Merzbow Works
Rainbow
Electronics 2 (1996:Dexter's Cigar)
Composed By
[Decomposed], Performer [Bowed Instrumentals, Electronic Shavers, Various
Metals, Transformed Audio Mixer], Tape, Artwork - 秋田昌美
Performer [Bowed
Instrumentals On Live Materials] - Reiko.A
Original sources recorded at
various locations during 1987-1990
Included live recording in Tokyo,
Hertogenbosch, & Numegen
Mixed at ZSF Produkt Studio, August 1990
Re-numbered at ZSF Produkt Studio, January 1996
91年にアルケミーから出た"Rainbow
Electronics"の異mix版。96年に出た本盤は、90年に秋田が再編集した音源となる。"Rainbow
Electronics"は4会場でのライブ音源を73分一本勝負にまとめたが、本盤は逆に全8曲へ解体した。
さらにノイズ一辺倒ではなく、断続的なつまづきを強調した印象あり。
根本のノイズは野太いアナログの轟き。Bowed
Instrumentalsってなんだろう。弓で何かをこすってるのか。金属質な騒音が唸り、噴出する。""Rainbow
Electronics"でクレジット無かったReiko.Aの存在も、あらためて本盤では記された。
http://www.geocities.co.jp/MusicStar-Drum/1400/mzz/m_rainel.html
"Rainbow Electronics"との創作過程は、よくわからない。まず"Rainbow
Electronics"のマスターを作り、それを切り刻む形でミックスか。音そのものはテープ編集風の断続的なノリは無い。むしろライブ会場での各音源をそのまま、無造作に並べた感じ。
場面場面で、くるくるとノイズの表情は変わっていく。逆にのちのメルツバウの得意とするストーリー性ある展開より、短編集っぽいコラージュ的な感触もあり。
<全曲紹介>
1.Untitled 21:42
まず冒頭は長尺気味にたっぷりと。断続のノイズと空白。だがブレイクのたびに現れるのは、毎回違う表情の音だ。ざらつき高音と低音成分をたっぷり含んだ芳醇な音色は、ときに痩せて次には太る。二つとない特異な表面と芯のアナログな響きが、今となっては愛おしい。
この盤はリアルタイムでなく、20年後に聴いている。デジタルの細密で明瞭な響きにすっかり慣れた耳だと、この盤で聴けるヌケの悪い暴れっぱなしのランダム性を持つざわめきが、改めて凄く生々しく響いた。
野太く突き進む音も、一筋縄ではいかぬ揺れ具合。これこそがノイズの迫力であり、魅力だ。ボリュームをがつんと上げて、愛でたくなる。
ゆえにメルツバウの本盤で顕著な、空白とのバーターと極端に潰したボリューム処理を多用するミックス具合が、面白くて興味深い。
パワーノイズにとどまらず、極端に音圧を故意に変え、わざと極端にコントロールした世界を作ることで、無秩序と強圧のはざまを漂う危なっかしさを表現した。
ノービート、ノーループ。極端な場面転換は編集だとしても、テープ・ループは無い。あくまで生々しいノイズの奔流を詰め込んだ。
鋭く尖り、ざらつき空気をすり減らす。ひと時も立ち止まらぬ、多彩な表情のノイズが続いていった。
長尺ならではのスリルが、本曲で味わえる。この盤では比較的短くトラックを切ることで、メリハリある構成を鮮やかに構築した。唯一、20分越えの本曲では変わり続ける混沌が伝わる。
しかし低音成分も芳醇だ。PCオーディオで聴きながら書いてるが、低音が蠢く場面ではノートPCのキーボードが唸るような錯覚すら覚える。すごい。
生音なら、せめてLPなら、もっと身体に溶ける周波数を味わえたろう。
