Merzbow Works

Rattus Rattus (Scarcelight recordings:2005)

All Music by Masami Akita
recorded & mixed at Bedroom, Tokyo 1999/2005

 アメリカのレーベルから発売。LPジャケ風の紙ケースへCDが一枚、無造作に投げ込まれた。
 レーベル自身は03年から活動。いったん06年頃に本レーベルはほぼ活動停止、Lathelight Ltd名義に軸足を移したが、08年頃に復活したようだ。もっともMerzbowの作品は、本作以降09年2月現在まで、新たに発売はされていない。

 ジャケットのデザインも秋田昌美自身か、関係者の作品らしい。レトロで抽象的なコラージュ風のイラストがジャケット。ネズミがデザインされている。動物愛護の観点から、ネズミをテーマと位置づけか。
 タイトルのRattus rattusはクマネズミを指すようだ。

 録音するとすぐにリリースするメルツバウにしては珍しく、本作は1999年ならびに2005年とクレジットされた。99年当時の作品をリミックスしたのか、収録された3曲のうち、どれかは録音年度が古いのか。詳細は不明。
 アルバムを通して聴くと、アイディアに一貫性あるのがわかる。3曲目の最期の5分はちょっと別に感じたが。

<全曲紹介>

1.155(5:37)

 つんのめるように転がる低音のリズミカルなループに、すぐさま数種のハーシュが広がって覆いかぶさった。
 太く幅のある膜みたいなハーシュは停止せずに、ひらひらと舞い続ける。すっと挿入される、短いドリル。矢継ぎ早に音像が変化し、せわしないノイズ。
 冒頭のループだけが、微妙に音色を変えつつ残り続ける。

 きりきりと鋭いノイズに主体が変わった。リズム・ループは骨格だけ残し、背後でそっと存在を主張し続ける。
 中盤では音数がするり整理され、勢いを増す。
 背後にリズム・ループの骸骨を残して。消えたように見せかけ、しぶとく残る。

 終盤は冒頭のめまぐるしさとうっすら変わり、軽やかなハーシュに。
 滑らかにループを消し、ハーシュが辺りを撫でて姿を消す。

2.166(8:10)

 羽虫みたいな電気ノイズが数本、ループしてゆく。パターンを繰り返しつつ、音色は速やかにじわじわと変化。
 息の長い長尺のリフになっている。

 そこへ断続するノイズがのっかり、リフは寸断されカット・インした。
 前曲の流れる一貫性とは間逆なパターンのアプローチ。DJ的な印象を受けた。
 幾つかのアイディアが無造作に投げ込まれる。

 3分辺りで単一のノイズが、きゅうっと伸びる瞬間がかっこいい。
 改めて同種のハーシュがまとわりつき、次第に深さを増した。
 このパターンもループされ、第二弾の長尺リフに。
 また新しい音色が、上にかぶさっていった。

 明確なリズム・パターンは準備せず、リフのループでグルーヴを作るアレンジ。 
 単一ループで押し通さず、じっくり聴かせながらも種々に表現を変えるさまがメルツバウらしい。
 8分程度の短い時間で、アイディアを凝縮した。

3.Rattus Rattus Suite(36:55)

 前2曲の集大成か。リズム・パターンが冒頭に出て、カットインのハーシュと重なった。
 ノイズの音色に軽みあって、キュート。ネズミの素早さをハーシュで模したか。
 ちょこまかと動き続け、立ち止まる隙を見せない。低周波数をさほど強調せず、賑やかなサウンドに仕上げた辺りも意図か。
 ループとカットイン、音色の変化。そして鋭いハーシュの挿入。幾つかの要素を絡め、すっきりドラマティックに仕上げた。

 インダストリアルなアプローチもそこかしこで見られるが、音色の軽快さで重厚さと逆ベクトルを志向する。
 浮かんだイメージは家内制手工業ノイズ。素早くネズミは幾匹も走り抜けた。
 齧り、咥えて持ってゆき、齧る。
 世界はミリミリと音を立て、ぎざぎざになった。

 ときおり現れる太い音も、きめ細かな色合いにたちまち変わる。
 灯台みたいに光るノイズは、冷静に姿をときおり現した。

 15分辺りで音像は骨太に変化した。シンプルに宙へ力強く立ち上る。
 電気仕掛けのネズミは一瞬襲い掛かったが、すぐに弾き飛ばされた。
 野太く吼えるノイズ。
 細密世界へ誘うべく、改めて多数のハーシュが襲い掛かった。簡単には倒れぬ。しかし太さは若干減じたか。

 太さと細密。互いのカットアップと重ねでせめぎあう。優勢はやはり細密か。
 バトルめいた構造でも、悲壮さや暴力性は無い。ノイズ作品ながら軽やかなつくりで、純粋に表現した。
 異なる立場が主張し合い、変化する。力づくで明確に一方へひきつけず、むしろ議論でじわじわ立ち位置が変わるさまを描いたように感じた。
 
 いつしかスピードは落ちて、断片も粉砕。寂寞さが漂った。
 世界はぐんっと遠くまで見晴らしよくなり、すり潰し破砕だけが手前で続く。
 短いループを横でまわすため、インダストリアル要素も若干あり。いわば、コンベア・ハーシュ。

 次第に力を弱め消えてゆく一方、エンディングは新たに華やかなノイズが数本そそりたち、押し迫り去ってゆく。急遽静かに。砕片が転がる。
 吹き荒ぶ断片。終焉へ。
 最期の5分ほどで豪快に、異なる世界を垣間見た感あり。          (2009.3記)

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