Merzbow Works

V.A."Release your mind"(1994:Release Entertainment)

 アメリカのレーベルから発売のコンピ。ケースに「80分にもわたる日本のノイズや、ゴシック、デステクノ、パワーエレクトロニクス、インダストリアルやエクスペリメンタル・ミュージック」と書かれたシールが貼られた。
 さらに「数曲ではレベルオーバーで録音されており、レッドブック規格に準拠しない。電源や再生システムに故障が生じても責任をもたない」と言い切る。ピークレベルを超えた録音なのは間違いなかろうが、どこまでこれは洒落なんだろう。
 ちなみにシールには、"でかい音で聞け!"と太ゴチックで表記あることも付記しておく。

 ジャケットは黒地に白い布を振り回したようなピンボケの写真をデザインした。意味は不明だが、上下逆にみると中央右下に二人の人の顔がうっすらと見える。心霊写真みたいな浮かび上がりで。

 不勉強でメルツバウ以外のミュージシャンは初めて聞く。いちおう列挙しておこう。
 Love like blood,Trial of the bow,Fetish 69,Dead World,Malformed earthborn,Pica,Room 101,Red lorry yellow lorry,Dweller on the threshold,Tearbox,Candiru,Nananaxが参加した。
 どういう経歴のミュージシャンなのか、ご存知の方はご教示頂けると幸いです。

 アラブ風のビートが延々と続くTrial of the bowが聴いてて楽しめた。ブラストビートやデステクノは、ちょっと趣味と違う。インダストリアル・ノイズもいまいち単調だ。
 迫りくるインダストリアル・ノイズのCandiruが中ではまし。
 低音が吹きすさぶNananaxの長尺パワー・ノイズの凄みも良い。ちなみにNananaxは「故障保障せず」の一曲。

 ここではメルツバウのみ紹介します。無論、メルツバウのトラックは「再生システムの故障を保障しない」一曲扱い。

<各曲紹介>

5.Crack Groove(5:44)

 おそらく本盤のために提供した未発表曲。この当時はまだアナログ・ノイズか。 冒頭でメタル・パーカッションが打ち鳴らされ、強烈なハーシュが右チャンネルから降りそそいだ。ブラスト・ビートっぽく低い電子ノイズがうなりをあげる。
 ストーリー性は控えめで、闇雲にノイズの嵐が吼えた。うよっと左チャンネルで低音が音程をわずか変えつつうごめき、やがてドローンで漂う。甲高いハーシュと絡み、唐突にカットアウト。

 ブラスト・ビートだけが残った。
 
 一呼吸置いて、再び轟然と各種の激しい貫き。幾筋も上り、揺らめいた。
 ブラスト・ビートが、ぱっと現れて消える。聴きようによってはダンサブルな仕上がり。当時のメルツバウでは珍しいアプローチかも。
 
 ビートや前のめりな勢いはあっても、小節感覚は希薄。
 ある種のうねりに身を任せたら、続いて別のテンポでメタル・パーカッションが響く。おそらくポリリズムが狙いではなく、次々にノイズを押しこめたのでは。

 途中から野太いシンセも体をひねった。
 複数の音像をミックスしたのか。これを一発録音で作れたら、すごいパワーだ。

 息つく間もなく盛り上がり、最後はある種のテンポに収斂する。極太のフィルター・ノイズで高まり、切り落とした。
 襲いかかる生命力が痛快な作品。  (2006.12記)

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