Merzbow Works
Senmaida (Blossoming Noise:2005)
all music by masami akita
recorded &
mixed at bedroom tokyo may 2005
1000枚限定。初回プレスは"Senmaida"ハガキ付きらしい・・・ぼくが買った盤には付いてなかった。残念。
レーベルHPのレビューを見ると、"Senmaida"とは"千枚の米の田=千米田"の意味らしい。
不勉強で知らなかったが、輪島あたりで行われる、山など狭い土地での段々畑を、千米田というそう。それでジャケ内部が千米田の写真なのか。
外ジャケはVal
Denhamの手による、漫画チックなイラスト。ベッドに縛り付けた人間の目玉へ、兎が注射器を刺す。悲鳴を上げる人間。
動物愛護の観点から、生体実験を皮肉ったか。
ダンサブルさへ徹底的にこだわった作品。ハーシュはあくまで色合いに過ぎない。ビートだけでなく、聴きやすさも意識した気がしてならない。
フロア・テクノとしてキッチリ成立するだけでなく、スピーカー前で聴いても楽しめる。軽やかな音色が次々に登場するため。
シビアなテーマをジャケットで主張するも、音楽そのものは驚くほど聴きやすい。
アニマル・ライツとデジタル・ループとノイズの3要素を取り混ぜた傑作。
<全曲紹介>
1.tract 1 (19:32)
ちょっと抜けた感触のリズム・トラックが、やがてシャープなビートへ変わる。殻がめきめき剥がれた。それすらリズムに解ける。音色は低く構えた・・・
前半はハーシュの要素を後ろに抑え、リズミカルを前面に置いた。
数年前のフリーなノイズから、ここまでメルツバウの立ち位置は変わった。
きっちり4拍子を踏まえ、フロアでも成立しそう。わずかなエッジの汚れ具合に、ノイズの断片あり。インダストリアルでくくるには低音部分が軽い。よりテクノに類した作品だ。
数分たって軽やかなノイズが噴出したとき、辺りを見渡すと全帯域のノイズが溢れてたことに驚く。
すっと音量を下げるノイズ。角がめっきり丸まった殻割れ音へ、低音域をすっぱり切り去ったビートがかぶる。
ビートが消えたときも、テンポはずっと一定。上物が入れ替わりたちかわり、化粧や表情を買えて登場する。
たとえリズムが聴こえていなくとも、裏では常に叩いてた。かといってソウル・ミュージックとの相関はなさそう。
あくまでマシン・ビートへ立脚した作品。一小節をひろびろと取るリズム・パターンではあるが。
かすかな電子音の呟きは、鳥の鳴き声だろうか。
10分を過ぎた頃から、次第にハーシュの成分を前に出してゆく。
漆黒の煙があたりを覆い、視界を隠す。やがて同一の強靭なビートが、中央で諸手を振って刻まれる。
ダンス・ミュージックではリズムが常に明瞭に提示される。その根幹たるビートの色合いを鮮やかに変化させるところが、メルツバウの着眼点だろうか。
16分あたりで、あらたなアクセントがビートに付与された。
テンポは変わらないが、シンプルな四つ打ちが困惑げに立ち尽くす。わななくシンセはテクノの味わいをたっぷり含んだ。
そこからあとは、がらり世界観が変わった。揺らぎは定期ビートなのに、不安をあおる。スペイシーな酩酊へ。
2.tract 2 (18:28)
がふがふと大柄な動物の鼻息がデジタルで表現された。鳥のさざめきを思わせる音も、短いループの連続にて。
コミカルな2種類のリズム・パターンが組み合わせが、4拍子を作った。
じきに一つ、また一つ。音像が登場し厚みを増す。
軽快な高速タム回しは生演奏だろうか。鉄板の上で小さなプラスティック・ボールが飛び跳ねた。
ハーシュが周辺をぐるり囲む。鉄板にはじけ、火花を飛ばして。
ビートは継続しても、前曲よりフリーな印象が強い。ポリリズミックにパターンが乱立するせいか。
基本はデジタル製のはずだが、高速タムのサンプリングがアナログ感を醸した。
いくぶんファンキーさが味わいが加わる。
5分強で一瞬、切り裂かれるノイズの入り方がかっこいい。
その後もぐいぐい揺らがすことで、グルーヴを産む。メルツバウの作品でグルーヴなんて言葉が浮かぶとは。
みるみる戦慄くハーシュ・ノイズが身にまとわれ、サウンドは鋭角にそそり立った。7分50秒あたりのシンセ音は、サンバの香りを付与する。
しだいにサウンドはコンパクトさを強め、中央で身を丸めた。キラキラと輝いて、中央がまばゆく溶ける。
ビートはまだ続く。
中央はゴムのようにねじられ、ダイナミズムを変えて変貌。
13分半あたりの、エコーを効かせたビートが心地よい。
小粒なノイズがしばし続いたあと、ハーシュがめりめりと身体をしぶかせた。
しかし強靭にビートは残る。軽やかに、淡々と・・・刻む。
3.tract 3 (15:48)
冒頭から裏拍を強調したリズム。男のうめき声っぽいノイズが定期的に挿入される。ジャケット・デザインとあわせたか。
ビートはコミカルな響きを組み合わせた。軽快なリズムが苦痛の声と対比する。
おもむろに覆い被さるハーシュ・ノイズ。ここでもリズム・パターンは強靭だ。粘っこいリズムに体が動く。調子っ外れのピアノが二音、三音。
展開はさほど無く、わずかにハーシュの色合いが異なる程度。びしびし打ち込む高いベース音は、まさにテクノ。インダストリアルの色合いが僅かに浮かぶ。
常にユーモアを感じさせる。シリアスなテーマゆえか。タイトにまくし立てる細いシンセが、素晴らしくポップだ。
8分あたりでテンポがじわりと変わった。本盤で唯一の展開がここ。
金物の響きが一息つかせ、ハーシュの轟きを幕開けに、めまぐるしく様々な音色が飛び込んでは次へ譲る。
根本のビートは、かすかに高音クリックが保ち続けた。
轟音ではあるものの、コミカルさを常に意識。
はっと気づくと、男の呻きは2曲目で聴けたアヒルの囀りにシフトした。
人間は消え、野生の世界へ。しかし素材はデジタル。進行も電気仕掛け。
機械仕掛けの自然へ視野が開放され、舞い広がる。
ビートの外枠から皮へ。ビートはぐんぐん細くなり、フェイドアウトしながら霧へ融ける。
(2006.1記)