昔にメルツバウのライブへ行って、音圧で息苦しさを感じた。それは録音物では体感できぬ帯域だ。だがCDでこの重みを感じられるとは。
立体的に感じられる瞬間のミックスもかっこいい。
音圧だけなら今のべったりマスタリングされたポップスのほうが、押しつけがましい厚みはある。でも音そのものが持つ太い迫力は、本盤みたいなアナログ・ノイズならでは。
2.Untitled 9:28
リバーブたっぷりに跳ねる、金属質の響き。ハーシュが消えて転げる小粒なメタリック・ノイズの蠢きが、妙に可愛らしい。
やがて音数が増え、シンセの野太い唸りもわずかに足され、音像は複雑に鳴っていく。 終盤はスパッと音が切り替わり、少し震えるフィルター・ノイズに。
3.Untitled 11:30
吹き荒れる凶悪なハーシュ・ノイズの嵐。改めてこの時代の作品を聴くと、アナログならではの線の太さと細部の曖昧さ、幅広い周波数帯の迫力を感じる。
断続的な震えそのものが、生々しく躍動的な脈動だ。
平たく硬くゆるぎなく、硬質な騒音がまっすぐ前へ進んだ。ひらひらと砕片をわずかにちりばめながら。
武骨な剛腕さと、幻想的なスペイシーさが素朴に融合した。
4.Untitled 5:19
吼えて空白、炸裂し無音。断続が冒頭は何度も続き、やがて重厚なノイズの駆動が始まった。だが力技一辺倒でなく、音色そのものも大胆にフィルターをかけ、メリハリを極端に付けた。あえてぐっと表面を潰し、激しいが小さい音色って場面も大胆に使う。
猛烈なハーシュながら、ボリュームを思い切り潰され、矮小された爆発の物足りなさも味あわせる。
だからこそ、炸裂したときの凄みもひときわだが。音数こそ少ないが、数本の電子ノイズで空間を埋め尽くす厚みが格別だ。
とはいえ幾度もカットアップを多用し、単に音圧へ浸らせない。
本盤で最も、派手なばらつきの操作で刺激的なノイズを表した一曲。
5.Untitled 9:54
この曲も冒頭から激しく回転するノイズを出しながら、ぐっと抑えた音色で焦らせる。じわじわとフェイドインし、音圧とつんざきのベールをたくし上げた。
大きく震えるような揺らぎ。うねりながら音圧の表情が変わり続ける。ひと時も立ち止まらず。変貌し続ける平板さと奥深さが交互に顔を出した。
びりびり突き上げる低音と、きめ細かい金属質なざわめきが、空気をけば立たせる。はじける音がリズミカルだがビート的な持続性や規則的な流れは無い。鳴り続け、拍子感なしで進行した。
響きっぱなしでなく、緩急が緩やかに訪れる。意図的かもしれないが、ランダム性もありそうだ。どちらだろう。
いくつもの音が重なり、くっきりしつつ奥深い構造を作った。
終盤でぎらぎらと、薄い鉄板が震えるような響きが鮮烈に聴こえた。
6.Untitled 8:20
金属の獣が吼える。複数頭で。冒頭は息を揃えながらも、まだ激しさは低い。あくまで声の鋭さだけ。断続的なノイズが軋み、重なっていく。
つなぎめ無しで縦の尖ったノイズは、横への回転へ表情を変えた。細かな切れ目ある区切りが、獣の呼吸みたいだ。ごろごろ転がるさまは喉を鳴らすかのよう。
迫力を出しながら、細部は実にきめ細かく砕片に分かれている。
ノイジーだが展開は抑えめ・・・と思った瞬間、鋭く一鳴き。だがまたざらついたドローンの広がりに変貌した。
7.Untitled 6:20
さまざまなフィルター・ノイズ。空気一面を塗りつぶす。小刻みに変化し、彩や厚みが微妙に変わる平坦な風景の切り替わりが刺激的だ。
大きくまとまりサイレンのように中央でうねった。
中盤で大きくカットアップに。ボリュームそのものも大きく上下し、メリハリを付けた。スピードでなく、響きと残響そのもので変化。スピーカーのボリュームを一切弄らないのに、消音から轟音までダイナミックに風景が変わった。
終盤は激しく絞り上げる。
8.Untitled 2:26
アルバム最後は3分弱の小品。冒頭から吹きすさぶ音の中を、くっきり貫く電子音の潔い音像を提示した。猛然と疾走する。力押し一辺倒でなく、周囲がガラガラ変わるさまがかっこいい。
一気にテンションを高め、さまざまな響きが慌ただしく通り過ぎていく。シンプルで痛快な一曲。ノイズならではの爽快感だ。
(2016/4:記)