHPにはSha Mo 3000
のタイトルは「日本の軍鶏と、古いブラジルのサイケ・ロックバンド"Modulo 1000"の名前をあわせた」とある。そうなの?
複雑や混沌でなく、整理された音像を志向した。
手馴れたコンピューター中心のノイズながら、エレキギターのほかに昔馴染みのEMSも取り入れた。
さらに自分の飼うニワトリ、ヨシノ&ヨノスケの声も混ぜている。
ジャケットのイラストやデザインも秋田昌美。クレジットには彼の名前しかない。
総合的にコンセプトを整理し、明確に主張を提示した。
ハーシュ一辺倒でなく、日本情緒を漂わす作品。最後の曲でのひねったギター・ソロが痛快だ。
メルツバウとしては異色な音世界だろう。そのぶん、主義主張が前面に出たというべきか。
今後の動向へも影響を及ぼしかねない、重要作の予感がする。
<全曲紹介>
1. suzunami (2:26)
さまざまな鶏の鳴き声を模した電子ノイズが、地面をついばむ。
あたりは砂地か。きめ細かな広々した世界を素早くカメラが嘗めた。
音はすらりと整理され、最後はすがすがしい一羽の鳴き声だけが残った。
2. sha mo
3000
(19:30)
小さな音から、ビートが立ち上がった。打ち込みながらほんのり日本情緒を漂わす。
いさぎよいハーシュノイズが口火を切り、舞台の始まりを表した。
奥行き深いオーディエンス・ノイズが聴こえる。舞台は静まったまま。
やがて一つの存在が登場した。スポットライトに照らされて、中央で泡立ち光る。
辺りが暗いまま、舞った。きらびやかな裾が、ライトに照らされてきめ細かくはじける。
すっとピントが合った。平太鼓がおごそかに鳴り、風景がひきしまる。
淡々と同じ動きが繰り返された。観客のざわめき。
わずかに軋みながら、胴はくるくると回転。すがすがしい空気が漂った。
電子ノイズはぐっと音数が減り、白っぽい奥行きを見せたまま。
ベールを取る。明確な鶏頭で一啼き。
世界は冒頭へ戻る。どよめきも復活した。
ひしゃげたノイズはさみしさをあおる。
この時点で作品は半分。残り半分は世界観の陰鬱な強調が延々と続き、エレキギターらしき音やハーシュで空間を彩る。
前半部分の清清しさとあまりに対比的な、後半の想いに圧倒された。
世界はすっとフェイド・アウトして終わる。
実際にはメルツバウによる、鶏への思いを込めた曲ではないか。
しかしぼくの脳裏に浮かんだのは、舞いを電子化した、擬似舞台空間だった。
3. ghost hide your eyes(9:00)
タイトルのGhostとは殺処分されたシャモのこと?
前半部分はハムノイズをドローンとして、極端に取捨選択された音世界。
静けさの上でハーシュを漂わせ、凄みを強調した。轟音へ移行する予感を匂わせても、なかなか炸裂まで行かない。
じらすように、広がっては消え去った。
切なげに声の群集が空気を震わせる。怖いほどに。
ハムノイズと電子音で作った寂しい音は、テープ操作か。轟音で聴いたら、そうとうスリルがある。いや、唐突に聴いたら、小さな音でもぞっとした。
やがて電子のざわめきに移行してすら、まだ世界は大きなノイズへ立ち向かわない。
いくたびもカットアップで切り替わった。しかし音種類は整理されている。
轟音にまみれてもメルツバウはストイックだ。
しかし本作ではとても強烈なノイズを、あえて整理する意思を感じた。
4. dreaming k-dog (22:08)
時計のチクタク音がいくつか変調、コラージュされる。
分かりやすいミニマル作品だが、メルツバウとしては珍しい。
ニワトリの声が後ろで聴こえる。トキを告げるニワトリと、時計との対比を狙ったか。
重たいノイズが左チャンネルからかぶさった。エレキギター・・・かな?
時計のベルはチリチリ言う連続音がメインで残り、押しかぶさる低音に軸足を移した。
中央でハーシュが膨らむも、いくぶん遠慮がち。明確にミキシングで音の定位が作られた。
ノイズ仕立ての鳥の声がすらりと登場する辺りから、本曲はがぜんかっこよさを増す。
つねに日本風味の漂いを意識するのは考えすぎ?
あまり展開は無い。前曲同様に同じ地平を映し続ける。ときおり別のノイズが流れるのは、メルツバウ自身が停滞を嫌ったか。
音数が少なく、ミニマル・ノイズの観点から楽しめるかも。
しかし強調される音世界の意思は、相当に強固だ。
あらゆる干渉を必要とせず、ただ静かに世界を映す。
ラスト数分でがらりと風景が変わった。ロックのコラージュをわずか漂わせ、左右チャンネルをふわふわと蠢いた。
きらびやかにハーシュがまぶしく光る。
なぜ唐突に、今までの音世界を振り捨てて、まったく違う世界へ移ったんだろう。
こういう創作のポイントこそ、インタビューで突っ込んで聴いて欲しい。
5. hen's teeth (12:34)
ふっと一秒ほど間をおき、曲が始まる。70年代サイケ・ハードロックを連想した。
ひしゃげた音世界でエレキギターが鳴る。歪んだ音色なのに、むしろクリーンなイメージがした。
リバーブで響かせず、後ろの空間のピントをぼやかせ、奥行きを演出したため。
ドラムは無し。実際には全てが、エレキギターのコンピュータ加工ノイズじゃないかな。
唸るように祈るように音楽が続く。抽象的ながら、親しみやすい。ハーシュの元ネタはエレキギターだしね。
秋田昌美はとんでもなくいろんな音楽を聴いてるようだ。むろん、ロックに限らず。
このギター・サウンドは、なにかのパロディだろうか。ぼくの知識だと、ジミヘンの亡霊をイメージしたくらい。
後ろのギター・ノイズをループさせ、秋田による「ギター・ソロ」がえんえん続く。
ギターソロは生演奏かな・・・いずれにせよロックの文脈で語るなら、とても奇異な構成をとった。サイケ・ロックへのオマージュとも取れる。
途中からノイズ色・・・いや、サイケ色が深まった。エッジはみるみるぼやけ、打ち込みのタム連打がここぞと奥で鳴る。
隣の部屋での轟音へ耳を澄ますような音世界がもどかしい。フィルター処理をかけ、およそ薄っぺらい音像に仕上げた。
なぜあからさまに轟音をぶつけないのかな。
ここでもラスト1分半尺で音世界が変わる。なぜだろう。アイディアへのアプローチに興味がわく。
なお、プレスミスなのかCDプレイヤーとの相性が悪いのか、最後一分ほどは、ぼくのプレイヤーで聴けない。何度試しても、数分前へ飛んでしまう。
どんなノイズがこのあとに、詰まっているんだろう・・・。 (2005.8記)